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襲撃 ②


フレイヤが滞在するホテルは、新しくこちらも「リニューアルオープン」したばかりの最新式ピカピカの施設である。


当然の如く、最上階 華やかな織物の色彩が満ち溢れる、最高級特別室に通された。


極秘シェルター機能があるという、ジャパンが誇る最先端の分厚い〜


たとえ銃弾による暗殺の襲撃があったとしても、ここに居さえすれば充分に余裕で危機に耐えうるという新開発の新型防弾ガラスで3方を固められた特別な造りである。



「ご安心を、ここにおられる限り 絶対に狙撃もされません」


その様に、空港警備室主任担当官に力強く説明された。


その後は厳めしい顔立ちの複数人の護衛官に ずっと警護されている。



しかし今まで、城で心身に心地よい、上品な淡いアースカラーや白色にふんわり囲まれていたせいなのか、ホテル室内の様々な鮮やかな色彩における明度彩度とも異様に強く感じられるのだ。


フレイヤの目には 何処もここも押し出しが強く、毒々しく感じてしまう。



「王女様 ウェルカムドリンクです」


「ありがとう」


部屋に到着してそうそう、「身体に優しい」という高評価の、特別製ハーブティーを、ルームサービスにて給仕された。




ほんのり湯気の立つ 金彩が凹凸にほどこされた、そんな見るからに高級磁器の茶器に、絶妙な量で見目麗しく注がれていた。



そっとティーカップに唇を付けた。

 


「・・・・・・・」



ハーブティーには「トーキョーの有名店から取り寄せました」〜というケーキが添えられている。


「1日10個限定の洋菓子なんです」


「素晴らしく美味しいと評判です」


 

王女はフゥッと溜息をついた。


ここまでのーーー『オモテナシ』を、自分に対して完璧に隅々まで手をかけて貰って申し訳ないが、あまり嬉しくはなかった。



と言うのも誕生日の夜、信繁に城備品の白磁のカップにいれてもらった、ティーパックのお茶のほうが 遙かに美味しいと思ったのだった。


『ーーー我儘をごめんなさい』



心を砕き善かれと準備してくれた給仕のスタッフに心の中で謝罪する。



誕生日のお祝いのケーキはーーーーー


あの可愛らしく 最高にフレッシュで美味しかった「苺のケーキ」は、実は彼〜信繁が、フレイヤ王女の為に城 食堂調理場を借りて製作したものだった。


フレイヤは残さずケーキを全て食べ終わってから

「こんなに美味しいケーキを 今まで食べたことが無いわ!!」


心からお礼を言ったら信繁は初めて、その事実を口にした。


ホッとした顔で、嬉しそうな表情の彼からそれを聞いた時は 本当に驚いた。



「それはよかった、フレイヤ様。


妹と毎年いつも12月24日に、こんな感じのクリスマスケーキを頑張って作ってましたからね。


今回、昔を思い出して楽しかったですよ!」



ーーーーキュンと蕩けそうな笑み。


はにかみ、 少し照れながら言った表情は柔らかで溶けそうに甘く フンワリ幸せそうに見えた。


フレイヤはーーーー

ポケットからオルゴールを出してネジを巻いて音色を楽しむ。


金色の繊細な装置から、キラキラと耳に心地よい優しいメロディーが零れ出す。



また溜息をついてしまう。


先々への不安、現実が受け止めきれない。



とーーーーその時、あの夜の幸福な記憶が甦って来る。


それは信繁が自分の為に唄ってくれた「きらきら星」のリズムの替え歌だった。



♪〜きらきら輝く  素敵なあなた。


銀河中の中で  最も美しい。


あなたは私にとって かなり好きな人〜♪



 

『んーーーなんか変ーーーー!!』


 

装置の翻訳だから、ちょっと違うかも知れないけれど、概ね 内容はそんなに違いは無いと思うわ?!


でも絶対 えっと何かが本当は違う気がするの!



