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交渉と出発

城主は実の所。


フレイヤ王女が直ぐに、帰還という返答を出さなかったことに安堵していた。


勿論当初のように、城にこのまま収監しておく選択肢もあるわけで。


「施設責任者として大いにメンツを潰された」〜という路線で、惑星トールの軍事参謀長官と、お互い恫喝と言う名の話し合いを行なっている真っ最中である。


セキュリティ対策万全、先日開発され、かの国の大王が住む「王城」内部〜


秘密の場所に配備されたばかりの、新型衛星通信回線にて何時間も上品に行っているのだ。


城主は、「狼」と部下達からあだ名されるトール側 最高軍事参謀長官 ロームルスの話を


ーーーー散々聞くだけ聞いてから、徐にこう切り出してみる。



「ですから、こちらがお守りしたフレイヤ王女様が其方に行かれたとたんに暗殺は困るのです。

 

私にも保護責任者としての矜持と意地がございます。


貴方方の、様々な裏事情と理由は、私とて、よく飲み込んでいるつもりですが?


ーーーーしかしながら、あなた方が今まで彼女をどう取り扱ってきたのかは、全て此方に詳細に資料が調っております。


信用できかねます。


先日 漸く21歳におなりになられた悲劇のお方様。


祖国に対し 英雄的行為をなされた末の王女様に対する ”人道的な扱い”  が〜

何時如何なるものであったか??


あなた方の 実に楽しげな極秘会話『全盗聴記録』も含めて、今、鵜の目鷹の目で真実を追究中の鉄のジャーナリスト集団、電脳ジャーナル彼等が。


精緻かつ正確な資料全部をーーー『何処からか偶然手に入れて』


『配信記事トップ』にて銀河中に配信されたら、さぞや人々の耳目を楽しませるでしょうね。


そちらの怒れる気持ちは解らないでもありません。

 

しかし、彼女はーーーーあの『悲劇のお姫様』と同じ様なお年頃です。

 

ーーーー違いますか?


『被害者だと思っていた自分達』が、いつの間にか『加害者』に変貌している


〜これは本当に、吐きそうな程寝覚めが悪い気持ちです。


誰しも最後まで、真っ直ぐな矜持を持っていたいと願う物ですからね。


こうなってくると、トールの国民感情も 複雑なんじゃ無いでしょうか?

 

貴方方もこの先 統治がやりにくいでしょう?」



城主はそう一気呵成に言い切ると、いつもの楚々とした優しげな微笑みを投げかける。


「ーーーーなる程」


「私は貴方が政府要職につかれる以前からーーーーこの『城』総責任者です。


既にとっくにご存じと思いますが、私は歴代の貴方のお国の〜

『貴方の前任者の方々』とも昵懇の仲です。


特に幾代か前の、トールの参謀長様は、確か貴方のことを大変高くかっておられましたよね?

あの特に歴代の中でも 有能だったお方が〜


今の貴方の凋落ぶり、感情的な状況をお知りになられれば

 

『一体全体 君ともあろうモノがどうしたのだ!?』


非常にーーー引退先の保養地にて、ガッカリなされるでしょうね?

よろしいのですか?それでも」



「・・・・・・・・・・・・」



痛い所をつかれたのか、ロームルスは露骨に嫌な顔を浮かべる。

 

城主はそんな彼を見ても先程と変わらない、花が綻ぶかの美しい微笑みを浮かべたままである。


これぞ彼女の真骨頂である。



「ーーーここは先々のことも考え、敗者に対する絶対的な勝者の懐の深さを示す上で。

是非偉大なる恩情を、亡国のフレイヤ殿下に示すべきなのでは??」

 


ロームルスは ギロッと一瞬目を白刃の如く鋭くしたが、城主の提案を紳士的に受け入れた。


「わかりました、ではこちらもその様に」


耳まで裂けそうなオオカミそっくりの大きな口元で、ゆっくり微笑みながらこんなことを付け加える。

 


