流星 ⑤
「じゃぁ私も行かなくてはね」
「後は任せて下さい」
作戦会議後〜信繁が執務室を出ると直ぐに城主はベテラン秘書にニッコリ微笑むと、自分も出撃の準備を粛々と行うのだった。
自らが居ない間の指示出し、各所に様々な連絡をし、するべき事が終了するとそこで漸く白龍の飼育ゾーンに向かった。
装備品がそろえられた専用のルームで、耐Gの為の重力や気圧対応の特殊スーツを研究員に手伝われながら着込んでゆく。
「これは新開発のバトルスーツです。
全てモニタリングしていますので、白龍と存分に活動して下さい」
計器を見ながら数人がかりで着付けを手伝う研究員らは、城主にそう話しかけ細かく設定と調整を行ってゆく。
「わかったわ、瑠架、私はデータ取りのモルモットって訳ね」
「そうともいいますね」
「はっきり言うわね!」
「誤魔化しても事実は変わりませんので。
取りあえず死なずに戻ってらして下さい。
外部にそれが流出したら こちらも困りますので。
でなければボディ〜死体になってても構いません、大目に見ましょう」
言いたい放題ーーーーー!!
上官であり、また友人である 城総責任者の彼女にそう言うと、様々なこうした装備や兵器を開発する研究室の主任〜
ーーー通称「不夜城」のヌシーーーー
「天才瑠架様」は悪びれも無く爽やかにニコリと微笑みかけた。
そんなこんなの強烈なやり取りの後、信繁班が『城』を出発するとほぼ同時刻に彼女も最強のクリーチャー「龍」と共に、白龍を扱える只一人の騎手として出撃した。
黒龍・白龍を代表する怪物達は、城防衛における生きた究極の秘密兵器。
龍達は変温動物であるが、ほぼ年中体調は変わらず体温は36~37度、よって温度による熱源追尾装置付きミサイルを無力化できる。
直接上空へ飛翔能力がある為、航空機につきものの滑走路は不要。
晴れた日・月夜の『白龍』の飛翔は言葉に表現出来ないほど美しい。
「大昔は鱗が蜜柑色〜オレンジ色の、可愛い『緋龍』も居たわね。
もう お星様になってしまったけどーーーー」
鱗の研究開発の過程で鱗は蜜柑色から、その後ブラックか、カラーレスの無色へと変わっていった。
色味は空気中に窒素があったから着色されたのである。
今は亡き緋龍もーーーその後生まれた白龍も、色が違うだけで形状はほぼ同じタイプの見た目なことを城主は懐かしがる。
キラキラ蜜柑色と虹色を混ぜた、類まれな色彩を纏い飛翔する姿形はそれはもぅ見事で、特に日光や月光の中では光を吸収し反射し、精霊の如しで素晴らしかった。
眩しすぎて、誰もが有視界での射撃の狙いが定まらない。
実際 これも本当に好都合だった。
鱗の最強の強度故に銃撃のたぐいは一切効かない。
極めつけにステルス機能を持つ特殊溶剤を塗布されている為レーダーすら彼等は拡散させる。
白龍の尾の先に植わった鱗と同じ素材の沢山の棘は、一撃のもと最新型宇宙戦闘艦の装甲をも 軽々薄紙を破る様に破壊する事が出来る。
つまりーーーーー彼らとほんの少しの接触でも、武装飛行艇や戦闘機の ぶ厚い特殊装甲がバラバラになるのだ。
気難しく繊細な気性の龍の騎手は、何度誰と試してみても城主以外務まらない。
今回の『作戦』で知能が高い白龍は、自らの愛する美しい主人の指示を忠実に守った。
特殊部隊の精鋭・信繁班との打ち合わせ通りの、トーキョー湾海上の仕掛けられた防衛ラインで
ーーーじっと「その時」をーーーー自らが活躍する時を待ち続けた。
これらは非常に独特の心的タフさ、傾向がなければ不可能な事だった。
襲撃〜反撃のベストタイミングは、息を潜め闇に溶けーーーーー
長い長い気の遠くなる「待ち」の、監視時間の中に、ほんの針の先程の 一瞬にしか訪れない。
千載一遇の絶好の瞬間を逃さないために、1人と1頭は強靱な集中力を維持しながら、じっと。
ーーーーひたすら待ち耐える。
通常、城主と龍とで 待ち伏せ〜隠密の作戦行動は行われる。
絶好の攻撃ポイントを確保・確保するのに大変な労力を要し、さらに潜み
〜場合によっては何時間も待ち続ける。
ひたすらモチベーションを維持しながら待つ。
彼等のアタックの成功は、永遠とも思える 孤独に耐え抜きーーーー
極めて強固な、壮絶な意思と忍耐力を有するからこそ達成される、完璧な作戦行為である。
こうして「今回」もーーーーーー!!
