ハッピー バースディ ④
信繁はいう
「私は小さい 未就学の子どもの頃から……
シンシュウ地方出身の父に連れられて、富士山には 本当によく登りました。
高校生になるまでに、いくつかある全ての登山ルートを制覇しました。
その為に、1年中あちらこちらの里山や富士以外の山岳でハイキングと称した登山訓練をし、いざ本番!には 御来光を見る為に、うんと早朝、頭にヘッドライト装着して〜
予約された山小屋からガラ場を1人前にリュックサックを背負い、杖と登山靴で最高峰の剣が峰の石碑まで登るんですよ。
通称”お鉢巡り” ーーーー
これは火山口の縁を辿ることなんですが、剣ヶ峰の石碑とは、ここから更に上に伸びる高み頂点にある、石製の目印的記念碑みたいな物で。
この場所が山頂で最も1番高き場所なんです。
皆が思う頂上が、実は終点では無いんです、全く意地悪い罠ですよね〜」
「そうなの?」
「子どもの小さな体には夏場とは言え寒いし、ガタガタ震える程 超凍えるしで
例え夏山の、山開き中でも、単独峰ですから吹き上がる四方八方からの強風で深夜は寒いんです。
あれは今思い返しても、小さな子どもには強烈な強行軍でしたね~」
信繁は微笑みながら 悪戯っぽくクスッと笑う。
「今回久々に登頂しましたら、深夜最高の天候に恵まれましたよ?
強運の女神のフレイヤ様のお陰かも知れませんね」
「そんな事ーーー無いわ?」
「ぃいえ幼き日に、初めて父と見上げたあの時と同じく、天空1杯の
本当に
ーーーーーこぼれんばかりの 満天の星の海でした。
私の父は 確かにもう側には居ません
ですがーーーー今でも、私をこうして星になって見守ってくれている、そんな気がしました」
と! 急に真面目な顔を作る
「今日この日の、貴女の大切な〜生涯1度きりの『21歳の誕生日』の
ーーー輝かしい朝日を
私は王女様に 是非お見せしたかったのです」
「そんな・・・・・・」
「なにせ ジャパンが誇る最も高い標高、山岳信仰の『神の山』ですからね!!
身ごもられているお子さん共々、きっとこれからもフレイヤ様は強運にずっと恵まれますよ!」
悪戯っぽく クルクルと茶色っぽい目を輝かせた信繁は突如 急に手を動かす。
ガサリと胸ポケットから、今度は 真っ白で清らかな、小振りの封筒をつまみ出すのだ。
「それから もう1つ。
私は富士の某登山口と言える5合目にある、由緒ある女神様をお祭りする神社にて、お姫様の安産祈願をしてまいりました。
そこは古来より縁結びと絆、縁と、無事に出産が出来る様に神様にお願いする聖域です。
必ずフレイヤ様は、愛する方の元で、元気で健やかなベビーを 産んで下さい」
信繁は、彼女の掌中の金色のオルゴールを、そっと左手で持ち上げ、サイドテーブルにコトリと大切そうに移す。
「これは霊験新たかな『オマモリ』という 願い事〜
願をかけるような、御国の聖人のメダルみたいな物です。
中に霊験あらたかな 小さな『札』が入っていることが多いですね。
神様から授かる大切なものですから。
こうして綺麗な、貴重な織物の小袋に入っているんです」
カサカサと信繁は、袋の中から大事そうに、錦織の御守り袋をゆっくり取り出す。
現在空っぽになっているフレイヤの右手の掌に そっと指先で乗せた。
そしてーーーー彼がしたのは それだけでは無かった。
「今から接触致します。
規則を破り、誠に申し訳ございません」
信繁は「守り袋」事ーーーー
フレイヤの手を、自身の大きな広げた両手で 丸ごとふわり包みこみ、例えて言うならば柔らかなコットンで優しく包み込む感じで握らせた。
「貴女のお体を、他ならぬ貴女自身が、大切になさって 労り愛してあげて下さい」
「ーーー……!」
もはやーーー涙で 度重なる落涙で、前がはっきり見えない。
**************
〜少し気分が落ちつくとフレイヤは信繁が折角用意してくれた記念日のケーキを食べることに。
しみじみと思う
『こんなに可愛いケーキ、今まで何処にも見た事が無いわ!』
そしてーーーー嬉しい事は まだまだ続いた
『えええっっつ!!』 声も出ない程、本当に驚きで。
「まず歌が無いとね」
「〜〜〜ひょっとして歌ってくれるんですか?」
「ええまぁ、うちの班員の誕生日は、先ほどの音楽に極めて長けたメンバーの伴奏で全員で歌ってますからまぁ、今回はアカペラでもいけるかと」
??と極々当たり前の顔をして、信繁はゆったり手拍子でリズムをとり、誕生日ソングを歌ってくれたのである。
『!!』
確かに誕生日ソングを歌い慣れているらしく彼の歌は素晴らしかった。
ーーーというか極上ソング!!
