番外編2 子龍の学生時代の思い出 ⑥
ーーーーー気がつくと、子龍は自室ベッドの上だった。
子龍は数日学園を欠席、心身の疲労が余りにも酷く、とどのつまり通夜のみ暇乞いが出来たもののーーーー
大切な「先生」の本葬には残念ながら参列すら、かなわなかった。
子龍に対する父の怒りも大きくーーー
「例えお前が元気でも、あの夜の父様の激昂する御様子ではね、多分ーーーー
”最後の本当のお別れ”
癇癪起こして認めなかっただろうと思う」
哲は最愛の弟に、本当に申し訳なさそうに平謝りで謝った。
尚ーーー彼女の葬られた墓標が何所にあるかも秘されたままだった。
父親からの厳命で、子龍を心より溺愛する哲でさえも彼女の霊園の位置ですら厳重な口止めがなされており、口外は固く禁止されていた。
そうーーーーそこまで徹底的に凍える厳しい処置が取られてしまい、子龍の初恋は跡形も無く、”完璧に終わってしまった” のである。
それ程、子龍に対する処罰感情、父親の怒りは常軌を逸する程に激烈だったと言えた。
子龍はーーーもうーーーー何もかも、どうでも良かった。
全ては夢のように消えてしまったのだ
捨て鉢になったーーー抜け殻の自分の側には純粋に愛したあの人はもういない。
オロオロと……!
「本当に済まなかった」ーーーと!
ベッドに屍のように横たわる最愛の弟につきそう心優しき兄、哲は本気で心配し謝まるばかり。
「お前1人であの人に向き合わせるんじゃ無かったよ……
こんな事になるならーーー読みが甘かった、すまない、本当に悪かった」
「……」
「父さん〜あの人も突然の不幸でかなりのショックで、きっと感情任せに酷いことばっかり色々!、言いたい放題だったと思うけど??
『先生』は〜〜確実に父さんに愛されてたよ?!
うん〜そうなんだよ……
今は信じられないと思うけどさ?
でもね、少なくとも大切にされてた。
〜〜あの子、いつ会っても嬉しそうだったよ……!
〜普段気難しい父様もね、あの子と居るときだけは穏やかに、落ちついて幸せそうな顔をしてた」
「そう」
「ぅん……『好き』じゃ無けりゃ、男はあんな安心した表情浮かべないよ?
兄さんはさ〜……『言葉』で無くって、人がどんな風に動いたか〜
何したか?って言う〜『行動の方』を信じてるからね?
ほらさっ!
男は本音を中々言わないからさーーー
口先では何とでも言えるし?ーーーそうだろ子龍?」
……哲兄の嘘つき、本当は何もかも知ってるくせにっ!!
子龍は意地悪な気分になる、ムラムラと凶悪な心が弾ける。
「……聞いていい?哲兄、でも〜絶対ーーー嘘つかず本当のこと教えて?」
「いいよ! 何かなっっ?」
漸く口を開いた弟に 嬉しそう〜に、パァ〜ッとウキウキした声の優しい弟思いの長兄に、何もうつさない眼と乾いた声で真実を尋ねるのだ。
傷つけられた弟はハッキリ 容赦なく切り込む。
「ねぇ哲兄、『素材』ってーーー何?
『先生』の事ーーー父様は ”イチから仕込んだ芸術品だ”〜って言ってたんだ」
「!!」
「答えて」
「父さんはーーーーそんな事を??」
子龍はーーー……
万能の頼れる優しい兄が、予想外の問いかけに、思わずハッと絶句、息を飲んだ音を確かにその耳で聞く。
ーーーそれが全ての答えだと感じ取る。
『〜そっか……』
ーーーあ〜そういう事なんだーーーと、淡々と乾ききった、死んだ心の中で納得し確証を得る。
「うん、それに他〜にも、凄く気になることを言ってた」
「……っそれって……どんな?……」
「私の掌中の宝物〜 ーーー賢い哲…… そう言ってた」
「……」
「ひょっとして〜ーーー哲兄も、一緒なの?
