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ハッピー バースディ ③


「ちょっと行ってって・・・・・・!!」


ーーーーフレイヤは益々呆然とする。


富士は3,000メートルをゆうに越えるジャパンナンバーワンの高山である。


他の惑星の住人であるフレイヤ王女も ”正確な標高”こそ知らないものの、流石にそれは 超有名だった為に知っている。


『あと少しで4,000m級という、途轍もない山に、私の為に、彼は! 本当に登頂して来たって言うの?』



ーーーー訳がわからない


『ーーーどうしてそこまでして下さったの?』



「私からのプレゼントです、お土産に帰り道に麓で購入致しました」


「……そんなにも手間をかけさせてしまったの?」



「いぇ、荷物がガンッと混ざり合って壊れるといけませんので、そうしました。


大量生産品ではなくて、一つ一つ旋盤で部品を削り出し、この地で組み立てられた作家物です。

フレイヤ様は機械ものがお好きでしょ? その包みを是非開けてみて下さい。


あぁそれから、ちょっと目を閉じて下さい」


又々 訳がわからず、しかし言われるままそっと眸を閉じる。



急にーーーー瞼に温かな塊が押し当てられる



『何っ!!』 思わず驚きで身体が硬直する。


「また目が腫れています。

温かい蒸しタオルで、まず少し塩分を拭きますよ? いいですね?」」


滑らかで上品な声ーーーーー……


丁重にゆっくりと、押し付けるように、ふんわりと柔らかなハンドタオルが瞼を通過する。


「目が腫れている」とは確かに言ったが、泣いていた事の指摘はしなかったのが 

いかにも性質が優しい信繁らしかった。


 

『気持ちいい〜〜〜〜〜〜〜!!』

 


「ーーーージッとしてて」


ごく近くで響く、囁く甘やかな声。

 

僅かな気配


静かな落ちついた声が耳の側でーー涼しやかに囁かれる。


耳たぶを掠める吐息。


それは優しく微かに、いたわりと思いやりが蕩ける様に肌をくすぐる



ーーーー魅惑の甘い時


 

「今から今度は、冷却ジェルで目元を冷やしますから、ビックリして驚かないでください」


「ーーーーハイ」


丁寧な言葉の通り、アイマスクのような平たく長い形状の何かが代わりに スゥッと、徐々にのせられ押し当てられる。



『うわぁ……何これ!!』

まったく 言葉が出ない程の最高の気持ちよさ〜、しかも信繁はジェルが落下しないように、適度の圧で冷却剤の袋を前側から持ってくれている。


目の位置がーーー折角の冷却剤からずれないように


頭がーーーカクンと後ろに下がらないように



モフモフフカフカの分厚いタオルを掌の上に乗せた、彼の大きな手で後頭部を優しく危なげなくガッシリ支えられているのが堪らない。


私は守られている

 

大切に彼から…ーーーー気遣われている



『本当にこんなに幸せで良いの?』



信じられないーーーー


フレイヤの心は幸福感でふわぁと一杯に満たされてゆくのだ。



「手にもたれかかって良いですよ? お姫様」


「いいの?」


うっとりと、ぼーっとした声でそう返事をすると


「どうぞ そうして下さい、貴女の首が疲れてしまいますから」


甘い安らぐ声が聞こえてくる。


「ありがとう、でも信繁は疲れちゃわない?」

 

「どういたしまして、生憎この程度ではへっちゃらなのでお気遣いなく」


安心感溢れる、至り理尽くせりのーーー万全な処置に、あろうことか、ついウトウトしそうになってしまうのだ。



「そろそろ大丈夫ですよ?」


目を開けると目の前に、ホッと安心した表情の彼が静かに微笑んでいる。


再び涙が零れそうな程、目くるめく幸せな瞬間で、事実瞳が急激にウルウルっとしたのが自分でもわかる。


でも〜全然、今度は泣く事が恥ずかしくは無かったのが不思議で。


逆に嬉しくて、嬉しくって


彼にこの気持ちをわかって貰って受け止めて欲しい

 

この自分の、貴方の親切と思いやりに感謝する我儘な気持ちを!



