ちょっと休憩 ④
さて一方雅はーー……
「僕、行ってきます!」
「頑張ってなーーー!」
「セツにヨロシク〜!」
「何か新しいイベあったら試すからな〜!」
「わかりました!そう伝えてきますねっ!」
見送りの信繁班班員にニコッと、天使の微笑みを振りまくと、元気よくコンピュータールームを出て行った。
既に自分用のシステムにはロックをかけてあるから何も心配が無い。
雅が向かった先ーーー……結構な距離があった。
いや高次元帯故に 遠い様な近い様なーーーー
時間の感覚が体内時間と実際のかかった時間とは正確にはズレがある為何とも言えないのだが。
とにかく両方でも充分〜数分はかかる距離だった。
雅はブレスレット型の端末〜
彫金製の個別で与えられる正式な特別認識票とは別の……
城内部のみで通用する特殊装置を、廊下の突き当たりの大きな金属製扉の読み取り機に左手ブレスレット端末を翳す。
(この時代はサイバー攻撃を恐れて本当の大切な情報は電脳には一切繋がない)
途端カパッと装置が目覚める。
ウィーンーー……
内部から大仰なロボットシステムが雅の前に現れた。
シャシャシャと高速で身長をモニタリングすると、ウィン…頭部の高さに360度撮影出来るカメラが降りる。
瞬きせずカメラアイに顔を撮し、同時に〜右手首を晒し円筒型スキャナーに差し込む。
全部いつもの事、平然と馴れた仕草。
ピーーーーーー……!
<許可します>
誰にとっても概ね聞き取りやすい、高音の合成音で通行許可が下りる。
顔認証システムと静脈と網膜認証、オール無事終了後ーーー
最後にブレスレット端末はじに浮かぶ、とある一定時間内のみランダムに点灯する数桁の数字をリズミカルに、ほっそりした指先で躊躇いなく素早く打ち込む。
ピーーーーーー聞き慣れた音に満足げに微笑む。
「バッハ大好き 開けゴマ」
マイクに向かい、雅はハッキリした口調で ”合い言葉” を告げる。
これは声帯認証の為である。
<お入り下さい>
ゴーーーーーンーーーーーー
そこで漸く分厚い扉が開く。
突き当たりの、狭い区画までヒタヒタ歩く。
”小さな部屋”
ヒュッと扉が閉まりーーーーー雅は目を閉じる。
天井や壁面からフワッ…と、殺菌用の様々なライト式光源が照射されて、次に強烈な強風が、壁面の様々な場所から1度に放出された。
強い風が収まると、雅は手ぐしで髪をサラッとなでつける。
「〜〜〜たく嫌になっちゃうよ〜コレばっかりは!」
ブツブツ、小さな小声で文句を言いながらも、目の前に突如現れた平たく薄いパットに両手を入れる。
中にはヒタヒターーー約8分目まで、透き通る透明ジェルが入っている。
手を入れると縁ギリギリまで液体の表面張力が上がる。
途端ブルーと紫色に、順繰りに容器内部のライティングがピカッと光る。
「ヨシ入って!」
どこからともなく男性の声がした。
「お邪魔しまーーす」
雅の立っていた床面がゆっくりと下降する。
ごぅんと着いた先ーーーー……雅は棚のケースの滅菌済みマスクを取り装着。
そこにはよくわからない沢山の装置、人1人がスッポリ入る事が出来るチューブ状のケースが沢山並んでいる。
「よう雅 ほんっと久しぶりじゃない?」
「セツさんご無沙汰してます。
信繁さんが仮眠室のセツさんの所に行くーーーつまり『今居る』って!
尊敬するレジェンドの、セツさんが出てるって言ってたから、僕ーーー聞いてびっくりしました。
お会い出来て光栄です!!」
「フーンそう?
カワイイ雅君にそんな事言われるとテレチャウな〜♪
でもそっかなぁ〜そんなに ”象牙の塔にお籠もりさん” の印象?
ハハハハハーーーボクってーーー?」
「えぇ瑠架さんと同様〜高名な研究者でーーー
『不夜城』中枢から滅多に出てこないし、あ〜ここも不夜城の一部ですけど?」
「そんなこと無いよ……ボクだって医師の端くれ
”弱って困ってる人”
”その治療”……
こういう当たり前の事から外れると、何だか自分って何の為に生まれてきたんだろう?
何で医者になったんだろう、そう思うワケね。
ソリャ〜ラボでの研究も大切だけどさ、基本はもっと大切だよ?
だってその為の仕事だもの」
「セツさんらしくて安心しました」
雅はクスクス楽しそうに笑う。
雅は掻い摘まんで今までの経緯をセツに説明する。
「フーーン、そう、だからかぁ」
「?信繁さん、何かあったんですか?」
「ぃやね、『仮眠』……
入眠前に簡易検査の問診と血液サンプル調べたんだけどね、〜なーんか数値が変だなぁと。
免疫系が下がってるって言うのかなーーーまぁ仕事が仕事だからね?
