ハッピー バースディ ⑤
お腹が膨れ 満ち足りた幸せ〜
多幸感が流れる……おっとり優しい甘い時間、2人はその夜、様々な話をした。
「何だか初めてね、こんなに長い間お喋りするの…」
「えぇまぁ、訓練とか何やらで すぐに呼び出しが自分にかかりますからね。
忙しない状態で お姫様に悪いと思うのですが…っ
実際、落ち着けないでしょ?」
信繁は本気で済まなさそうな顔をした
「!!」
フレイヤは慌ててしまった
何も別に、彼をそんなふうに困らせたり、まして謝って欲しくて言ったわけでは無かったから。
信繁が普段自分と接する時間は精々、多い日でも1時間が限界だったから、わかってるっ!だから今夜はとても嬉しいって事を、ただそうシンプルに言いたかっただけだったのに
『どうして私はこんなにーーー…』
ほんとうに言葉が足りず、しかも短気ですぐ突っかかってしまう嫌な女!
彼を好き放題 独占出来る!
だから今夜は特別な奇跡みたいな時間で〜それが舞い上がるくらい心より嬉しいと言いたかっただけなのに
「お休みの日…何をしてるの?」
「そうですねぇーーーーえ〜〜っと、そう言えばまた最近取ってなかったな?
最後に取ったのはーーーーいつだったかな
ぁあ〜、この前の試験の日は取得したか?」
「・・・・・・・・・・」
う〜んと 首を捻り真面目に考え出した信繁を見ながら〜
『そりゃぁ 厳しい人事部が怒るはずよね!』
フレイヤは心の中でボソッと呟き納得する。
「突発的な事がよく起こるから〜どうしても止む終えないんですよ。
自分だけで無く他班の班長も 全員皆似たような忙しい感じです
作戦は夜間に展開されることが多いですから、生活はかなりに不規則ですね」
『……え?』そんな説明にちょっと心が浮き立った。
『じゃぁじゃぁーーーー!!
綺麗な方とのデートは、殆ど無しって事?
ーーーこの方がモテ無い筈なんか無いし?
出来たら、告白されるチャンスが無いといいのだけれど』
フレイヤは自分の我が儘な自己中心的な考えに、思わずカッっと紅くなる。
『でも聞きたいしーーー?!』
「…恋人の方『そんなんで怒らない?』」
ちょっと意地悪に、言質を取る引っかける言い方をワザとする。
こう言う言い方をすれば、この彼だとて流石に必ずボロが出るだろう。
「ええ、他班の男性班長は よく彼女さんに怒られるって嘆いていますね!
『彼女に平手打ちされた』ってしょげてるんで、訳を聞いたところ、仲直りも兼ねての大きなイベント〜
改めての誕生日を祝う、お祝いのディナーの真っ最中に招集がかかり。
でーーーー泣く泣くデートは中止。
〜これでアレヤコレヤで4度目よ!!〜でコップの水を掛けられてパッチン!!
話を聞き〜顔色を変えた私の相棒の発案で、その夜の警護は速攻でウチの班と代わりました。
で、無事ーーー
これが最後よっ!〜て、仲直り出来たって聞いた時は本気で嬉しかったですね
〜本当に……」
『何だか……聞きたかった事とは微妙に違うんですけど?!』
そう……本音では、信繁に本命〜 唯一の女の子が居るかどうか、興味内容はその1点につきるのだ。
『でも……私はーーーー!!
この方を好きになっては絶対にいけないのだ』
ーーー自分にはお腹のベビーの父親が居る……
「……」
「?……どうされたんですか?」
急に黙り込んだフレイヤを気遣い、信繁は掌を両手で丁寧に労りを込めて押し包むのだ。
『そんなに優しくしないで下さい……っっ!』
嬉しくて切なくて……辛くて……どうしていいかわからないーーーーー
そんな切ない気持ち
「っ〜私はーーーもしもトールに渡ったら。
直ぐに正式に、盛大な婚姻の儀式と手続きをするのだそうです。
お腹のベビーのーー立場的な事があるから。
でも私は〜! フレイの方々の国民感情があるから
出来れば!! その様なーーー無駄な気遣いして貰う気は毛頭ありません。
簡単な書類だけ……の、出来るだけ質素にして貰う様に
ーーーーー申し訳ないですが、殿下に心からお願いするつもりなのです」
「そうですか」
「!! 反対をーーーしないの?
そんな前代未聞の 我が儘な式典のやり方に……!」
「フレイヤ王女様のーーーお式は今回、お姫様のしたいようにするのが1番だと思いますよ?
