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面会三日目 ①


「こんにちは、フレイヤ王女様」



信繁は1日空けただけで、結局、再び何事も無かった様に「ご機嫌伺い」に病室を訪れた。



**************



その日の朝はーーーーー……「フレイヤ王女様ッ!!」

 

「何?」


「〜そのお顔、一体全体〜〜〜〜どうされたんですかっ!」



え?


見た瞬間、きゃーー〜と悲鳴を上げられる程、指摘されるまでも無く貌は涙でパンパンに腫れていたからだ。



「コレで冷やすとお顔の腫れが引きますから!」

 

「信繁様が来られたら、酷く心配なさいますよ!」



『ーーーーそんなこと無いし?』


暗く皮肉を交えフレイヤはそう思ったが、2人の誠実さに口に出すことは流石に控え、グッとこらえる。


そもそも信繁と揉めた理由も、自分の冷笑的な部分が引き起こしたと自覚している。


まるで、八つ当たりにしか思えない、見苦しい悪態をつき


「こんな方だったとは!」

「ガッカリよね」

 

言葉の暴力で傷つけ、意地悪く泣かせて、悲しませたくない


どんなにか自分に対し、失望する事だろう……!



『そんなのは嫌!』ーーーーー絶対に嫌だった

 

挑発的で戦闘的なのも場合によりけりで、何でもかんでもイライラ突っ掛かり怒ってばかりでは、真面目な善意の心優しい彼女らに申し訳ないと思った。



「目を閉じてーーーー!」


「目元用の冷却剤パックです」


今にも泣きそうに、腫れた顔を代わる代わる心配して、素早く適切な処置を取ってくれている中、ロボットによる配膳、朝食が運ばれてくる。


『うっっ!……』


見るなり〜いや、”匂いを嗅いだ途端” に 胃にせり上げる物を感じるのだ。


 

しかしーーーー……

 

どんなに気分が悪くなっても ”吐けない” のだ。


……理由はわからない、自分だけがそうなのだろうか?


ただただ気持ちが悪く、深酒をした翌朝の様に内臓がムカムカするだけ。


『想像と全く違うじゃ無いの!』


 

フレイヤは1人、駆け込んだドレッシングルームの洗面システムにグッタリ、ペタンと座り込み両手で顔を覆う。


どこもかしこも矢張り真っ白な 乳白色強化ガラス製、傷1つ無いパネルにもたれてガックリと項垂れてしまう。


ヒンヤリ冷えた表面に、頬をくっつけると物凄く気持ちが良い。


「……どうして?」



そうだ、よくあるーーー

昔見たシネマシチュエーションでは、気分の悪いのは ”ほんの一瞬”


激しく嘔吐〜グエグエ吐瀉すれば平気っぽかったのに、アレは嘘! それも特大の大嘘じゃ無い!!


こんなずーーーっと ずーーっと ず〜〜〜〜〜っと、慢性的にボンヤリうっすら気持ちが悪いだなんて登場人物達は一言も言ってなかったし?!


切れ間無くエンエンと浅い、不快な時間だけが過ぎてゆく


ーーーーそんな話 私は聞いてないっっっ!!



「フレイヤ様ーーー大丈夫ですか?!」



ドアの外から切羽詰まった甲高い声が投げかけられる。


次に〜……

コンコンと丁重なノックの音と共に、落ち着いた声。


「ーーーお加減如何ですか?」


ちゃんと丁重に扱ってくれて、「礼」を取り、優しい気遣いが嬉しい。


1人の人間として尊重されているのが、今にも押しつぶされそうな心細い心にヒタヒタ染みるのだ。

 

惑星トールではそんな扱いはして貰えなかった。

(確かに私も反抗的、手当たり次第に投げ散らかして大暴れをしたが?)


ーーーー全然違う。


この恐怖の、銀河で最も最悪の監獄ーーーー城の方が悠に人道的。



『〜〜〜〜……』ーーーー 再び涙が出そう。



「ええ、大丈夫です!」……本当は嘘だけど?


フレイヤは、ワザと明るく振る舞いこう述べる。



「今からそちらに出ます」



「……あのぅーーーー実ーーー……は」


何故か少し、変な間合いが開く。



「??どうかしたの?」


「信繁様がお見えになりましたがーーー王女様はお会いになられますか?」



え〜……


ええええっっっーーーーーーー!!



フレイヤは重苦しい息を必死に整え立ち上がると、腫れた顔をもう1度 ばしゃばしゃ勢いをつけて洗うのだ。

 

短いとはいえ、あっちこっちに飛び跳ね、乱れきった髪を手でサクサク整える。


……といってもロングヘア、往事の美しさーーーは


「こんな髪もぅいらないだろ!?」

「丸刈りに切っちまおーぜ♪」


「このクソ生意気な女め、ウチの純情な王子様をたぶらかしやがって!!」


突然ドヤドヤ現れた武官数人がかりで押さえつけられ、独房にて面白がって無理やりカットされたせいで、無粋な不揃い故に無かったが。

 

尚ブースには。女性として心理的に重要なメイキャップ用の化粧品、メイク道具は無い。


だからそのままーーーどうすることも出来ない。


慌てて飛び出す様に小部屋から出てくると、急いでベッドにダイブし潜り込む。


ーーーー信繁の穏やかな声が、寝具越しに柔らかに聞こえる。


だが対応が、経験値が少なすぎてわからない。




「いいわお通しして」


「ハイッ!」



ーーーーどう言う事なの?

