ちょっと休憩 ⑤
「それにしてもフレイヤ王女様も大変だな?」
「……どして?」
セツは雅が有り難く「差し湯」をしてくれた、薄いアメリカンなコーヒーを楽しげに戴きながらコメントをする。
「妊娠中は色々と健常な成人とは違うからさ、マッサージとかも注意が必要だし?
”お腹が張らない様に” 見守りが必要だからね」
「それはもう」
雅は やっと”丁度いい濃さ” のコーヒーに、更にシュガーとミルクを追加。
「美味しい、良いコーヒーだったんですね……香りがいいです、とっても」
「でしょ?」
「でーーーー他は『どう大変』なんです?」
「まず個人差が大きいからね?
〜ここみたいな設備は入ったら恐いだろうね、未知数だもの。
夜眠れなくとも、薬物はペケだ。
胎児にどんな影響が出るか不明な以上、緩い系の……漢方系しか服薬は無理だと思う。
それは当然としてーーーー……問題はお立場だ。
『向こうでやっていかなければいけない』
そんでーーー……到着するまで絶対……宇宙空間で激烈な ”ワープ航法” を使用して『跳ぶ』だろ?
空間をジャンプする行為……聞いただけでウワッとする。
〜まぁここの高次元帯も、似た様なモンだけどさ」
「えぇ…」
「どっちがイイ?」
「どっちも嫌かも……でも相手の王子様〜
本当にーーーフレイヤ王女様を大切にして下さるんでしょうか?」
「ソーだねぇ」
「……」
「男が本気で好きになったら……”約束を果たそう”とするとは思うよ?
特に初恋の人だったらーーー『特別』だからね
でも、トールは一夫多妻制の国だしね。
王女様が出産して落ち着いたら、大臣達が夫君に側妃を必ず勧めてきて、彼、お立場のせいで山程お見合いさせられると思うよ?」
「……セツさんにそんな人って居たの?」
「『ご縁は無かった』けどね」
「〜〜〜〜!!どんな人!」
雅はガバッと身を乗り出す。
ーーー聞いてない! そんな話初耳だ!
セツはショボーンと情け無さそうな甘酸っぱそうな……切なそうな〜不思議な顔をする。
「その人とは、そもそもーーー身分違いだったんだ。
とんでもない名家のお嬢様で、長女で、でも親切で気さくでーーー
凄くしっかりした御令嬢だったんだ。
ーーーー医学者仲間サ。
でも自分も彼女もーーーー特に彼女には。
幼い頃からの悲願って言うか、宿命って言うのかな、絶対に譲れない『護るべきもの』があったんだ。
それについては納得でーーーーだからこそ本気で……
真面目な彼女の事が好きだったんだよ。
〜いやーーー今でも大好きかなぁ〜
うん、大好きさ、愛してる。
彼女の事、今でもね、ボクの女神様だよ」
「ーーーその方、セツさんとの恋を失ってもいいくらいの『願い』
希望があったんですか?」
「あぁ、ダカラ振られちゃった」
『そんな……!』
酷い! 雅は思わず下を向く。
聞いてはいけない事に踏み込んでしまった、そんな思い悩む雅に、優しい声でセツはツラツラ話す。
「昔の話だよ」
「今でも好きなんでしょ?!」
「トー前! あんな素晴らしい素敵なお姫様なんかいないしね!!
出会えたのが本当に奇跡ダヨ〜〜〜〜」
”自分を切った相手”をまだーーー好きだなんて…!、切なすぎて、悲しくって、辛いよ!!
雅はやっとの事で声を絞り出す
「ーー叶ったんでしょうか?そのお姫様、令嬢の『お願い』」
「それがそうじゃなくって……ダメになっちゃった。
世の中上手く行かないね、信繁と一緒だよ」
「…!」
ーーーーそんな……!
