終章 ②
子龍は昏く嗤う。
「そうだ……
ええ、城主、貴女は『彼の様子を定時連絡するよう』〜
間諜ーーーー
彼の元に『スパイとして送り込んだ』のも忘れてはいませんよ?
全く……!!それなのに貴女はーーーー!!
いいですか??信繁はーーーーーー!!
常人だったらとうに精神破壊されている重圧に、たまたま武道の鍛錬で鍛え上げられた鎧になる精神力があるからこそ!
必死に 辛うじて耐えているというのにーーーーこのざまですか!!
はぁっっ? それにのっかり
ーーーー俺の大切な親友を壊す気ですか!!」
「親友……ねぇ。
スパイ君がーーーミイラ取りがミイラになったって訳よね? えぇ感心感心」
「何をいうんですか、元々そこまでの深いレベルでそれを要求、望んだのは貴女の方でしょう?」
フンッと 唇を歪め、子龍は壮絶な笑みを浮かべた。
「本来勘のいい警戒心の強いアイツがーーー
そうでない状態の人間を自分の側に寄せ、易々と心を開くはずなど無いのはお判りの筈ですね?
今更ですよ……!!」
「彼の明るい人懐っこさは、本心を見せない一種の擬態だからね。
さすが厳しい英才教育を幼児の頃より叩き込まれた巨大企業グループ創業家の御曹司、といったところでしょうね」
「確かに俺は今でも、貴女の子飼いの間諜ですが?
でもねーーーアイツが俺以外の人間を『親友』など、クッソふざけた事ほざいたら容赦なく俺の手でぶっ飛ばしますよ?
どれだけ今までーーー長い間、ハラハラ危なっかしいヤツの心配をしてきたか」
「まぁーーーーそうでしょうね」 城主も頷く。
『そうだ、同期の子龍はーーーー
普段軽口と減らず口で 信繁に頻繁にたしなめられているわ?
でもーーー茶化しながらも。
実は子龍は細かい目配りと配慮で何時も何時だって信繁をキチンと支えて居てくれてる』
子龍は今では本当のーーーー信繁の真の友人として。
その事を 城主は確かに知っていた。
「最近信繁はあまり夜も眠っていないようです。
長いつきあいですからーーー見ればわかります。
どうしてーーーーー貴女はーーーーー
自分に本気で惚れていると知っている『男』に。
ーーーよりにもよってーーーあんな残酷で過酷な役目を負わせたんです??
人の心を持たないんですかね、 貴女は?
いいですか??
このままでは、あいつは本当に壊れてーーー参ってしまいますよ?」
そこまで淫靡に昏く言うーーーーーと、スッと大股で 出入り口に近づいた。
固く扉を閉じていた防音機能を持つ執務室のドアを薄く開き、ドアストッパーを薄く噛ませる。
『・・・・・・・・』
「あのねぇ……彼の今の状態は、班員としてもリーダーを心配してるんですよ?
『信繁班』の……俺達でも支えますが、城主からもーーー信繁に対し!!
必ず何かキチンと責任取って何とかして下さい!!」
先程とは若干ニュアンスを変えて、子龍は彼女に 一気に畳み掛けた。
『ワザと聞かせたーーーーかぁ。
今の部分だけーーー秘書室に筒抜けだわね……』
城主は今回も子龍の 鮮やかでいつだってそつの無い手法に舌を巻く。
小さな「本当」で、大きな嘘を隠蔽、いかにもな無理のない上書きをほどこしたのだ。
ーーーこうすれば、「友達想いの彼」が、人使いの荒い城主の扱いについて、単純に酷い酷いと直訴したように 誰にだってその様に聞こえるだろう。
子龍はニヤリと最後に毒々しく笑い。
突如ーーーーー
執務室デスクの彼女に 長身の身を城主の顔スレスレまで乗り出す。
スウッと目が細められ黒髪の左右対称、悪魔の様に完璧に整う顔がキスが出来そうな距離まで寄せられる。
ーーーーー微かにネロリの香、芳しい吐息がかかる。
「これ以上 『俺の親友に』……変なチョッカイを出すのは勘弁して下さい」
スッと 音もなく身が離れるとーーーーー
「失礼しました!!! 」
全く何事とも無かった様に、急に声色がいつもの明るい様子にチェンジする。
そのままツカツカ歩き去り、凄い勢いでバーーーーンと壊れそうな勢いでドアを閉める。
ーーーー雷の如く、激しくスパークする怒りをまき散らし子龍は去って行った。
正に、人に姿を変えて降臨した荒ぶる龍神だった。
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しかしーーーーー全て、子龍の言うとおりだった。
項垂れるしか無かった。
城主は口火を切った。
「今晩は後の月 (のちのつき)でしょ? 」
「???なんですかそれ」
城主はハーーーーッと溜息をついた。
「フレイヤ王女様が、シャトルでスペースコロニーに出発なされた夜は、丁度、中秋の名月ーーー!
大昔のジャパンの暦・陰暦〜つまり旧暦で言うところの8月15日だったの。
まるで『竹取物語』……かぐや姫みたいね。
平安の昔からこの時期は、1年中で最も空気が澄み渡り、夜半の月光が 万物を美しく照らし出す季節とされてきたのよ?
中秋の名月はジャパンで一番美しいとされるーーー殆ど真円の月、特別な満月。
そして今晩は 十三夜とよばれる月夜よ?
古代の暦、旧暦で数えて9月13日。
後世に永く用いられた西暦の新暦では10月13日。
『十三夜』はねーーーーー満月の次に素晴らしく美しい月なの」
『ああ……だから。
あの夜は特にーーーー月の光が冴え冴え輝き渡り美しかったのか……』
信繁は記憶を手繰り寄せて初めて納得した。
城主は 長い髪をなぜながら話を先に進めた。
「実はねーーー
十五夜に月見をしたら、十三夜にも必ず同じ様に見ないとねーーーー
『片月見』……とか『片見月』なんていって。
ーーーーー縁起がよくない〜と、されているのよ。
『かたみ』って嫌な言葉でしょ??、まっ、言葉遊びみたいなものだけど!
だから、王女様の救出計画に参加した全員で、不夜城の研究員と白龍と飼育員も混ぜてね?
フレイヤ王女様のご多幸を願ってーーーーー
ジャーン両方の、2夜の月を愛でる『お月見』、観月会を 皆でしませんか?
勿論ーーーー月見団子その他〜
美味しい料理や御神酒はね、全て、こちらで用意致しますから!!」
城主は そうニッコリ付け加える。
「片月見、片見月、そんな話、俺は初めて聞きました」
「・・・・・・・・」
信繁の返事に、はああああーーーーっと深い溜息をつくと、城主はグンニャリとデスクに突っ伏してしまう。
「ーーー全く今の若い人は。
ほんっと……なあんにもっっ!! 知らないんだから。
そりゃあ、伝統行事が廃れるはずよね〜〜〜〜!
つっーーまん、なーーーいっ!!」
城主はジャパンの、可愛らしい女子高校生にしか見えない可憐な姿で、尚もブツブツあれこれ怒った。
『今の若い人……』
信繁はギャンギャン怒りまくりなその姿を見て思わず、ぷっと笑いがこみ上げてしまった。
『……多分
この滅茶苦茶な人なりにーーーーー
部下の自分に 相当気をつかってくれているのだ』
久々にーーーー少し穏やかな気分になった。
「では早速皆の予定を調整します、失礼致しましたーーー」
信繁は 礼儀正しく静かに足音もなく、執務室を退出した。