信じられなかったが、考えてみれば腹式呼吸で武道教官として常日頃、大きな声を出し慣れているから鍛えられ深みがあって滑らかで、信じられない程良い声なのだ。
フレイヤは目を閉じて、ついうっとり聞き惚れてしまう。
「誕生日おめでとうございます、フレイヤ王女様…」
信繁が歌い終わると、こう言わずにはーーいられなくって!
「あのぅ、そのぅ〜」
モジモジしながら おそるおそるお願いしてみる。
「もう1度〜いいかしら??」
信繁はこの提案にエッ?と目を丸くし、ビックリした顔をしたものの、優しい目で破顔一笑
「別にいいですよ?」
信繁は彼女の望みを聞いてくれたのだ。
『本当にーーーー素敵な…お声!!』
2度目も心のこもる素晴らしい歌声で、たっぷりと心を潤しながら、ふっ!!と キャンドルを吹き消す時……
あるーーー秘密のお願い〜をする。
普段フレイヤは 元々あまりこうした菓子を口にすることは無い。
と言うよりも控えめに言って、食そのものに〜美食に、一切興味がもてなかったというか、そもそもが 興味の対象が一般的な女の子とは若干違っている。
愛してやまない特殊な業務故に、常日頃、宇宙食や「取りあえずのサプリメント系、高カロリー食」に日常的に慣れ親しんでいたせいもある。
無論こうした職種の人々がすべからく〜と言う訳では無くて、常識的にきちんと一般人以上、求道的に規律正しい食生活の方々もいる。
が!!彼女は生憎〜「そっち側」では無かったのである。
「時間が勿体ないし?」
学生時代、行動規範の総てがそうだった。
何でもいいから、食べられる時にしっかりという合理的で無駄の無い、人によっては味気ない、滅茶苦茶な食生活を、極々普通だと思っていた。
勿論(一応)
フレイヤも王女様なので、王宮の盛大かつ華麗パーティーで山海の珍味や、国内有数のトップクラスの腕前を持つシェフが、存分に腕をふるってくれた魅惑的な料理も食べない事は無かった。
その時も「おいしいですね」感想はただそれだけ。
おまけに「新商品」軍保存食〜
無機質なコンバットレーション真空パック入り宇宙食も「おいしいですね」
寸分違わぬ、なんら変わらない感想はこれ如何に?!
彼女のクラスメート達も「あれはちょっとヤバいんじゃ無いか?」ヒソヒソ噂したのである。
「だってさー必死に私が予約を取った星付レストランの料理も『おいしいね』だけ言ってたよ?
で帰宅後、寮の部屋で ”お腹すいた〜〜〜!” って缶詰パッカーンと開けて、やっぱり『これおいしいね♪』……だって!
ーーーー脱力するよ、友人として。
『マズイ』っていうのと大差ない、あれには流石に私泣いた」
「何でも”美味しい”ーーーって思えるのは良いんだけど、んまぁ健康的だし?
でも、何かーーーどうもね、ちょーーーっとあの子の場合、違う気がする」
「異質だよねーーー」
「うん、絶対絶対 何かがおかしくて違うよ??」
「『食事=おいしい』っていう図式なのかな? フレイヤは」
「毎回 奇妙に単純で均一なんだよね〜〜? 感想が。
無表情でサラリと『おいしいですね』ーーーって。
人工知能搭載の機械音声みたく言われても萎えるし返答のしようがない」
「いくら何でも、コース料理1つで、私達のサラリーのひと月の大半が吹っ飛ぶ贅をこらしたメニューと、業者さんにサービスでいただいた試供品の宇宙食パックと同じ感想『おいしいですね』
それってーーーかなり変ーーーだよねやっぱり」
味覚のありようを心配する友人達は、盛大な溜息を、ハーーーーッとついた。
「あの子は何を食べても一緒だわ、なんなのよ、女の子なのに〜〜〜〜…!
薄気味悪い、気味悪いわ! 父親である貴方の育て方が悪いのよ!
どうしてくれるの!
更に女の子なのにホイホイ調子に乗って甘やかして王立宇宙軍なんかに入れたから!
矯正不能でソモソモ感覚が絶対におかしいわ!!全く!!あんなんじゃ、お嫁のもらい手が無いわ!!