「〜〜〜〜…」


「”また しっかり”ーーー冷やさなくてはならなくなりますよ?」


あえてなのか?戯けて、信繁はクスクス笑うから憎たらしい。

 



フレイヤは掌にのせて貰った「小さな包み」を、改めて眺める。


『何だろう?』 案外 見かけよりもそれなりに重量がある。


『?』


小さく振ってみると カタカタッと移動する固い音が聞こえる。


ーーー全く正体がわからない。


フレイヤは暫くその箱を手の中でコロコロッと観察、推理してみる。


『だって〜!直ぐに開けてしまうだなんてそんなの勿体ない!』


何故ならば、それ程嬉しくってわくわくしたからーーー!



『もう少しこの幸せを存分に嚙み締めていたい!嬉しい子持ちが瞬間冷凍出来れば良いのに。


そうすればーーー! 何度でも。

甘く幸せな気分が取り出せて楽しむ事が出来るもの!』


フレイヤはそんな風に、胸をときめかせ膨らませていた。

 

彼に気をかけて貰ったこと自体が……今回の楽しい楽しい ”プレゼント” そのものなのだから。



「ねぇ信繁?ーーー凄く綺麗に包んであるわね!

なんだか解くのが勿体ない気がするわ?」


フレイヤがそういうと信繁は嬉しそうに、少し得意そうに微笑みを返すのだ。



「そうですねぇーーージャパンでは、包装紙を開くと花の蕾が解けるように。

 

中からコロンと品物が現れるような、そういったラッピング方法が多いですよ?


大手のデパートでは皆そうです。

1カ所だけシールで包み紙を、ペタッと止める手法なんですよ」


「これは信繁が?」


「いいえ?

私がそこまでしたら、気遣いをする店舗のご主人に対し非常に無礼な、越権行為になります。


けれども包み方はわかりますよ。


亡くなった母が、自分で贈り物を、従業員への贈答品を包みながら私に実演して見せ〜


子どもの頃の昔 私に『やってみなさい』と教えてくれました」



「じゃぁ信繁は、今でもその方法でラッピングが出来るっていうの?」



「えぇまぁ……

最低限に必要な知識、恥をかかず日常生活どこかで必ず役に立つ知識だからと。


でーーー

『自分で1度でもしてみないと、最初に考えた人の工夫と凄さがわからないでしょ?』


そう言って、自分が出来る様になるまで根気よくつき合ってくれました」



少し得意げに、それでいて優しげでーーー

柔らかな懐かしげな顔で、今は亡き大切な人との思い出の絆を語るのだ。



「開けていい?」


「勿論!」


「……」

何だかリボンをほどくのが綺麗すぎて嬉しすぎて勿体ない!!


例え中から出てくるのが、びょ〜〜…ん〜〜〜!!!


驚かす為の仕掛け、悪戯な ”びっくり箱” だとしても全然不快でないだろう。


フレイヤは 震える指先で、キュッと勿体ない程完璧に美しいリボン結びの、赤い艶々なサテンリボンを解きほぐす。


カワイイシールを破らないように剥がしたところで、フゥッと大きく息を吐く。

 

何とか〜最初の関門は無事クリア


ラッピングペーパーをパリパリとゆっくり開いてみると〜!


本当にーーーー信繁の話通りに、花の蕾のようにパッと開くのである。


まるでつるんと綺麗なペーパーが、美しき魔法をかけられているみたい!!



