流星 ③
ヘリの致命的欠点、それはスピードが固定翼機よりも遅い事。
特に、音速を軽々超える戦闘機に比べて、実戦で遙かに劣ること。
それから防御機能が、どうしようも無く脆弱な点。
巨大なメインローター・尾翼部分にあるテールローターどちらか片方だけでもミサイル攻撃で破損したら、忽ちの内に飛行不能〜墜落する。
『〜それはこの機で無く、完全武装の優れた戦闘ヘリでも同じ事!!
あと30秒も経たない内に、私達は撃墜されるのだ』
フレイヤは 思わず周囲をグルリと見回すのだが。
〜しかし奇妙な程、機内は強い緊張感はあるものの、想定内と言わんばかりに平然と落ち着いているのが不思議に見える。
『何かーーー策があるの?!』
フレイヤは想うーーーー
回転翼機ーーーヘリは、小型〜
一般的にイメージするタイプは時速200km以上〜360km程の、大体300km前後が 通常の全速力のスピードと言われている。
『流石に機種によっては 400近く出るものもあるけど、そんなところよね』
勿論 軍事用攻撃ヘリの例外的機種には、そんなんじゃ やっれられない!と、400を越えるモノもある。
実際 非公式技術試験機による記録で、時速約418kmという怪物的記録があるにはある。
しかし戦闘機と違い構造的に回転翼機は 殆ど音速は超えられないのだ。
飛べる距離ーーー飛行距離も翼を持つ一般的固定翼機よりも多いとは言えない。
この欠点を克服、かつ最大の利点である「垂直離着陸」〜
固定翼機が絶対に必要な滑走路を不要とする、新しい発想が必然的に生まれた。
ティルトローター機・ティルトウィング機である。
ティルトとはこの特殊な航空機の行う離着陸時の方法の、傾けるというような意味合いで付けられた名称、ヘリと比べ圧倒的に最高速度が速く航続距離が長い。
最初プロペラ兼 モーターで離陸。
推進装置の角度を 一旦揚力にのってから変える事で戦闘機と似た形状に早変わり、そんな特殊航空機である。
当然と言えば当然だが、パイロットライセンスも全く違う別カテゴリー。
操縦の場合、厳しい資格試験を新たに突破、ライセンスを取得し直す必要性が生まれる。
「固定翼機・回転翼機の免許ホルダーだから誰でも操縦可能」と言うモノでは断じて無い。
安定供給が始まって直ぐよりの、古代から連綿と続く絶対的決め事である。
「ティルトってさー地上で推進装置のプロペラを内側に折りたたむ姿 こう言っちゃいけないが、正直カニみたいだよな?
デカイのっしりとした 蟹。
曲げたウィングが長いんだよな〜折った先端に小さいペラ付きだしな。
でもって飛んだら蚊みたいだし?
あっちのパイロットさんには申し訳ないが形状が美しくねーよなーー?
ヘリは蜻蛉みたいで自由自在で綺麗だ。
〜蜻蛉は前進あるのみ、決して後退しないと侍、武将に信じられ戦いに勝つ勝ち虫だ、縁起良くね?」
子龍は非常時にもかかわらず遠慮無く言いたい放題 好き勝手な事をああだこうだブツブツ呟く。
「子龍さんはカニが嫌いなの? え〜〜美味しいのに、アレルギーがあるの?」
「そういう事じゃねぇ、桜香の元の主人が癌のせいで死んだんだ。
古代ギリシャ語で蟹はkarkinos、最古のラテン語を使う医師達が蟹の凶悪で好戦的な様子からcancer、同じく手強い病理を示す言葉で利用した事が由来と聞いている。
星座はラテン語由来のものが多いからな、連邦英語で癌って今でも使ってるのさ。
桜香の元主人はメチャクチャ誇り高い凄いやつで、あんなやつ見たことない。
死ぬ間際の衰える自分を俺に絶対に見せたく無いと入院してすぐに俺に桜香を託して、責任を果たしてから亡くなった。
ーーーだから俺は蟹が今でも嫌いだ」
「ごめんなさい、辛いこと聞いてしまって」
「いいさ、古代中国に、〜白玉楼の人となる〜って伝説があるんだよ。
ーーー知ってるか雅?