「貴女のお噂はーーー

私が参謀本部に新人として入局した頃から密やかに、この世の何処かに本当にあるんだと。


施設の存在の所在はよく聞いてまいりました。


城 は、本部でも超極秘扱いの トップシークレットです。


あの夜に 運命的に貴女に紹介され、中堅どころになって漸く知り得た〜


嫌みなやり手の先達をコテンパンにした逸話に、例の皆達で『ざまぁみろ!』と喝采し、仲間達と陰ながら祝杯を上げて仕事の憂さを良く晴らしたものです。


同僚達も全員そうでした。

 

そして実際に貴女に会ったことが有る私は、羨望の眼差しで羨ましげに見られました。

 

これは本当に懐かしい思い出です。

 

貴女はおそらく全くご存じないだろうし、知ったところでちっとも気にもかけない瑣末な事かも知れませんが。

この星トールに、貴女の熱烈なファンは実に多いのですよ?


如何にも貴女らしい物言いに実際安心いたしました、ええ、それでこそ我が優秀で勇敢な仲間達があれ程に追い求めた誇り高き貴女です。


ーーーーわかりました。


他ならぬ 永遠の憧れである女神の頼みとあれば、致し方ありません。


今回は私も一肌脱ぎましょう、あの一人ぼっちの寄る辺無き王女様のために」

 


「ありがとうございます」 城主は深々とお辞儀を行った。

 



「狼」と、だれもが恐れるトール軍事参謀長官は、引き渡されるフレイヤ王女に対し、惑星トール・王城で今後必ず不埒な計画を企む輩を出さぬ事を、城主に約束した。


「しかしーーー」ロームルスは狼なりに危惧を示した。




「こちらで私の力が及ぶ限りのことは致しましょう。


ですが、引き渡しまでの警護責任はそちら側にございます。


どんなことがあっても、必ず母子ともにお健やかな状態でフレイヤ王女様を御守り下さい。


我が王家には恥ずかしながら、未だーーーー『青い血』を受け継ぐ者がただの1人もございません。


彼女は、貴女も『ご存知の様に』


お血筋的にも、経歴的にもーーーー

我が敬愛する殿下にとって 本来申し分の無い、非の打ち所が無い、唯一無二の配偶者です。


ですから今回の慶事は、実際は願っても無い恩寵なのですよ。


王城職員 諸手を挙げて歓迎の用意がございます。


リーズ陛下もーーー

『是が非でも 彼女であるならば、何としても手に入れ正当な後継者を!!』


ーーーーというのが惑星トール大王の絶対のお考えです。


尊い天子様のご母堂が、聖王の証を瞳に宿す惑星フレイの第五王女様であられましたら。


今後、確かに、我が国が手に入れました『かの星』〜運営統治も、随分楽に推し進めることが出来ることでしょう。



貴女様が仰られた提案は すべてお受け致します。

 

お子様をお産みになられたとたん、フレイヤ様を残忍に処刑ーーーには今後とも絶対に致しません。


彼女を私利私欲で良く思わず 王城から排斥しようとする輩も排除しましょう。

 

私の名誉に賭けて誓います。


トールで末永く、健康で幸福に、お健やかに。


あの素晴らしくお美しく、大変に お優しいラファエル殿下と静かにお暮らしになられるよう、こちらも心を込めて歓迎致します」

 

こうして時間はかかったが、魔女と狼の交渉は成立する。



**************



誕生日の夜。


信繁が病室に訪れて、無事フレイヤ王女と仲直りしたことを知り、2人の医療スタッフは心から安堵する。



「何だか最近王女様お綺麗になりましたね〜〜!!」


若いスタッフは皆、ウキウキと先輩格のスタッフにコッソリそう言って喜ぶ。



「そうね」


しかし彼女は何か考え込みながらーーー後輩の意見に軽く相づちをするのみで。


『確かに 言うとおりだ。

恋、そして母親の自覚が芽生えて来たからなのだろうか?

