月光 ②
突然ーーーーーーーー!!
柔らかいが、その場によく通る高い声。
雅はショートカットの美少女にしか見えないその容姿で、ジャパン政府の派遣した輸送スタッフ陣にむけて、凜とした態度で発言し始めた。
彼の そのピンと真っ直ぐな姿勢は、実際の身長よりも 悠に大きく見えた。
医療スタッフとその場に居た人間は皆、雅が、全身から発する渾身の気迫に思わず息を呑み圧倒される。
そしてまた、付き添う護衛官達は「コイツは一体全体何を言うんだ?」と、一斉にいぶかしげに彼の方に振り向いた。
雅は丁寧な口調だがーーーー
『拒否・拒絶』を絶対に認めない、圧倒的な、押しの強さを感じさせる語彙で尚も語り続けて切々と、年上の大人達にこう訴えたのである。
「私たちはこの数ヶ月、フレイヤ王女殿下様の護衛隊員として働きました。
ですからーーー今1言、心よりのお別れのご挨拶を。
最後に我々からのはなむけとして、フレイヤ王女殿下様にお伝えしたいのです。
身分が違う贅沢な願いで、我々にはそれは許され無い事なのでしょうか?
私も某収容施設に奉職する職員故に、もう2度とーーー、一生、お優しい王女様と直接お会いすることは今後、絶対にかないません。
どうかーーーお願い致します、このとおりです。
この国での思い出として、お別れとしての最後のお願いとして何卒聞いていただけないでしょうか??
どうぞよろしくお願い致します」
雅の切々とした正直な話術は、その場の関係者の心を激しく掻き乱したが、生憎受け入れる権限を持っていない。
「そうだなぁーーーー」
「そうよねぇ」
「確かにーーーーーこの子の言い分に 利があるわね」
「何とかならない?」
「ちょっとでしょ?? 時間」
ガヤガヤと、どうしようかと思わず皆 顔を見合わせる。
雅はーーーその動揺する様子をジッと観察、見つめていると頃合いを見て
「どうか宜しくお願いします!!」
ニコッとーーーー!!
思わず誰もがうっかり微笑み返しそうになる、得意の天使の微笑みを最後にダメ押しとばかりに頬に浮かべた。
子龍は全てのそれらを側で見ていて笑いが止まらなかった。
『出たっ!〜こいつの必殺技!!』
〜〜〜〜大体、技術職のオマエ、職制が違うからフレイヤ王女様の病室の防衛の警護自体、一度だってした事ないだろ?
ーーーそれなのにまあ、大胆によく大ボラの嘘言うよなぁ?
でも、まっいっかーーーー♪」
子龍には雅の、渾身の、彼の真意が即座に理解出来たのだ。
『ーーーー信繁の為だな??
ははぁ、さっきの俺達の不毛の会話、コイツ耳ざとく聞いてたんだろ。
さっすが雅〜〜〜〜! お前でかしたぞ!!』
子龍は心の中『よっしゃーっ!』と力強くVサインをする。
「私からもお願い致します。
我々の、今後への激励の言葉を是非にフレイヤ王女殿下にお伝えしたいと思います」
身長180半ば以上で上背のある子龍は、役職としては彼よりも遥かに高位の人物だと、剣呑な瞳で圧をかけて威嚇する仰々しい護衛達にあえて見せつけつつ発言する。
副操縦士の子龍は、グイッと身を乗り出すように、先輩格であり責任者のひとりとしての貫禄を示し、自分よりもうんと背の低い雅をまるで大切な姫君を守る騎士かの様に、するりと前に身体を割り込ませた。
その様子に発射基地に詰める護衛官達は流石に、「これは!」と、どうやら考えを軌道修正し始めた様子に二人には察せられ、そのまま堂々待機する。
フレイヤ王女とさほど変わらない年格好に見える若い隊員の言い分。
先程降り立ったばかりの特殊ヘリからやって来た、主導権を持つらしき極秘収容施設・特殊部隊隊員の口添え。
『コイツ何者なんだ?!』
「コクピット」から降りたと思しき、異様な圧を放つ見るからにな風情の男は、明らかにこのグループを陰で牛耳る重鎮なのであろうと素性を直ぐに察する。
『敵に回すと厄介だな』
とはいえ、彼らも能力が極めて優秀が故に男の完全縦社会に生きる立場、そう簡単に安易には個人的情で動けはしないのだ。
『それはまぁ、彼らには彼らの 事情があるのだろう』
『第一!ーーー何よりも。
特殊部隊精鋭の彼らの、裏方としての英雄的命懸けの働きがあったこそ、現在フレイヤ王女殿下の御身が ご息災でいらっしゃられるのだ。
文句ばかり並べ立てる、無為に雁首揃えた我々では、姫君をお守りする事かなわず、こうはいかなかっただろう』
両者の言い分ーーーそれも宜なるかなと、事実男達も密やかに考えてはいた。
ーーーーーーと、その時だった。
まさに 鶴の一声。
「よしわかった」
シンーーー 一瞬でガヤガヤがピタリと収まった。
「では10分だけだ」
朗々と暗闇に良く響き渡る美声を突如発した主。
護衛官達の中にて、ずっと無言で佇んでいた常装の制服では無い、ビシッと輝かしい見事な礼装の男性。
〜立派な飾緒を片口から胸元にかけて数本着装、見るからにトップ然の容貌。
顔つきが厳めしい、たとえ言葉少なでも只事ない存在感を全身より放射する、それなりの年かさに見える。
「君達はあの絶体絶命の状況で、素晴らしき働きをしてくれた。
国防を代表し、其方達に礼を言う。
ーーーー本当に良くやった、君達は国の誇りだ」
その男性は、なにやら追いすがりブツブツと小言めいた文句を言いそうな、面倒に見える取り巻きの側近達に対し、サッと軽く手を振り気勢を封ずる
「有り難うございます」
ビシッと最敬礼で雅と子龍、及び、新たに瞬時に整列、直線に並び直した信繁班全員で彼等に頭を下げた。
子龍達にとって雅が何故、敢えて「ウソをついた」かは明々白々な事で。
信繁班 班員メンバーは、各々ストレッチャーに横たわるフレイヤに対して
ーーーー極短く
彼らなりの自分の言葉にて「別れの挨拶」を済ませると、全員で、列の最後方に佇んでいた信繁を。
ここまで必死に彼女のためを思い、命懸けで体を張った班長をグイッと!!
フレイヤの横たわる ストレッチャー前に無言で〜
或いは小声と忍び笑い付きで押し出した。