フレイの国民の方々にも 精一杯の真面目なお心の真意は伝わる筈です。
何が正解か?……は 誰にもわかりません」
信繁はそう言うと優しくニコッと屈託無く微笑むのだ。
『私は貴女の味方ですよ』
心細いフレイヤには、彼の綺麗な瞳が そう訴えかけている気がした。
フレイヤは信繁が、政治の世界への俯瞰する視点、男同士の互いを喰い合い潰し合う激烈な世界の真実をその身に知る優秀な聞き役、いわばブレーンとして。
何を言っても 軽妙で優しく絶妙な返答を返す為、その後も安心して自由に心をさらけ出す事が出来た。
楽しくて嬉しくてーーー何よりも心が自由で
秘密のお願い
キャンドルをフッと吹き消す時に願ったーーー願い事
『いつまでも いつまでも、こんな時間が ずっと続いてくれます様にーーー』
再び心より願った。
信繁が 富士の山頂で撮影した映像ーーーー
フレイヤは……「もういいでしょう?」
信繁が苦笑する程、何度も何度も繰り返し再生するのをねだった。
だってーーーあまりの幸せに 心が蕩けそうだったから。
信繁は、自分で何度も登頂したと言うだけに、見る者を喜ばせる富士山頂撮影ポイントを絶妙に巧みに押さえている。
登山家というだけでなく、素晴らしい優秀なカメラマンでもあった。
因みに大勢でしか、こんな大がかりなホログラム撮影は当然出来ない、というか不可能だ。
何故ならば撮影機材とかに結構な人手が居るのだ。
きっとプロジェクトとして信繁はバックヤードで何かをしている。
だが、それをいうと妊娠中の私が恐縮して、万が一体調を崩してしまうかもしれない。
そのことを慮り、前もってチームで相談し、妊婦が余計な気使いをせぬ様、大人の考えとして敢えて伏せているのだろう。
誠実な彼の事、手柄を総取りとは考えられない、横取りなどという姑息な事はチラとも考えてはいないだろう。
そこまでしてーーー信繁は自分の為に無償で動いて働いてくれた。
彼の意に賛同して手助け、頑張ってくれた数多な人達が必ず陰に存在して居る。
ーーーもぅ感謝しか無い。
過去、自らも大勢のクルーを動かした経験を持つ、優秀な艦長であったフレイヤにはよくわかっていた。
ポロッ……と、 一粒の涙が零れ落ちた。
富士の山頂大地は、深夜真っ暗で光の無い漆黒の世界。
頭上にはキラキラと降るような銀河の星砂。
時折シュッと流れ星が天宮を駆ける。
荒涼とした闇の中ーーーー
耳の側、強烈な強い風の音だけがビシビシと響き渡る。
富士山は独立峰ーーーー
どの山脈や連峰にも属していない単独峰故に、山頂は360度何処からでも常に強風が吹き付ける神霊の山だ。
山の頂は空気が極めて薄く、高山病が多発する人類にとって極めて厳しい世界。
山頂は囂々と荒ぶる風の中、高い深い蒼の天空だけが見下ろす、煌めく星々と深い瑠璃色の底に横たわる
視界いっぱいの天の川 蠍座 うしかい座のアルクトゥルス
フレイヤはーーーー
自分は……
もう2度と見る事が無いと思っていた心を揺り動かす愛するミッドナイトブルー
「なんて懐かしいの!!」
記憶に今も鮮烈にある ずっとーーーどうしてか子どもの頃から心底憧れた世界
それが今また目の前に広がり、身体中、宇宙の色に抱かれているのだ。
ーーーーこの世でもっとも大好きで、心躍る懐かしき群青の、ときめきの輝き
情熱ーーー……青春の全てを捧げた色彩。
フレイヤは口を両手で押さえてしまう
何故なら思わず嗚咽と、大粒の涙がホロリ零れそうになったから。
日の出直前の25分程前、山頂の本当の現実は今、氷点下の恐るべき気温の中だ
いきなり周囲が光と生命を持つ。
この惑星がゆるゆると目を覚ます。
地平線と海岸線がスーーーッと…まるで糸の様にーーーーー……
ぼんやりとオレンジとイエローの輝きに塗れる。
ぐるり目をやると、今自分が脚を踏みしめる黒々と広大な山頂だけが、見渡す限りのくぐもる眠る雲海の上に、丸く孤独にプカリと浮かんでいる事に気がつく。
文字通りーーー雲の海は薄く暗く淡く、ふんわり微かな光を徐々に吸い込み息を吹き返す。
息を吞む聖なるアイスブルーとターコイズ、深々と透き通った清いパープル
目にする全てがグラディエーションの繊細な透き通る色彩に染まっている
これはまるで天使の衣の様だ
どんな優秀な画家でも、この雲のベールの雄大で神秘的な煌めきと輝きだけは決して絵筆で再現出来ないだろう。
正に地球の気象が作り出した神秘なる芸術作品だ。
幾層ものミルフィーユの如しの遠き雲の下から、丸い光の塊がポチリと眠そうに微かに顔を覗かせる。
みるみる濃く、濃厚な目を射る、鮮やかなオレンジ色が大気を染め上げるさま〜
映像のみで本当の気温はわからない……が、強烈な激烈な光源のせいで身体がほっと温かい豊かな空気に包まれた気がするのだ。
水色 金色 茜色 紫……
ありとあらゆるーーーー
素晴らしき色彩を支配する、金の飴色の小さな丸い太陽という恒星の光は一息に駆け上がる。
わっっと 巨大な大きな光ーーー耀きそのものに変貌するーーーー!
富士の山頂に広がる大地を赤く紅色に染め上げ、圧倒的な朝の光は、あっという間に天空高く勇ましく登って行く。
ーーーーフレイヤは全てに釘付けだった。