そう、愛する者のカンでーーー

 

歌詞にもっと「深い意味」を感じたのだ。


ーーー事実その通りだったのだが。


 

フレイヤは、信繁がーーー特に最後のフレーズを 大切そうに心を込めて丁寧に口ずさんでいたのを肌で感じて見ている。


彼の妹の定番ソングと称して、決して口に出せない気持ち〜


おそらくハートを伝えてくれたと信じた。



だからこそーーーー!!

『ここに居てはいけない』と強く感じたのだ。

 


禁断の関係になっては、真面目で優しい 彼だけはいけないのだ。


なのに諦めきれないーーーー黒い気持ち。

 

自分の綺麗な面だけ見て欲しいと言う強欲さと浅ましさよ。

 


ーーー耐えられなかった、自分の醜悪さと腹黒さに。





その時だった。


何処でーーーーー確かに聞き覚えがある音がした。

 



『えっっ……っ?』


フレイヤは漂う思考の海から 一気に覚醒させられる。

 

急激に神経が研ぎ澄まされる。



『ーーーーー間違いない!!』



過去軍籍にあった彼女には容易に判別出来る、馴染み深いパラパラッという銃声音だった。


 

ーーーーしかもそれだけでない事にはっとする


 

『そんな馬鹿な……!!』



ゴォォォォンッッツーーーーーー



……不気味な重低音が、広く大きく全面防弾ガラスがはめこまれた三方向の窓ガラス側からも聞こえるのだ。


ーーーーどんどん振動は大きくなる。


腹の底に響く鈍い音が、ズンズン床材からも伝わって来る。



『何か不吉なものが来る……!!』



フレイヤ王女はオルゴールを ガッとマタニティードレスのポケットに急いで突っ込んだ。



『……これを無くす訳には 絶対にいかないわっっ!』



グオングオングオン・・・・・・


おぞましい重低音は益々大きくなるばかりーーーー!!


フレイヤは咄嗟に部屋の照明全てをスイッチボードに飛びつきパチパチっと手動で消すが早いか、脊髄反射に近い長年身に染み込んだ反応。

自身の近辺の盾となりうる頑丈な大型家具の陰に飛び込みしゃがんで隠れる。


「みんな伏せてっっ!!」


声限りの大声で怒鳴り、鼓膜を守るため両手で耳を塞ぎ、軽く唇を開く。



突然、月明かりのぼんやり暗い闇の中に武装戦闘艇がぬっと窓辺、至近距離に怪物の如く現れる。




バリバリバリバリッッッーーーーー!!


ドガガガガガガッッ〜〜〜〜〜

耳をつんざく特殊防弾ガラスを撃つ、連続する切れ間のない強烈な銃声音。



バシバシバシバシッッツッ!!


叩きつける凄まじい銃撃で 次々に蜘蛛の巣のようにひび割れが入ってゆく。



ドーーーン!!



痺れを切らしたのか、武装戦闘艇はロケット弾を室内に向けて躊躇わず放った。



ガシャーーーーーーーンン!!



バリバリバリッッッッツ!!



爆発する室内ーーーーーー

 

一角の何もかもが 無常に粉々にはじけ飛ぶ。



阿鼻叫喚の大混乱の中、再びの銃撃により応戦体勢フォーメーションに入った厳つい護衛官があっという間に倒されてゆく。


バリリリリリーーーーーーッッツ!!ーーー 


耳をつんざく 激しく緊急警報が鳴り響く客室空間。


 

ステルス機能の為なのか、鈍い昏い色に塗り込められた武装戦闘艇が 自ら破ったガラスの大穴から不気味にゆっくりと侵入してくる。


 

バリバリガリガリと機体に押しつぶされ薙ぎ倒され、ぐにゃりと飴のように曲げられる家具。


引き裂かれ 千切られ 焼け焦げ無残にめくり上げられるペルシャ絨毯。


フレイヤにとって全ては記憶に生々しい、祖国フレイの首都攻防戦を思い出さずにいられない憎々しき忌々しい、呪われた血と煙と硝煙の匂いだった。



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