「でも皮肉な事に、偶然全然関係ない、ボクの方が適任者になっちゃったんだ」
「え!!」
「……そのーーー”コドモの頃からの悲願”のね……
ダカラ彼女の代わりにボクがッってね。
ーーーそれだけはね 『安心して』って、泣きじゃくる彼女に伝えた。
でなければ……自分を責めて責め抜いてーーー役に立たなかったって……
きっと精神が、狂ってしまうと思ったからね。
責任感がとても強い正しいヒトだから。
ほんのひとかけ……希望があれば生きていけるんだよね」
「ーーーー……そうでしょうか?」
「〜ギリシャ神話の、パンドラの箱の逸話、雅君は知ってる?」
雅はコクンと頷く。
「あ〜浮気者の大神ゼウスが。
地上最初の女性のパンドーラに『決して開けてはいけませんよ?!』
固くいい含めて、あらゆる災厄をギュンギュン!ぴっちぴちに封じ込めた小箱を贈る話ですよね?
つまり……
開けなければ人間は、いつまでも永遠に幸せに過ごすことが出来た。
でも好奇心に負けて、残念ながら開いてしまった。
しかし箱を慌てて閉じたから、控えめで穏やか…だっけ?
そうした性質の『希望』だけが箱の底に残っていた〜最後に隅っこに。
……じゃなかったでしたっけ?」
「うん、それでいいよ。
子どもの頃、なんで?と……どうして『希望』?って、意味わかんなかったんだけど……
何気にフカイよねーーーギリシャ人」
セツの表情は穏やかで……どうしてなのか幸せそうに雅には見えた。
「……それって何?」
何を代わりに達成しようと引き受けたの? 愛する人の代わりに?
「ヒ・ミ・ツ!
少し位 内緒の事があったってイイでしょ?」
「ですよねーーー」
気がつくと、すっかりコーヒーは無くなっていた
「信繁さんをお願いします……お迎えに来ますから」
終了時間のすりあわせをすると、ペコリ……丁寧にセツに頭を下げて退出した。
出て直ぐ向かった不夜城『別の区画』……
優秀過ぎなエンジニア集団を率いる主任、瑠架との話し合いは〜
「わかった!
〜〜〜なんだ、いいわよ!! そんなの任せておいて♡」
その1言で、チーーーーン♪
ドキドキ心配する間もなくあっという間に解決、終わってしまったのである。
**************
信繁が目覚めると、彼的に大変な事になっていた。
「おはよう信繁」
「ーーーーー」
セツのアナウンスーーーーー
チューブ内ーーーーカプセルの中に響く ”起床を知らせる” マイクの声に頭の中がボーーッとする。
しかしどうしてか、今回不快感はせず、むしろ爽快感で一杯だ。
いつもムリやりな短期的な仮眠ではどこか……奇妙な独特の疲れが残る物なのに今回はどうしてかそれがしない。
日進月歩〜技術が向上
知らぬ間に大きく進化したせいなのだろうか?
「ーーーーー?」
減圧の仕方も少し変だった
いつもと少し違う
?……
気がついたら既にカバーが外されていた。
「今回は少し設定を変化させてみてさ、……今後この方が良いなら考えてみようなナーッとサ、思ったんだよねーーーっっ」
「……」
「ご気分はどうですか?信繁さん」
どうしてなのか?ーーー雅までそこに居た
「お迎えです!
もう少しゆっくりしていていいですよ?」
ニコッと満面の笑み、本当に嬉しげに目がウルウルキラキラしている。
「そうは言ってもーーー雅、もうすぐって言うかギリギリに班長会議だろ?
遅れて〜遅刻する訳には行かない、早く支度ーーーしなくちゃだな。
……色々迷惑かけて済まない」
そうだーーーそうなったらかなりヤバイ、後々面倒なことになる。
ボンヤリする頭を信繁はブルッと振うと、汗でしけった前髪がぱらっと揺れる。
「あぁ〜それなら!」
ところが雅はニコニコと、信繁にとっては超強烈な爆弾発言、ボンヤリ頭を覆う微かな眠気も吹っ飛んでしまう。
「子龍さんが代理で行きましたよ?
もう終わりました、あっそーだ、同じく”代打”で会議出席の勇次さんが、信繁さんにこう言ってたそうです。
『タップリよく休んでくれ』
『試験頑張れ』
子龍さんに自分からのエールを伝えてくれって!
〜いい方ですよねぇ〜〜ホンットに」
「!!」