幾ら、あの奇跡の瞳の色を持ってたって言ってもねっっっ!!」
キーーっと怒る母君が よく父王に嘆いたものだ。
それが切っ掛けでドタバタ夫婦喧嘩に発展〜は、王宮殿では有名な、お約束のパターンだった程の
ーーー衝撃の味覚の無頓着ぶりだった
だから最初『こんなに沢山クリームが食べられるかしら?』
そんな風にフレイヤは不安を覚える。
自分の欠点ーーーの自覚はある。
『何を食べても〜おいしいと思える事』は、自分では結構な長所だと思っていたのだが。
皆が文句を言う様に信繁にガッカリされたり、自分のせいで恥をかかせたくなかった
がーーー朝から信繁の事で胸がいっぱい!
美味しいとか美味しくないとか以前の問題、小鳥がついばむ量程の食事すら喉を通らず食べられる状況では無くて
ーーーー今回はそんな時
信繁の用意してくれた心づくしの素敵なお祝いの皿!なのである。
ーーーハッと突然ーーー
急に自分がお腹がすいていた事に気がつく。
『うわぁ〜〜〜〜!』
改めて見てもすっごくおいしそうッッ!!
鼻腔をくすぐる 甘酸っぱい新鮮な魅惑的な苺の香り!
ベリーのアレルギーが自分に無かった事を、彼女はこの時程 神様に深く強く感謝した事は無かった。
とーーーその時
グルグルグルーーーキューーーーッ…お腹が盛大な音で鳴ったのだ!!
『恥ずかしい〜〜ッッツ!!』 いくらなんでもこれは無い。
シーツを顔まで引っ張り上げて、ベッドに突っ伏すしかない。
『あぁもう私の馬鹿ーーーーーー〜〜!!』
〜〜〜〜〜もぅ何処かに消えて無くなりたい…
その時だった 「くすっっ」 いつもの信繁のクスクス笑いが聞こえて来た。
「私以外 ここには誰もいませんから? 別に心配しなくてもいいですよ?」
モゾモゾモゾ〜〜、勇気を出してシーツの海から フレイヤがコソコソッと、おそるおそる様子を伺うと
「大丈夫です」
かわいいケーキに乗ってる苺以上に、今や真っ赤になったフレイヤを、ただニコニコと、フッと優しい瞳で見つめた後〜
矢っ張り変わらず柔らかく、おかしげに笑っていた。
「美味しそう……」
「まぁ食べて下さい…」
彼が自分だけの為に用意してくれた、特別な誕生日のケーキ!
フォークでそっと唇に含む……
『うわぁーーーーー!!』
途端優しい、ふんわり漂う口当たりの良い、ミルクの甘みが口内でほどけ蕩けるように、パァッ〜と口いっぱいに広がる。
『……おいしいわ……!!』
クリームも驚く程の軽い優しい口当たりでーーー苺の酸味とーーーー
しっとりと柔らかなスポンジとの相性が、それは〜もう!!抜群に美味しい!
また芸術的な程に、綺麗な切り口でスライスされた、飛び切り赤く甘い苺がこれでもか!!と贅沢に、何段にも何層にも 美しくサンドされているのだ。
ーーーそうなのだ
苺のケーキ、ではなく実際は、ケーキ形のフレッシュな苺〜そのもの。
フレイヤは夢中でパクパク食べ、もう突き刺すフォークが止まらない!!
手が勝手に動く動く!!
「『規約』で、ナイフが持ってこられませんでした。
食べにくいですよね?誠に済みません」
「……ーーーえっ??」
「ーーーー要らないようですね、失礼致しました」
「ーーー……」
今は食べるのに夢中で〜真剣すぎて、何も言わない彼女の姿に信繁がつい苦笑。
本当に あれよあれよという間にーーーー
フレイヤが サクサク高速で突き刺すフォークの動きで、小さなホールケーキは みるみる、まるで氷が溶けるかの如くにグングン形状を変えていったのだ。
「すっごく美味しい〜〜!!何これ!!凄い!!」
「それは良かった」
フレイヤが実に美味しそうに 苺の乗ったケーキに夢中で取り組む様子に信繁は見るからに とても安堵、心よりホッとした顔で 嬉しそうに見える。
「ごちそうさまでした!!あぁもう……本当に幸せーーーー!」
〜うっとりと名残惜しげにトロンと甘い声で言うなり、フォークをカタリ、キャンドル以外は綺麗に一欠片のクリームすら何も残っていない皿に乗せるのだった。
けれども、この部屋のスタッフらに言わせればーーーー
「そう言うお祝いのホールケーキは、『アーン♪』して相手に自分が食べさせてもらう〜
或いは『お返し♡』って男性に、使用した同じフォークで食べさせるものですっっ!!」
しかし食欲全開のフレイヤにはそんな事は少しも頭に思い浮かばず、全部健康的にしかも自分の手で、胃袋に丸っとモリモリ収めてしまうのだった。
信繁には全く作為の無い彼女のそれが、かなり面白く映った。




