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ハッピー バースディ ①


信繁は、以後も様々に 王女を和ませる工夫を凝らした。


次々に繰り出す「魔法」に、どれ程救われたか!


いつしか深夜、泣き伏すことは無くなった



時折医療従事者の二人合同で企画してくれる、ヒミツの男子禁制


〜”深夜のパーティー”〜も、心を穏やかにした。


繊細な心配りが、メンタルに働きかける、小さなサプライズが……

 

孤独で心細いフレイヤの心をどれだけ和ませたかーーーー



そんなこんなで、身体も落ちつき、あんなに長く続いた悪阻も随分治まる。


不安定な母体も漸く「安定期」に入ったようだった。



**************




その日は フレイヤ姫の「誕生日」で、内心とても楽しみにしていた。


きっと何かお祝いしてくれるに違いないと。



ーーーーしかし何故か??


いつもの定刻になっても一向に信繁は来なかった


『どうして来て下さらないのっ?!』


フレイヤはジリジリしてーーーーーー!

 

内心不安でいっぱいで悲しくって……


 

見捨てられた様な心細い思いで



とうとう我慢出来ず、不安に押しつぶされそうになり、彼の勤務シフトを調べて欲しいと頼んでしまう。



『そんなに我々に気を遣わなくても良いのに……!』


部屋のガードする職員も、医療スタッフも皆そう感じ、モヤモヤ切ない気分になってしまう。


王家の姫君だから、きっと横柄、我儘なオヒメサマだろう!


実は自分達が配置された時、そんなことを思っていた。


事実ーーー

城に収監される人物は、そう言った特権階級から堕ちてきた人物が多い。

 

お世話係のスタッフに対して、人をヒトとも思わない人物も一定数は存在する。


特に東洋人〜アジア系。

有色人種の中でもこのカテゴリーに対する人種への、無意識の感情は非常に複雑な場合が多い。


だがーーー……何故か。


彼女には意外や意外な程そういった、”なんとも言えない” 独特の空気感が無かったのだ。


それでいて〜ただ部屋に居るだけで、犯しがたい気品ーーーーー


特別な光……何かがある。


こんな心身共に辛い状態でも、内側から零れ出す輝き、眩しい程の燦めき




「彼女は特別だ」



ーーーー皆、今ではそのように感じている。



『そりゃあの噂の、おっかない軍事惑星の軍幹部連が嫌がって追いやる筈よね!


絶対〜フレイ残党が終結するに決まってるし?

 

ーーーでもそうなったら。

お腹のベビーちゃんの、堕胎を確実に要求するわ?


……案外ここに送られたのは、良い事だったのかもーーー??』

 


この尊い、寄る辺なき方を御守りするのは我々の義務だ。


 

「わかりました?」

「ーーーわかってます先輩」


ぺこっと頭を下げ部屋をスッと出て行く。



本来ーーー

”こうした現在進行形の、個人情報を教える”こと自体、施設的に重大なタブーであるのだが。


そのあたりは ”蛇の道は蛇”ーーー……


『伝手の伝手』で、フットワークが軽いタイプが巧に聞き出しに行ったのだ。


 

「大丈夫ですそんなお顔をなさらずとも」

 

「…」


先輩は後輩の能力を信じ、はっきりと言い切る。




ーーーーところが! もたらされたのは予想外の内容で。



何と今日は朝から、信繁は有休を取って休みだという。



「え・・・・・・?」



ーーーーーショックだった

 


「そんな……事、全く彼から 何も聞いていないわっ!!」


「私達も信繁様から聞いていません」

 

「何か、親戚筋にご不幸があったんでしょうか?」



「敬愛する、おばさまが〜確かお1人いらっしゃる筈よね?」


「い〜ぇ違います”おふたり”です

おひとりはーーー本来でしたら信繁様……


信繁様が辞退したせいで、ホントだったら彼が継承する筈のご実家の会社の総指揮をされてる方で


”早くコッチに戻ってこい” ってーーーー


亡くなられたお父様のお姉様、『城を辞めろ』発言の急先鋒の伯母様で……!


もうおひとりは、新進気鋭のホテルチェーン経営者で、他に飲食業を全国展開で経営されてる方。


昨日も電脳マスメディアでインタビューされてたので、お顔を拝見したばかり。

だからご健勝、存命です。


その方は未だお子さんがいらっしゃらないので、”彼が養子に入ってくれたら”


ーーー強く望んでいる方です」


「えーー……?!」


「……言っては何ですが……どちらも辣腕ですよ?