本当にーーーそれだけ?』



現実主義者のベテランは、様々な経験故にそれだけとは思わなかった。


ーーーーー無駄に、城で職務をこなしているわけでは無い。


王女付きに抜擢された程 優秀な真面目なスタッフである。

 



『あと少しでーーーーおそらく私達の任務が終わる。


その時は私は泣かずにーーーー!!


王女様を送り出すことが出来るだろうか?』

 

そんな事を自分の心の中だけで反芻した。

 



彼女の予感は的中する。


誕生日の夜から二週間と少し〜

嫌な予感のした次の日。


信繁が訪れた際にフレイヤは自ら口火を切る。


ーーーそれは躊躇いの無い言葉だった。



「城主の方と 面会の時間を持てますでしょうか?」




「わかりました。」



信繁に何時ものような笑いは無かった。



「直ぐにお伝えして参ります」


神妙にそう発言すると 静かに部屋を退出した。




『そっかーーーーとうとう来るべきものが来たんだわ!!』


優秀なベテランは悟る。



『ーーーーえ??』



突如 左腕をギュッと誰かに捕まれた。

強い力。


ハッと見ると可愛い後輩が、微かに震えながら、彼女の腕をしっかり両手でつかんで唇を噛み締め、体をガタガタ震わせている。

 


「最後までやり遂げましょうね?

ーーーーー私達」


「はい」



深い溜息をつきながらも、手塩にかけた可愛い後輩の手が離れるまで。

 

そのままの姿勢でじっとしている事にした。


フレイヤ王女の「城」からの出発は、城主と彼女が面会した その日の夕方に決定する。



「城」城主も ジャパン内閣府も『情報漏洩』を最も一番恐れたからである。


危険は即「死」につながる。



樹海まで「城」特殊部隊班が護衛、そこからジャパンの国防部隊がフレイヤ王女の護衛を担当する。


リニューアル工事が漸く終わったハネダ宇宙国際空港滑走路から、先ずシャトルにて地球外宇宙空間にある多国籍軍で運営するスペースコロニー基地に出発。


そこでトール軍・宇宙艦隊総司令官スレイプニル自らがワザワザ人員を選抜、最高の人材を差し向けた、最新高速宇宙戦艦に乗船し出発する手筈である。


宇宙屈指の兵士に付き添われて、かの国〜

何光年も遠方のーーー


普通の光の速さでの航行では、本当だったら到着に何年もかかる惑星トールに出航するのだ。


無論、ワープ航法にワープ航法を重ねるため、そんなに無茶苦茶な日数はかからない。



今回のように そこまで複雑な手順を踏むのは、極限られた国以外の軍隊以外ジャパン不可侵の憲法「平和主義」で戦艦の入国が固く禁じられていたからだ。



もしも泣く子も黙る軍事国家でならすトールの物々しいフル装備の軍隊の一個師団が。

総勢 約1万もの銀河最強と言われる兵士が。


そんな状態にてジャパン国内に入るなぞ、前代未聞。


ーーーー絶対に有り得ない事態だったからだ。



スペースコロニーから惑星トールへの航行は、ジャパン時間の深夜である。


地球外への出航なので、シャトル出発時の天候以外全く関係ないからである。




城より慌ただしく、出発の決まったフレイヤ王女に信繁はーーーー



「妹がいなくなるみたいで 寂しくなりますね」


慇懃にそれだけ答えた。


聞いたフレイヤの瞳から思わず ポロリと涙がこぼれ落ちた。



「今まで有り難うございました」


今にも空気に溶けてしまいそうな 震える揺れる声。



「・・・・・・・・・」


信繁は返事をしなかった。



信繁が白い病室から帰って行くと


「なによそれ~~~!!王女様のお気持ちわかってるくせにぃぃぃ!!」


信じられない信じられない~~と、職務に関係なく若手は皆、揃って怒り声を張り上げる。


怒りまくる後輩に対し、


「信繁様にはーーー彼なりに深い考えがあるのでしょう。

仕方が無いわよ」



先輩格に該当のメンバーは溜息をつきながら、尚もブーブー山程文句を言い、ひどいひどいと激しくエキサイトしまくる後輩らを一生懸命なだめた。


『そうだ!!』


無言で項垂れしょんぼり涙ぐむ王女を見て、澪花は1つのアイディアが閃いた。


『我ながら良い考えだわ!!』



澪花はコホンと咳払いをし、こんな事を言う。

 