まぁた信繁〜無茶してるのか〜と思ったんだけど。
……ふーん、なるほどなるほど」
セツと呼ばれた医療班の博士は口の中でブツブツ言う。
彼は元々地球や銀河各地、大きな紛争地帯を中心にフィールドワークを行ってきたという『命知らず』……
もとい強運で強心臓ーーーヘンテコな経歴を生かし、更にこの異常高次元空間の医学博士として高額で雇われている内勤の男性である。
彼の専門は「夢」ーーーヒトが睡眠時に無意識下で行う脳の動き。
要するに眠っている最中に ”視る”、様々な脳波の揺らぎに関する研究のエキスパートである。
「だけどもう40分で設定しちゃったからなぁ〜〜〜〜」
「そこを何とかーーー……」
「う〜んーーーー」
「……ダメ?」
「それじゃ『クールダウン』、高濃度の酸素と高圧ーーー
加圧をチューブの中でしてるわけだから、ソッチの調節で時間稼ぎをしよう。
ーーー確かにその方が、今の彼にとって体が楽だろう。
それから、今回入浴も薦めるか?
まず高温の”サウナ”ーーーグッと短時間で、それから冷水入浴ーーーーと。
この2つにかかった所要時間と、足した同タイムを平温で休憩にタップリ。
休憩は、バクバクする心臓の動悸を平定にならす大切な時間だ。
ビタミンとアルカリイオン水を多めに取る。
一見無駄と感じるコレが、実はとっても大切さ?
運動の重要性と同じく、クールダウンはたくさんとった方がいいよ」
言うなりセツはスタスタと、コーヒーメーカーの置いてある可動式のキャスター付テーブルの側に行くと……!
相当な大振りのマグカップを手に取り、これまたかなりの量をダバダバと注ぐ。
「!言いたくは無いですが、それ『自分専用』なんですか?」
「〜そっ♪ 小さいと物足りない。
雅君はどうする?」
「〜〜〜〜っ!ーーーーでは戴きます」
「嬉しぃねぇ♪」
セツが満足そうに微笑み、傍らに積まれた使い捨てカップの中に、ポットから約半分程入れた物を差し出す。
「〜〜〜〜…」
それを手に取ると、雅は少し嫌な顔をし、整う眉間に皺が居る。
「〜まーたセツさんこんな濃い物を!!
僕が瑠架さんとこに居た頃より、なんか更に濃いですよ!
も〜〜〜〜〜〜〜っっっ、カフェイン取りすぎと、胃を壊しますよ!」
「やぁ〜れやれ参ったなぁ…
言い方迄、あの細かい信繁ソックリになって来たよ?君?
ぁあ〜あの可愛らしい純真な雅君はいずこへ!」
「!! ジョークで誤魔化さないで下さい!
尊敬するセツさんの事を本気で心配してるんで!」
そう言うと雅は、ポーッと、ぬぼーっとひょろり立っているセツから巨大マグカップを奪い取り、泥水のようなコーヒーを薄めようと。
キランと鋭い眼差しで、強奪した中を覗き込むーーーと!
「…!」
「ーーーーー」
「何コレ?」
何とまぁーーー既に、あれ程ナミナミついでいたとおぼしき真っ黒に近い、墨の如くの液体は半分程もう消え失せているのだ。
〜と言うよりも、容器を斜めに傾けると既に底が見えている。
「〜〜〜〜!!よく飲めますねぇ!
子龍さんが硯で丁寧に摺った青墨だって、もう少し薄いですからッッ!
もう少し健康の事考えて下さいッッ!」
「え〜ぇ〜?
『コーヒーは健康にイイ』って……
チャンとしたドクターの専門家も言うじゃ無い? それにそれ浅煎りだし?」
「〜〜〜!
ああ言えばこう言う、こういえばああ言う……物には限度ってものがあるんですっっっ〜!」
雅はぶにっと桜桃みたいなツヤツヤ唇をとがらかし、給湯システムの湯を、新たな差し湯に注ぐべく、セツのマグカップと自分のモノを両手に持ち、小走りで目的の場所に去って行く。
全くぷんすかプンプンである。
『全くーーーどの口が『健康』を語るかだよねっ!」
正にーーー”紺屋の白袴”
まるでその見本ーーーー!、絵に描いた様な ”医者の不養生”
馬鹿馬鹿しい! いい加減にも程がある。
「ふーん、そういうものなのかなぁ」
1人ポツネンと残ったセツはソロ〜〜〜ッとーーー
”使い捨てカップ”を手に取ると、フンフン小さく鼻歌交じりで雅が言うところの『墨みたいな』液体をドロドロ目一杯、縁ギリギリまで注ぐ。
プルプルプルプルーーー
内容物は表面張力で辛うじて……と言う驚異の凄いレベルだ。
当然シュガーやミルクなど入れる容量など、カップ内に最早ない
「ヨシヨシーーーっと」
「……」
ちらっっ
雅が作業に夢中で自分を見ていない事を横目で巧妙に確認ーーー
ちゃんと確かめる。
カップをソロソロ唇に運ぶ
ずっ…
『美味いーーっ♡』
目を細めて微笑むと、「グビーーー………」
セツは一気に堪能する。
ーーー懲りない男である。