 

しかも『女性』ですから、絶対に諦めないでしょうね、後継者問題を。


1度捕まったら最後〜 信繁様、そのまんま座敷牢に軟禁されそうです。


”もう1度” 済みません今度は私出ます。


なんでも知っているファンクラブのリーダーに直ぐ事情を聞いてきますから、お姫様 任せて下さい!」


「〜〜〜お願い〜〜〜!!」


小さく目配せするとほんの少し会釈をし、ベテランは脱兎の如く病室を退出。


ところが、案外彼女が戻るのは早かったのだ。


スゴスゴと帰って来てこう話し始める。



「そういう事では無いようです。


もしそうなら確かに『忌引き』扱いで、福利厚生の関係で人事課に何かしら動きがあるんです。


全くーーー何にもありません。


課の知り合いに聞きましたし、リーダーも『えっ?』って、初耳みたいでした。

 

アイドルの雅君にーーー聞いても。

 

あっっ彼は『信繁班』の〜、例のニューフェイスで入った技術専門の班員なんですが、ニヤニヤするばかりで惚けられました」


「有り難うございます」


 

必死で〜フレイヤはにこやかな顔を作って微笑む


ーーーー見ている方が辛くなる痛々しい微笑。



『頑張って、私の為にお願いを調べてくれたんだから。

お礼を言うのは当然だわ!!』


しかしーーーーーー!!


『何だか他人が、自分の口を借りてお喋りしてるみたいーーーー』


何もかもが フワフワ現実感がなくて。


自分の声すらーーーーぼんやりと、どこか遠くに聞こえる



所詮忙しい多忙な彼にとって、「自分は単なる業務の一つ」なのだと思い知らされ、改めて突き受けられた気がした。


そしてーーーー自分でも〜驚く程動揺している事に余計に傷ついてしまうのだ。



それでもーーーーひょっとしたら?

 


『ひょっこり病室に遊びに来てくれるんじゃないかしら?』


微かな一縷の望みをかけていた。



『来てくれるかもーーーーー!!』



ーーーーーーが、待てど暮らせど信繁は来なかった。




とうとう夕刻の、就業終了時間を過ぎてしまう。



酷く気落ちした王女様を気遣って「私達は今夜残りましょうか?」



詰めている警備担当官や医療スタッフは皆優しく申し出たのだが、フレイヤはハッキリ首を振り断る。


「私は大丈夫です」


「御用があれば いつでもお呼び下さいね?」



内勤のスタッフらは何度も振り返りーーー

後ろ髪を引かれるような姿で彼らの専用住居スペースに帰って行った。



**************



「お姫様ーーー本当に大丈夫…ですか?」


「えぇーーーー大丈夫です」



それを聞いた、病室に交代でやってきた、夜勤の看護師や警護役隊員は思わず


『大丈夫という人程、実際は大丈夫じゃぁ有りませんよ?』


〜咄嗟に、口について出そうになったが、ギリギリで何とか踏みとどまる。


今の傷心のフレイヤ王女に対して、絶対に言えない言葉。



何故ならば、彼等にそれを初めて噛んで含める様に丁寧に、まるで「言い聞かす様に教えた人間」こそは、敬愛する教官、信頼する憧れの職員


ーーーー他ならぬ信繁だったからだ。


 

そうーーーー

彼の口癖のような〜 人の心の正鵠(セイコク)を射た言葉なのだ



フレイヤは 特殊部隊 警護役の隊員、医療スタッフに、『今日だけ』と 特別にお願いし、部屋のドアの外に出て貰った


 

「済みません…今夜だけーーーー今日だけ1人にして下さいませんか?」


「それは〜〜ちょっと」



「早まったことはしませんから、どうかーーーーお願い致します」


「わかりました」


カタンーー……頑丈な扉が閉まる音、これで広い部屋に1人ぼっち。




『何処かに仕掛けられた防犯カメラで、きっと見ているのでしょうけど?』


それでも、身も心も気高く強くあらねばならぬ〜


王女という高位の身分の自分が、駄々っ子のようにみっともなく取り乱して大声で泣くところを直に……


ーーーー他人に見られたくなかった。



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