ーーー彼女が手綱を握る、荒ぶる気性の白龍が急襲。
待ち伏せ作戦に不意を突かれた、正体不明・国籍不明の 謎の戦闘機
姿が見えない実験機を射程内に収めんと、悪鬼の如く追うレーダーのみで暗闇を追撃する異様な航空機は、あえなくトーキョー湾の藻屑と消えた。
「よくやったわね。」
白龍に乗り、波にチャプチャプユラユラ揺れながら、城主は頭上に輝く満月を見つめる。
「ねぇ白龍、今夜はお月様が綺麗よ?
ーーーーお前も月光でとっても美しかったわよ♡」
ウフッと微笑みかけられ、白龍も長い繊細なヒゲをヒュンっと クルクル回す。
こうした行為をするときは決まってご機嫌な時だ。
「そっかぁーーーお前は賢いから。
月が美しいって思う風流な気持ちがわかるのね♪」
白龍に乗りーーー海上で優雅にプカプカ浮かびながら、城主はご褒美に金色の目を細めた白龍の頭をヨシヨシとなぜて、龍が気持ちが良い場所も触れてみる
龍が掻かれるのが好きなポイント〜
立派な2本の角の後ろを、グローブを嵌めた指先を揃え、優しくサリサリ掻いてあげると特に嬉しがるのである。
「んーーーーここはどうかしら?」
グルウウウウウウウ〜〜〜〜〜〜〜
「じゃぁこっちかな?」
フゥゥゥゥゥ・・・・・・
余程 指先の細やかな動きが気持ちがいいのか、白龍は親愛の印に グルグルと甘えた声で猫のように喉を鳴らす。
「じゃぁ、お楽しみの オ・ヤ・ツ・よ〜〜〜〜
戻ったらもっとあるわよ?
でもーーーきちんと食べた後 歯を磨いてね?」
グルルルルゥ〜〜〜〜〜〜〜
「ほら嫌がらない!!」
フゥゥゥゥゥ・・・・・・
「わかったよ」
白龍がそう言ったのだと、いつだって一心同体の城主にはそれがわかるのだ。
「いい子ね」
再び頭を優しく撫でてやった。
城主はウエストポーチから出した、防水性抜群の密閉パックをペリペリ開けて〜
白龍の大好物の 鯛のすり身製の高級竹輪と、あらかじめ中身を包む包装を剥いておいた桜色の魚肉ソーセージを 数にすると何袋分かをユックリ与えた。
白龍は実に美味しそうに、それらを全部、長いヒゲをクルクルさせながらパクパクと食べるのだった。
「私もお腹すいたわ・・・・・・あ〜〜〜白龍はいいわね〜〜〜〜
あんな大っきい 甘いクッキーが食べたいわーーー」
「騎手」は馬でも龍でも軽量化が必須である。
城主は恨めしげにそう言いながら、天空にかかる冴え冴えと輝く蕩ける檸檬色の月を見つめていた。