 

私の事呆れて、大っ嫌いになったんじゃ無いの?



「こんにちは、フレイヤ様」


『まずいーーー嬉しすぎて困るわ!!こんな時、一体どう反応すれば良いの?』


とにかく何気ないふりをして、平然としたふりをして寝具より顔を出す。


しかし慌てて、カァァッと赤くなった顔をあからさまに信繁からそらした



「・・・・・・・・」


しかし一瞬、目に入ってしまう。


自分の前に立った信繁の顔が暗く曇るのがーーーー!



『どっ どっ どうしよう〜〜〜〜・・・・・・!!』


もう内面は完全にパニック状態で。


『そっ そうじゃないの!!』


 

ーーーーー私は謝りたいのよっっ!!ーーーーーー



「・・・・・・失礼します」


立ったままだった信繁は、いつもの簡易チェアを音も立てずセットし 綺麗に座るのも今まで通りだった。

 


けれどもそのせいで、目線が更にグッと接近したからフレイヤとしては恥ずかしくてたまらないのだ。


けれども信繁の方はといえば、何も言わずーーーーどうしてか、フレイヤの様子を観察しているように感じた。



『〜〜〜〜!!』


どうしよう、どうしようと慌てていたが思い切って、そろそろと顔を上げて


ベッド脇に座っている彼の顔を…… ユルユルと、上目遣いに見上げる。

 


別に意図しているわけでは無く


”偶然偶々そうなってしまった” と言った方が正しい



だがその途端、サッと!! 信繁の方から視線がそらされた。



『!!』


謝罪のためーーー

なんとか絞り出して喋ろうとしたフレイヤの声が ピキンと喉につまる。



『嫌われたって事?!』



気まずい沈黙が流れ、ますます途轍もなく舌が重くなり、声が全く出ない。



やむなく口を閉じ、唇を引きしぼり奥歯を噛み締めうつむくと、どうしてか涙がポロッと零れてしまう。


たまらず指先で、ベッドのリネンをグッと握りしめる。

 


『そっかぁーーー本気で嫌われたんだーーー』


認めるのが辛かったが、そのせいか? 落ち込みすぎて自暴自棄ーーーー


要するにーーー「荒れた」


すると幸か不幸か ”勢いで” 出なかった言葉ががスルリと飛び出したのだ。



「ごめんなさい……、言い過ぎました。


本当にーーーーごめんなさい……」


 



涙で鼻がツンとする。

下から涙で潤んだ瞳で真っ直ぐ 信繁の顔を見上げる。



『普段だったらーーー絶対、泣き落としなんかしたくない、ずーっとそう思っていたのに!!』


女性が泣いた状態で!!

ーーー男性に、こんな風に言うのは卑怯だ!!〜とすら、今までずっと考えていたのに。


『職場ですら 絶対にしなかったのに!!


でもーーーもう……どうだって良いし……』

 


恥も体裁も建前も 綺麗に頭からすっ飛んでしまう。



特権と甘えで……逃げたくは無かった。



きちんと正直に「ごめんなさい」と直接、 信繁に傷つけたことを謝りたい。


 

「ーー……」

 

「……」



少し〜実際に間が空いた。

 

重苦しい緊張に堪らず、心臓がギューッと引き絞られる

 

ーーーー心が痛い。



『そりゃぁ 許してくれないわよね……

でも嫌われるのは、それだけはーーーちょっと嫌かも。


嘘〜〜〜本当は凄く嫌ーーーー!!』

 



ーーーーと

 


「私も、不安で揺れる王女様の気持ちを察することが出来ず、独りよがりで。

御不快な思いをさせました。


ーーーーこちらこそ反省しています、済みませんでしたね」


 

え?



ええええええええええ〜〜〜〜〜?!


思いもかけない言葉が降りて来た。


思わずーーービックリした表情を浮かべると、今度は相手にニコッと微笑み掛けられるではないか!!


『〜〜!』


目の前の信繁は、決して怒りの眼差しではなく、甘く優しい表情をしている。



ーーーー何故か急に胸がドキドキし始める。


鼓動が……五月蠅い。


 

『……どうしてなの?』



しかし決して悪い気分じゃ無いのだ。


 

煌めく天使達が金管楽器を吹き鳴らし、リンゴンりんごん黄金の鐘を鳴らし〜

「良かったねーー♪」

 

キラキラそこら中を、キャッキャうふふと舞い踊ってる気がした。




「どうされましたか?」



「!! 〜〜何でもありません!!」


フレイヤがツンとそう言うと、急に信繁がクスッと笑う。



「ーーーー何?」


「いえ」


『!私は本気で真面目なのに!!』 フレイヤはムッと、頬を膨らませる。




「仲直りできて良かったなぁーーーと思いまして」

 

 

「〜〜〜!!」



『もぅ何でそういう 嬉しがらせる事ーーーこんな時言うのよっっ!!』



さっきよりも もっとカーーーッと顔が赤くなる。

内心の動揺を押し隠すのに必死。



フレイヤは自分と再会してすぐの信繁が、いきなり視線をそらした理由について


よもやーーー彼もまた「ドキリとしたから」だという、本当の理由を知らない。




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