脱出 ②
「クリア! 大丈夫です!!」
雅は 曲がり角で前方を必ずチェックをした。
腕にはめた小型熱反応モニターで逐一、廊下脱出口に暴漢の、新たな敵の侵入の存在が無いかを素早く確認する。
姿勢を落としーーー信繁に対しての、振り向きざまの唇だけの動き。
「行くぞ!」
信繁がハンドサインで 危なげなく全員に指示を出す。
進路の安全が保証され、ハンドサインでそれが訓練を共に積んだ仲間達〜
彼率いる特殊部隊の班員に伝達されてゆく。
信繁は、そのままフレイヤ王女を宝物を守るかのように両腕ですっぽりと抱き
「あと少しです」耳元に優しく囁く。
『あと少しだ!!
何としても、この人を無事にーーーー!!』
信繁班は、疾風のようにヘリポート、安全地帯に向け全力で駆け抜けていく。
彼率いる班全員がフレイヤ王女を守る為に、まるで流砂が清らかにサラサラ流れるように淀みなく動いてゆくのだ。
流砂で無ければ、彼等のひとかたまりが、1つの生き物〜
例えるなら俊敏で音もなく獲物を倒す獰猛な豹、恐るべき獣は一糸乱れず、それぞれが自らの与えられた任務を滞りなく完璧に果たしてゆくのだ。
フレイヤはその余りに見事な連係プレーに、驚きを隠せなかった。
『〜相当な質量の訓練を 日々行ってこそだろう』
フレイヤも元軍人だから直ぐに解る。
信繁の行動の裏の〜厳しく激しい辛い訓練の成果のあとが偲ばれた。
『信繁様は自分と会っていない時、欠かさず仲間の班員達と、こうしたイザという時の為の訓練を積んでいたのだ。
そうしてこそのーーー今の行動力なのだわっっ!!
きっとチャンスは、最高の準備を終えた者にだけ微笑んでくれるのだろう。
彼は決して耳障りの良い 威勢の良い事を一切言わないけれど。
この先も最後まで全力で、本気で私の事を助けようと 今も必死に頑張って戦ってくれている。
なのに自分は!!』
ーーーフレイヤは本音を言うと、もっとずっといつも、あの白い病室で信繁と一緒にいたかったのだ。
楽しいお喋りがしたかったのだ。
班の呼び出しがかかると、直ぐに 「ではまた明日」
軽やかにそう言い残し 振り返らず去って行く彼が恨めしかった。
『本当は、秘密の
ーーーーお好きな人がきっといらっしゃるんだわ?
その方と お会いしてるに違いない!!』
確かにある意味「ビンゴ!!」だったのだが。
想像する様な物わかりの良い優しげな相手ではなく寧ろ彼を虐待、情け容赦なくしばき倒し顎でこき使う恐ろしい「宇宙1の魔女」だった。
アレを「お会いしている」といえば確かに、会っていると言えたが、実体は全然 艶めかしい色っぽい関係では無かった。
しかしーーーーーー
それ以外は全て 信繁は訓練と勉強(作戦立案)に明け暮れていた。
彼の資質の素晴らしいところは大きくミッション〜目標を考え、その後〜小さくコツコツと成功に向けて地道に地ならしを行い、次に向けての行動を組み立て始められる事だった。
少々の歪みが出来たとしても足場がしっかりしているため、選択肢の厚みがあるから軌道修正は簡単だった。
そんなこんなで信繁班の応用力、潜在能力の裾野は広かった。
不断の努力の積み重ねの果てに 現在があった。
フレイヤは信繁がかつて自分と会った面会二日目に、確かこんな事を言っていたのを今でもよく思い出すのだ。
〜才能も実力も、自信すら全て揃っていたとしても、彼らのように必ずしも、1番大切な時に、ポテンシャル全開で役に立てるとは限らないと言う事です。
役に立つ為に、目に見えない様々な条件が付加されているからです。
時、物質、好機、それから運、貴女は彼らと同じチャンスと幸運に恵まれた、神様に愛された人間です〜
そして続けてこうも言っていた。
〜1番大切な時に、例えば、誰かの側に絶対にいなければならない時に。
ガクッとチャンスを逃す人間の方が、現実には遙かに多いんじゃないでしょうか?
そんな運の無い哀れな者をフレイヤ王女様はどう思われますか?
強運の女神の、貴女様ならば〜
”誰かの側に絶対にいなければならない時にガクッとチャンスを逃す人間”〜
ーーーーーあれは彼の心を頑強に縛りつける、苦しい自分では解けない呪いだ。
けれど今、信繁は私をこんな風に、充分に無事ちゃんと守ってくれている。
解けないはずの呪いを振り切り、全力で振りもぎ、彼は私を守ってくれているのだ。
もしも本当に彼の言うように、この私が本物の「強運の女神」だったとしたら。
貴方の言う、本当の強運の女神だったのなら
今度は私がーーー大切な貴方を助けたい。
誠実な貴方の精神を厳しくがんじがらめに縛り付ける、苦しく忌まわしい幾十何百何千何万もの頑丈な、全ての暗い呪いの鎖を引きちぎる手助けが出来たのならば、私は本当に嬉しいの。
〜貴方の為に一度くらいはなりたいの〜
フレイヤは心の中で、そう恋願うのだ。
**************
「どうだ?」
「It's okay.」
「GO!!」
細かな分岐点で無駄な時間を浪費することも無く、高速で周囲の安全確認を済まし 無理の無い動きを繰り広げる。
知らない人間が見たら全く無防備に 只前に闇雲に突き進んでいるように見えたろう、が ーーーーそれは違う。
本当に実に何気ない行動だが、これこそが信繁班の真の実力である。
「行けます!」
「GO!」
先々で先を読み 延々と繰り返される行為は殆ど一切静止、停滞すること無く、信繁からの密やかなハンドサイン1つでスルスルと全てが速やかに粛々と実行されてゆく。
「行けます!!」
『あと少し!!』
「Alright!」
「GO!!」
信繁は状況確認し合図を仲間に向け 冷静に送り続ける。