「凄い!!」


思わず心からの、本気の賞賛の言葉が唇から飛び出してしまうのだ。



丁寧に心を込めて綺麗にラッピングされた包み紙の中から今度は、小さな厚紙製の白い小箱が まるで純白の宝石の様に現れる。


紙製の箱をゆっくり開けるーーーー胸がドキドキ



ところが想定外ーーーー全然全く ”予想外” の事が起きる。



『えっっつ? ええっっ〜〜〜〜〜〜!!』



ーーーーー開かない、開けられないのだ。



『え〜〜〜〜〜!! どうしてよ!!』



指先がカリカリ猫の爪音みたく、乾いた音を立てて滑るばかりで、紙の蓋部分の 透明シールが取れないのだ。



『そう言えば〜〜〜〜〜〜!!』


思い当たることにハッとする、と同時に背中を冷たい汗が流れる。



実は丁度、昨日の夕方、フレイヤは少し長く伸びた自身の爪を、自分で雑に


「HOME USE MEDICAL KIT」と印字されたカッティング用の道具で、適当にパチパチパッチン切ったばかりだと言う事を!


ーーーおくばせながら、急に思い出したのである。



医療スタッフに出して貰ったアレは〜…信じられない程!切れ味が良くて。


……しかも非常に細かく良く切れたから楽しかった


ノリにノって、ドンドン短く切って遊んだのだ。

(何せ娯楽が少ない)


邪魔な引っ掛かりがなくなり、とってもスッキリし大満足だった。



『そう言えば……変な、宇宙人語を語ってたわ?

内容はサッパリ理解できなかったけれど、アレって もしかしてこう言う事?』


もしかしなくても そうである。


『2人は更にこんな事を言ってたっけ?』



曰くーーーー「お姫様、ネイルとか、なさってなかったんですか?」

とか?


「あぁっっつ!!〜〜〜〜何て事を!!


そんなふうに バキバキ切るんでは無く、ネイル用のヤスリで少し整えてから 

甘皮をスティックでこうーーー!


いいですかこの様に、クリームで皮膚を柔らかくして、それから徐々に?


きゃぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」



『何? 意味不明だわ? 爪は爪でしょ?』


のたうち回る医療スタッフの2人の悲鳴と慟哭など 聞いちゃいなかったんである。


『〜〜〜爪が短すぎて、紙の斬り込みが開けられない!!』



ぁあもう〜〜〜最悪ーーーーーーー……っっっ!何て間の悪い自分!



原因を悟ったその瞬間、ダーーーッと……薄気味悪い汗が全身に流れ落ちる。

 

『間が悪すぎる!!』


焦れば焦る程カリカリ指先は 無常にツルツルの紙箱蓋面を滑ってしまうのだ。



『ひょっとして、折角のロマンティックな瞬間が台無し?!

私ってはしたない?!王家の王女様なのに?!


ーーー箱の蓋をビリビリこの人の前で破るなんて、そんなの嫌よ!!』



だって折角……考えに考えて選んで。


信繁がきっと行程的に、とんでもなく大回りをして莫大な時間と手間暇をかけて


大切に、貴重な休みを目一杯使って、選んで、一生懸命運んで持って来てくれたプレゼントを!


自分の前で……

もしも相手が幻滅な ”そういう事をしたら” ーーー




〜どう思うか?〜




『キャーーーーーッツ!!』


 

バリバリッと〜〜〜……!

 

お猿のように引きちぎる自分の姿を想像し、更に今度は全身の血液が沸騰し逆流しそう!!

 


『そんなことをすれば、大好きな信繁にーーーー


『何て下品な女だ』

 

そう思われて、幻滅されるに決まってる!!』

  



そうだーーー時々忘れるが、仮にも自分は『王女様』


それも銀河連邦加盟惑星間でも 特に華やかな文化・文明で名高い惑星フレイ


ーーーー「第5王女様」



『〜〜〜〜……!!』

 

フレイヤは思わず、今度は自らの馬鹿さ加減にカーッと頭が沸騰、瞬時に泣き伏しそうになってしまうのだ。


どこかに全速力で隠れてしまいたい、何てどんくさいの?!


