隠された気持ち
城 ーーーー城主・執務室内ーーーーー
現在部屋は人払いされて、城主と信繁だけが居る。
信繁は先程フレイヤ王女の 樹海への護衛を無事済ませたばかりである。
決まりとして城主が責任者として同行。
厳重な警備の中、全て滞りなく安全かつ迅速に終了した。
フレイヤ王女は警護され飛行艇に乗り込み 後ろを一切振り返らず。
高貴な王女らしい 凜とした姿を見せ去って行った。
信繁と王女の別れは 実際アッサリしたものだった。
「すまなかったわね」
ボソリとバツが悪そうな声で城主は呟いた。
『ーーー信繁は。
彼は元々、子どもの頃から、相手の立場を優先する人間である』
そんなエピソードに事欠かなかった〜と身辺調査報告書に記載があった人物だ。
たとえ自分が不利益〜ワリを食っても、一時の気持ちに流されず、どうしたら相手がプラスになるかを常に最優先して考える優しく賢い男性ーーーー
彼女はそれを知っていた。
深い溜息をついた。
もし相対する人物の将来が、自分の行動で「マイナス」になると判断すれば、それ以上絶対に踏み込まない。
おまけに生理的に弱い可哀想な人を、どうしても見捨てることが出来ない性分。
冷静にそれらを考察した上で、城主は「交渉役」として王女に信繁をぶつけてみたのだ。
城主は彼の「本当の気持ち」を。
最初から病室での映像を 執務室でずっとモニタリングしていたので気がついていた。
「好きだったんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・」
執務室内で 信繁は自分のデスク席に座る城主を真っ直ぐに見た。
彼ら以外誰もいない。
信繁はフッと笑った。
仄暗い自嘲気味な笑いーーーー
「今回救われたのはむしろ俺のほうです。
フレイヤ王女様は、俺が何をしてもひたすら喜んで下さいました。
手放しで信頼され、男としてたまりませんでした。
あんなに純粋な瞳で、子どものようにストレートに嬉しいというお気持ちを寄せられるとーーー
だからついつい、欲を出しそうになってしまいました」
「王女様はこう仰っていたわ。
何があってもーーー信繁様に嫌われたり ガッカリされるのだけは耐えられないと。
家族や友人も同僚も皆亡くなり、たった1人 生き残った自分にとって。
彼に嫌われてしまったらーーーもう本当に 私は生きていけない
ーーーそう仰いました」
「そんなことなどありはしないのにーーー」
信繁はため息と共に小さく呟く。
城主は面会時の会話ーーーー
実際は核心部分の言及は 上手に避けた。
フレイヤ王女は、城主に本当はこういったのだった。
「信繁様は優しく人気がある方だから、何時も好意を寄せられます。
そう言った方々に私はここにいる限り、必ず誰彼構わず嫉妬してしまうでしょう。
必ず執着ーーーー!!
黒い気持ちを抱くことがわかっています。
ーーーーわかりきっているんです。
そんな醜い私を知られて、優しい信繁様に失望されたく無いのです。
信繁様のことが心から好きです。
大好きです。
家族や友人も同僚も皆亡くなり、たった1人生き残った自分にとって!!
あの方は私の総てなんです。
彼に嫌われてしまったら
もはや本当に 私は生きていけません。
彼はーーーー
『私が幸せになること』が望みだと仰いました。
今ここでお別れしましたなら・・・・・・
きっと信繁様は。
無垢で可愛そうな境遇に見える私の姿だけを、いつまでも 心の中に覚えていて下さるでしょう。
もう限界なのですーーーー』
フレイヤ王女から面会を望まれた「あの時」、自分と2人きりの人払いをした静かな執務室内で。
フレイヤ王女はそういって 彼女の前で身も世も無くさめざめ泣いていた。
身を振り絞るように、身体を震わせる彼女に、かける言葉が見つからなかった。
城を出る選択は、ある意味で、心の開放でもあったのだ。
『これは女性である 私達だけの秘密、一生 彼が知らなくてもよいのだ』
「王女様は本当に貴方のことがお好きだったのよ」
「わかっています」
信繁は答えた。
「もうこれで貴女の、惑星トールとフレイヤ王女様にかかわる仕事は、完全に終わりですね?」
信繁の言葉に、城主はうーんと背中を椅子の背にもたれかけさせて猫のような伸びをした。
長い黒髪がまるで扇が広がるように サラサラ悩ましげに揺れる。
「・・・・・・?」
「信繁の班員ーーーまだ装備解いてないわよね??」
天井を見ながら椅子をグルグルさせている。
「呼び出しの際、そうしろって言ったのは貴女でしょう???」
実際、信繁本人もまだ護衛当時の厳ついバトルスーツを〜銃以外のフル装備で全身装着したままである。
重装備ゆえ、そう簡単に着脱出来るたぐいの物では無いからだ。
ーーーーー城に戻って直ぐに、先程信繁と会っていたばかりの城主から司令が下った。
『班員全てそのままで待機』及び〜
『班長の信繁のみ至急執務室に来られたし』の緊急連絡を受け取った。
しかし〜流石に銃は執務室に持ち込めない。
だから、特殊部隊専用控え室に待機中の、相棒である子龍や雅、その他の信用できる仲間達の所に全て任せて置いて来てある。
『ーーーー何だ???』
信繁はふざけていた城主が姿勢を直し、長い美しい黒髪を左耳にかける姿を見つめる。
先程からの挙動不審な様子と、謎めいた何時もの「癖」
経験上、こうした行為をするときは決まって何か重要なヤバイ話があるときだ。
「終わりでは無いわ?」
城主はニッコリ信繁に微笑みかける。
微笑みながら、巨大な執務室デスクに埋め込まれている愛用の人工知能端末を起動させると、空気中にブンッと静かな振動を起こし、半透明なモニターパネルが中空にスーーーっと浮かび上がる。
城主はいつもの様子で署名入りの計画書らしきファイルを、白く細い指先で幾つか引っ張り出す。
地図やデータ、その他様々な文字の羅列はキレイに空中でくるりと回転し拡大され、彼女の真正面の信繁に無理なく見える様、その向きを変えた。
見るなり信繁はギョッと顔色を変える。
「これはーーーーーーー!!」