「えっっとーーー実は私から『お願い』がございます、フレイヤ王女様」



「私に?ーーーですか?」


固く、いつになくかしこまった物言いーーーー

怯えた瞳の王女に対し、澪花は優しく微笑みかける。



「城から出る前に、私に髪を 少しばかり整えさせて下さいませんか?


これが私が直接王女様にして差し上げられる、『最後の仕事』になります。


こちらに来てからーーーーすっかり髪がサラサラに、美しく長くおなりになられましたね。


本当に手入れのしがいがありました!!

とっても質の良い 綺麗な髪です」


フレイヤは予想外に褒められて真っ赤になって照れてしまう。



「フレイヤ様はなんていうか〜瞳もたいそう美しいので。

目元のぱっちり愛らしい美しさが引き立つようなカットが ズバリ良く似合うと思われます」


澪花は自信たっぷりに笑った。


「そうですよ!!」

まだ怒り顔が抜けない若手達もその意見に追従する。


「私はお姫様の瞳の色が、なんとも言えない色合いの輝く眼の色が 神秘的で〜

とても好きです!!


大好きです!!」



フレイヤは我慢に我慢を重ねていた切ない気持ちが決壊した。


泣いて泣いてーーーーー泣いて。


沢山泣いた。


澪花はそっと背中をさすった。


「生きていさえすれば、いつか必ずまた再会できます。


でも再びーーーー此処では無い事を 私お祈りしてますけどっっ??」


澪花はフフフと茶目っ気一杯に輝く笑みで幸あれと励ます。


くしゃくしゃの泣き笑いの顔でコクンと頷き、フレイヤもそれに答える。




『惑星トール』で見せしめに〜

 

あえて見苦しく短く断髪されたフレイヤの髪は、肩に届く程の長さになっていた。


 

「宜しくお願い致します」


フレイヤが彼女にヘアスタイリングを任せると、専門のカバーエプロンをふわぁっと身につけさせられてカット開始となる。


澪花は素晴らしい手さばきと ハンドテクニックで、みるみる手際よく。

 

シャッシャッシャッッ!と・・・・・!!


美容師用の繊細なカットの出来る銀色に光る美しい鋏で、素早くしなやかな髪を的確に整え始める。


彼女と後輩の2人がかりで、後はほんのり流行の色味で 優しい色合いの薄いメイクも丹念にほどこしてゆく。



「さぁ!〜ではいよいよお着替えですね!!」


城謹製の 彼女の現在のサイズに合った、しかもこの先妊娠継続中も楽々十分着こなせるオーガニックコットンの着心地の良いマタニティードレス。


更に最新流行デザインの うんと踵の低い、しかも履きやすい靴に足を入れる。



「いかがでしょうか??」




 「ーーーーーうわ~~~~可愛い!!」


周囲のどよめく声に『?』と思い、フレイヤも 何気なくふと対面の鏡を覗き込む。




 

『これーーーーーー本当に私??』




改めて椅子に座る王女に「ハイっ」と新たに差し出された、今度の大判、美容師が仕事で使用、専用の横長のピカピカの曇りなき鏡。



そんな2つ折りのブロ仕様の大きな鏡の中にはーーーー


フレイヤ王女がかつて見たことが無い、自分自身が映っていた。




もう「おてんば姫」なだけでないーーーー




そこには、恋を知り。


今こぼれんばかりに瑞々しく、綺羅らかに美しく花開いた一人の女性ーーー



燦然と光り輝く 高貴な素晴らしいレディが映っていた



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