『恥ずかしすぎるっっっ!』

 

とーーーーー!! 急に紙の箱がスイッと宙を浮いた。


 

ええっと…気がつくと、紙箱は既に 信繁の手の中に有り、あれ程手こずった紙箱の蓋は長い指先で優雅に、しかも奇妙に慣れた仕草で〜

 

あっという間に開封され手渡されたのである。


『!!〜〜〜〜どういう事かしら?』


「ハイどうぞ」


「・・・・・・」


「気が利かず 済みません」



「よくーーーこういう事を、綺麗な女の人にするの?」


『悔し紛れに嫌味をチクッと言わねば気が済まない この口が憎らしいわ〜』

フレイヤは恥じる。


 

「いいえ?」

ところが実に不思議そうにーーー信繁は返事をしたのだ。



「今と全く同じ事を年中始終 私の部下がしてるんで、偶々慣れてるだけです。


彼はプロのピアニスト〜 と言って良い程に素晴らしい『バッハ弾き』なので。


高度で精密な、洗練された曲を弾くために長い爪が邪魔なんです。


鍵盤に指先がカチカチ当たって滑らないように、どんな時も、常に爪が短くカットされてるんですよ。

樹脂のマニキュアが触れた際に鍵盤にこびり付かないように、爪は磨きこそすれ補強剤は使わない流儀のようですね。


その彼に言わせると、弦楽器専攻者は左手の指先だけを常にピンポイントに固く鍛え、その上で爪の割れを防ぐために、さまざまな塗る樹脂で強化の工夫をするそうですよ。

音楽家の彼らにとって、指先は楽器の一部なのです。


ですんで、蓋が開かないとか 紙がめくれないーーーとかーーー

四苦八苦、しじゅう苦戦してるので よく手伝うんです。


本人が聞くときっと相当怒るでしょうが、側で見ると何だか可愛らしくってね。


そういう時だけは焦りまくって隙だらけで、年相応で。


あれほどどんな時も絶対に完璧であろうとする細やかな彼が、わたわたしている姿が面白くって、自分はとても好きなんですよ。


短い爪は清潔感があって いいじゃないですか?

私は好感を持ちますよ? お姫様」

 

 

信繁はしれっとした顔でそう返すのだ。



『本当かしら・・・・・??

確かに私のための絶妙なフォローなんだけど……!』



ーーー何だかいいように『誤魔化された』気もするし?!


 フレイヤは、まるで模範解答の様に、あまりに出来すぎた話に、何だかクッと悔しくて、胸がモヤモヤしてしまう。


『それにその彼ーーーーすごく可愛がられてるし!!』

そちら方面でも超ムッとしてしまうのだ。



ちなみに信繁からは そんな心の葛藤が丸見えである。

 

『世慣れていず〜 案外擦れていない可愛い人だな』



ーーーー心の中で呟き胸の中がふんわり温かい。




信繁は嬉しかった、自然と顔に笑みが浮かぶ。

 

用意してきて良かったと思うのだ。



 


『わぁーーーー素敵!!」


 

それは本当、正直なフレイヤの感想で、改めて渡された白い紙箱の中には、小さな。ピカピカ金色に輝くオルゴールが入っていたのだ。



金色のマシン、機械部分は薄い透き通った樹脂製・透明で頑丈なカバーで包まれている。


装置が止めつけられた反響用土台部分は、磨かれた美味しそうなチョコレート色の滑らかで綺麗な堅い木材で作られている。



曲タイトルが刻印された機械と同色の 小片の美しい金色のプレート


連邦英語で『Twinkle, twinkle, little star』



〜ジャパンの和名では「キラキラ星」

そう記名〜 しかも明らかな手彫りで刻印されている。



きゅ……

 

フレイヤは指先でぎこちなく、側面のネジを巻く。

 

チカチカと優しく懐かしいメロディーがこぼれだす。


「素敵ーーー……」




フレイヤもーーー幼き日。


偶然にもーーーー?!


優しい乳母〜 ナニーから。


よくベットタイムに甘やかな子守歌として、何度も何度も唄って貰っていた大切な思い出の曲だった。


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