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ちょっと休憩 ⑦

ボンヤリする頭で信繁は埒もない、次々に湧き出す考えをゆらゆらと巡らせる。



『さてーーーー……どうする?』


「ご機嫌伺い」〜 ”今後行く” と大見得を切ったくせに、よもやの放置。


無責任すぎやしないか?!


規則に反しない程度で、言い訳と捉えられても後日何とか解って貰うべきか?


そこまで考えて、信繁はハッとし、思わずギョッとする。


突如ふきだした〜急に思っても見ない向きからの意識の飛躍〜考察だった。




『もしーーー……自分がーーー…… ”明日の実技試験” を失敗したら?


ーーーーーどんな ”噂” が立つ? フレイヤ王女様に対して……』




案外に狭い人間関係ーーー……噂は早い。



”どうやら担当の、城主から直で説得を任された王女とアイツは揉めたらしい”


でーーーーアレヨアレヨーーーー……!



”信繁ってサァ〜あれ程真剣にトライした試験に失敗したンだぜ”


”何で?”


”あ〜〜〜……聞いた聞いた、それってねぇーーーーーーーーー!!

ははは理由知ってる?”


”……え!ーーー緊急に決まった実技試験なのに!”



気分を散らすことをあの王女様がしたせいで〜!

タダでさえもーーー

集中をしなければいけなくて大変だったのに……!



失敗したのはあのお姫様のせい!

ワガママ放題のフレイヤ王女のせい!



ーーーー


何て女だ!

酷い!


………


……



『サァどうする……?』



きっと ”こう言った内容” 〜展開で、無責任な噂程あっという間に拡散する。


人は揉め事の場合、一応は身知る付き合いの長い人間の肩を持つ場合が多い。


それになにせ他人のスキャンダルは最高の蜜の味の娯楽、ただの味方のフリの誤魔化し、真偽なんて実際の所はどうだっていい。



ストレス解消で楽しめる、好きなだけ滅多打ちに出来る、自分の居場所に関係ないネタでありさえすればいいのだ。


おまけに何故か、本人の耳に入らない様に上手〜く広がる性質を持つ。


ハッと気がついた頃はーーーー……手遅れ、元来そういう性質なのだ、噂という物は!


高温室なのに、背中に冷たい汗がスーッと流れた気がした。

 

ただの杞憂だといいが、信繁は過去、散々この手の風評被害に手を焼いて来た。

一旦拡散、広まったらもうどうにもならない。


戦う事も出来なくはないが、多くはひたすら鎮火を待つしか無い事を、実体験で良く知っていた。



勿論コレはあくまでも「仮定の話」だ。



希望的観測でーーー……そうならないかも知れない

 


しかし信繁にはそうは思えなかった。


「芽を摘み取るべき」

ーーーその為には、絶対に自分はしくじってはいけない。


弱みを見せないよう、防ぐ手立ては合格する事のみ、その1点だけ。


例えーーーーー……どんなに不利な条件であっても、彼女を……

 

得体の知れない事、見えない悪意からガードするにはそれしか方策は無い。

 



『出来るのか?!俺はーーーーー』




 

その時ーーーーー再び、人工の合成音のアナウンスが入る。


「お疲れ様ですーーーーでは冷水入浴へとお進み下さい」



再びマジックハンドが適量の水分〜イオン水と薬剤の入ったコップを差し出す


今度は少々大きめーーー先程よりも多い量だ。



「ありがとう」 信繁は律儀にお礼をシステムに話しかける。


「どういたしまして」


まるで照れた様な甘系の声色の合成音が返って来た。



これがサウナでの肉体の休息ーーーーの 終了だった。

 

もっとも〜信繁の忙しい脳が休息したかは別だったが、その後信繁は、セツと雅がビックリする程穏やかに、何の抵抗もせずに従順に ”言う通りに” 行動。


命ぜられた、全てのカリキュラムを粛々とこなす。



「……どうしちゃったのサ?」


セツは彼の心境の変化に驚いた顔をしていたが、信繁は特に自分の胸の内を告げなかった。



「明日絶対合格!……ですよ!」


「あぁ任せとけーーー心配するな」キラキラした眼差しの雅に優しく頷く。


 

途端にポロッと……雅の目から一滴の涙が零れ落ちる。



ニコッと信繁は笑うと、ポンッと彼の肩を軽くタップ。


ーーーコレは彼が心が定まった時にする癖で、出た場合は精神が極めて安定しているという証拠で。


「!!」


それを素早く察した上司思いの雅は、今度は本格的にワンワン泣き始めてしまった。

 

信繁はスポーツウエアのポケットから、ピシッとアイロンがかかった大判ハンカチを取り出すと雅に差し出すのだ。


「お借りします」

「そんなのあげるよ」 大らかに信繁は笑う。

 

『もう大丈夫ーーーなんですね!』

雅はウンウンと頷いて、やっぱりますます泣けてしまうのだ。


 

「調子いいみたいダネ」


「……まぁなーーーー色々とサンキュッ!」


 

信繁は雅と安心した表情のセツにゆったりと、充分にリラックスした表情で明るくそう返事をする。


あのピリピリ尖りまくった片鱗は今ーーーどこにも無い姿にセツも安心して微笑む。


信繁の綺麗な茶色の瞳がクスクスッと悪戯っぽく茶目っ気たっぷりに輝く。


皆どれ程ーーー彼の放つ最上級の奇跡の笑みを視たいと切に願うだろうか?