優秀な詩人や文筆家や小説家、書家、文人と言われる職種の人間とかが亡くなると、もれなく神様の元に御招待されてな〜?
で、新造の神様自慢の雪白真白な宝石造りの白玉楼を褒め称える作品、好きなだけ作らせてもらえるんだぜ。
将来ジャパンを背負って立つ筈だった有名若手書家の一人だったから。
病の苦しみから離れて、天帝の造営した白玉楼で得意の書の腕を山ほど披露してお付きの仙人にスッゲーって褒め称えられてさ、現在でも大好きな芸術活動に没頭して新作制作に勤しんでるって俺は思ってる。
夜、闇にキラキラ輝く天の川を見るとそんな事を考えて、どうかあっちでも幸せであれって祈ってんのさ。
どうだ、スッゲーいー話だろーーー」
「ぐすっっ、そんなの泣けちゃいますよ、子龍さん」
「雅、ティルトローター機でないとどうしてわかる?
スピードだけでか?」
「目的が、暗殺でしたらねーーーー
自分でしたら、少人数で撃墜して素早く逃げるのを選びます。
人員を輸送しての、動かない物への瞬時のアタックには適してますが。
ーーー動的な、高速で動き回る標的を撃ち落とすには どうなんでしょう?」
「なる程、そりゃそうだ」
子龍はニヤッと明るく笑ったのだが、声を出さずに含み笑いをする姿は地上に舞い降りた悪魔が犠牲者に狙いを定めて笑った様に雅には見えた。
「防衛ラインは? 雅」
そんな中でも 信繁は冷静だった。
信繁と子龍が搭乗する実験機は 2パイロット制で操縦している。
航空機の操縦桿に見える物はサイクリックスティック〜もしくはサイクリックレバーと呼ばれる機器で、メインローターの傾きを前後どちらかの方向へ、スティックを押す事で変え、任意の方向へ行かせる為の装置。
前方へ押せば(ヘリの頭が下がり)ローターは前へ傾き、前進、後方に下げれば(引けば)頭が上がり後退。
左位置にあるのがコレクティブレバー或いはコレクティブ ピッチ(吸気圧力)レバーといい、スロットル(回転数を上げるもの)は、この先端部グリップにあり、出力を上げ、高度、速度を変化させる。
テールローターは足下にあるラダーペダルという機器にて操作。
これの操作が大概上手くいかず、結果、機体がクルクル回る事になり、強力なテールローターの存在があるからこそ、メインローターのパワーに機体がつられてグルグル回転しないのだ。
信繁が「酔っ払い信繁」と嘗て訓練生の時〜教官からからかわれた理由もそこにある。
ペダルの操作が主に正確に上手く出来なかったからだ。
信繁は現在この難しい3点セットを巧に操作し危機的状況にもかかわらず、的確に仲間に指示を飛ばす。
今は子龍も先程とはうって変わり、人が変わったかのように複雑なナビゲーションに没頭した。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・だ」
「・・・・・・・・・!」
計器の移り変わる数字を 次々に読み上げる。
と雅の声が緊張し 大きく変化する。
「あと10秒、ーーー9, 8, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1,
越えました! 完了です!!」
「行くぞ!!」
「よぉっしゃーーーーーー!!」
『え?? 何??ーーーーー』
フレイヤは息を呑む。
搭乗の不審な会話が終わるか終わらない内に。
ヘリのスライドドアの、本来窓部分にある、小さなスクリーンから見える後方に
一陣の、凄まじいまばゆい光の帯が、ザッーーーーと走る。
それと同時に すぐ隣のレーダーのモニター内の光点が突如消滅する。
『流星??ーーーーーいや違う。
ーーーーーそれは違うわ!!』
だってーーーー流星は、下から天に向かっては流れないのだから。