あの人にとって、『素材』なの?
『イチから仕込んだ芸術品』ーーーなの?……」
「ーーーーー」
哲はゆっくりとーーーバツが悪そうに、答えにくい事柄を直球で問い詰める弟からフラフラ視線をそらしてしまった。
アイツをーーー残りの一生……
父様とだなんて、金輪際二度と言うか!
困り果て、答えに窮し、口ごもる優しい長兄を子龍は更に追い詰める。
「それはーーーーー」
「ねぇーー〜ーまるでーーー洗脳もどきだよねぇ?
そんな酷い事することが、自分を心から信じてる相手を ”騙す事” が
『愛してる』っていう事なの?
〜大人の人にとって、そんなのは当然なの?
信頼を裏切るだなんて全然平気な事なの?!」
「……子龍……」
「だったら……大人になんかなりたくない……
あの男の言う大人の男になんて絶対にならない……っ……!」
子龍の、何もうつさない、ポッカリと空く無感動の瞳にじわり涙が浮かぶ。
ただ見開いた目尻から後から後からーーー雫となって零れ落ちる。
幾筋もスーッと伝い、柔らかな頬をひたひたに濡らした。
子龍は、涙の海に沈んだ。
『お前が喰い殺したんだ』
「ホントその通りだよなぁ……」クッソッーーー……!
子龍はその後、家に勤務する人々の、心よりの
「お少しでも食べて下さい!!」
悲鳴の如くに切々と懇願するどんな言葉もまるで聞かなくなる。
子龍はベッドの中で悶々と、何をするでもなく芋虫のようにゴロゴロ転がる。
当然 連日の学園からの誘いも無視
「ーーたく〜……! 学校来い来い来い来い、五月蠅いんだよーー!」
俺なんかほっといてくれ!
子龍は自慢の美しい艶々サラサラな髪も、ぐちょぐちょで構わず、ブーッと引き籠もり完全にふて腐れていた。
ーーー正に ”その時” である
いきなり気配も何もなく、バチコンッッ!!……
思いっきり寝具の上からグーで殴られたのである。
ギャッツ!!
「〜!〜!〜!〜いってぇ〜…… ダ〜ッッ〜〜〜何すんだよ!!」
子龍は思わずガバッと脊髄反射で跳ね起きるのだったが
ーーーてっきり ”哲の弟”〜
要するに、自分にとって、兄……の ”誰か” が。
総領息子の哲の命令で緊急帰国!
「ブラジルか? ネオアメリカか? 英国か?」
ーーー完全失恋し、不甲斐ない弟を テイッ〜ッッ!!
スポーツ留学しているアメフトやサッカーで、力自慢で足癖の悪いどいつかや。
或いは何時間走っても全くへこたれないランナーズハイの誰かがやって来て、イライラッ……暴力行為で鉄拳制裁。
言う事を全然聞かない、彼らが神の如しに尊敬するキラッキラの長兄の手に負えない、ロクデナシの末の反抗期の弟を、暑苦しい剥き出しの正義感と共にどつき倒しに来たのか?
ーーーと、子龍は身に覚えが沢山過ぎる程ある分、そんなふうに思ったのだ。
優しい哲はこういう事を自分に絶対にしないという奇妙な自惚れ、絶対的自信があったのだ。
「こんにちは♡ カフカの『虫』く〜〜ん? お加減いかが〜〜〜!」
「オイコラーーーーなんでお前が居るんだよ?!」
そこには全くの、予想外すぎる人物が立っていた。
「〜〜〜〜っっ、なんでお前〜〜〜??」
そうだーーーよりにもよって、今現在、1番無視したい奴がいたのだ。
子龍の部屋の大きなベッド脇に、不敵な笑みをこぼす彼女ーーー!
クラスでも身長が小柄な部類の玉蘭が、ヌオオォ〜、足を拡げ、スックと仁王立ちでニヤニヤ〜
デカイーーー やさぐれ芋虫を見下ろしていた。