そんな事を思わず連想してしまう、極上の、幸福で、豊で幸せそうな、穏やかな微笑み。



「ジャーーーいっといで、良い知らせを待ってるからね〜〜♪」


「ぁあ!」

ガシッと2人は固い握手を交わすのだ


「頑張って!」


「信じてます!」


「信繁君の合格を願って、では三三七拍子〜〜〜!」

 

「よぉ〜〜〜〜〜ッッッ!」


事情を知って駆けつける研究員の大騒ぎに、再び振り向くと信繁は


  

ーーー未だブンブン両手を振り回し、感情表現豊か過ぎに応援するセツ

 

その仲間達


彼等〜皆に、自分もヒラッと長い腕を振り感謝を伝える。


 

『自分は1人じゃ無い』『自分は出来る』『絶対大丈夫』『必ず受かる』

 


『絶対に、合格するんだ』ーーーー!!

 



信繁が、不夜城を出るとーーーー……


「よぉ〜〜……ぉ 相棒」


長い脚を組み合わせて壁にもたれ、ポツンと子龍が立っていた。

床にはなにやら荷物がモコっと置いてある。


「今ナスチャとヨンがアッチの指導してる。

……今から行けば ”定期便” に丁度良い」


「助かったよ子龍」


「あぁこれーーー床のは瑠架から、それからコイツ、定期便の中で食え」


子龍はガサガサと、腕に掛けていた小さいが頑丈な紙袋を突き出す。


「?なんだこれは??」


「受験に必要な品全部と、”お前の好物” と ”瑠架の秘密道具” が入ってる。

ホロの小型シミュレーターだ。

こんな超常高次元じゃ、正確な練習にもならんだろ?


早めに行って、しっかり現地で練習した方が良い。


ーーーー試験場、ハネダ宇宙空港の外苑……

外れの飛び地みたいな場所であるんだってな? 俺もチョイと調べてみたぜ。


空港ホテルのーーーこの部屋で今晩は休め。

 

お前の名前で予約をして宿泊料は俺から入金済みだーーー支払ってあるからフロントでただ名乗れば良い。


あ〜……忘れるとこだったぜ。

『着替え』も部屋に、新品の私服が届けてある。

 

ありふれた周囲の記憶に残らない平凡な物だ。


夕食も出ずに済む様、予めルームサービスを頼んでおいた。


ーーー明日の試験に集中しろ、余計な事は何も想い煩うな、いいな?!」


「……すまん」


「客室の窓から……遠いが試験会場が真っ直ぐよく見える筈だ、イメトレで良いだろ?

 

今回からーーー高レベル試験は、夜間飛行テストもあるんだって?

ったく、ふざけんなよ、だよなー


だったら向こうに着いてから、ドッコイショとホテル予約じゃもぅ遅い。


『良い部屋』は、既に押さえられてる。

おんなじ事考えてる、ずる賢い他の飛行艇受験生になぁーーー?」

 

「ーーー」


「部屋は無事、確保に俺は競り勝った。

とにかく行け、頑張れ、お前なら大丈夫だ」


飄々と子龍は ”いつも通り”ーーーー


全然普段と変わらない口調で、アッサリと信繁に言い切るのだ。

 



「努力しきった自分を信じろ」



「〜〜!」


「お前は絶対に合格する」



信繁は喉が詰まり返事が出来なかった




**************



「急ぎましょう!

事務仕事は僕達に安心して任せて下さい!」



他の荷物を代わりに背負った子龍と、新たに合流の自作書類を改めて用意したという雅に付き添われて信繁は殆どギリギリでーーー

駆け足で、城内部の航空機収納庫に到着する。



広々した『滑走路』ーーー


機内にまるで転がる様に、二人に渡される、それなりの嵩張る荷物と共に乗り込んだ。

 

「予約者」〜最後の1人を飲み込んだ中型輸送機は、前方にキラキラ光を放射しながら浮かぶ巨大な虹色の膜をすり抜けーーー


まだ充分明るい外部に超高速で飛び出す。


 


直ぐ外は、国防が利用管理する空域に繋がる為、何とか誤魔化しは利く。



『何処かにいるかも知れない神様……!!』


雅はくりっとしたウルウルする瞳を堅く閉じる


雅は心からーーー憧れの上官の幸運を祈る。



子龍はまるで安心させるかの様に笑うと、長い腕を伸ばし、そんな真面目な、小柄な彼の肩をギュッと抱く。



『どうかあの人に 信繁さんにとびきりの幸運を!』



「大丈夫だぜ、あいつはこんな所で潰れる男じゃないぜ?」


子龍はフフンと自身たっぷりに笑うのだった。


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