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ちょっと休憩 ②


「”人生には3つの坂がある……

 

『上がり坂』『下り坂』

それからーーー『マサカ!』だかんね”ーー〜なんっつって俺のばーちゃんもしょっちゅう俺に言ってたなぁ。

 

あれ〜〜〜ホントかよ!!」


ドッとコンピュータールームが沸く。



「そうさ、だからさ……急遽突然の『マサカ』のせいで


”今回のフレイヤ王女の件”


奴にとってのチャンスーーー

偶発的に大きすぎる、ターニングポイントに差し掛かる仕事だから、さしもの強気な信繁もナーバスになってたんだろうな。

 

確かに、『2次・実技』が合格するしないでは、この先ガラッとまるっきり時間の流れが、”今後のタイムスケジュール” 


かっこつけた言い方だと、運命が変わっちまう。


それに……」



「それに?」


「あぁ」


子龍はコホンと咳をし、スッと難しい顔をする。

 

途端、全女性職員「虜」、切れ長の瞼が更に色っぽさが増し、魔的とも言える脅威的美貌がゆらりと輝く。


班員達は固唾を飲んで、子龍の肉厚薄めの、綺麗で形の優れた唇から零れる言葉に皆耳を傾ける。


子龍の恐るべき洞察力。

説明に歯並びの良い真珠色の魅惑の歯が威勢良く動く。


「信繁もサーーーー……多分だが、あのパイロット達に嫉妬してたんだろ」


「?!」

 

「何で?」

「…」


「え〜〜〜? 何で子龍さん」


「うん、ソリャ雅、『もしも』だ…… お前がピアノの『神様』


例えば、世界的カリスマの演奏を直にリアルに聴いたとする。


その曲は、かつて自分も弾きこなしたことがある名曲だ。

 

ーーー『それ聴いて』どう思う?」



「そりゃーーーーー凄いなって思います。

ああまだ自分はヒヨッコにもなれない、敵わないなって。


だけどきっとその境地に、でも『いつかっ』て!


ーーーあ〜それと 『ぁあこう弾けば良かったのか!』……比較して。

練習初期の頃を思い出して、落ち込んでダークな気分になるかも。


僕だってトラウマっ、有りますし」


 

「じゃぁ……『同じ曲』で、お世辞にも上級者でない人間の、へたっぴな演奏だったら?」


「ウンーーーそれはそれで、新鮮な熱意や情熱、フレッシュさがあるから僕は好きです。

決して嫌いじゃ無いです。


だってもう自分にはーーー絶対に出せない、瑞々しい初々しい燦く素敵な音ですから。

繊細な感性を是非、いつまでも大切にしてほしいとすら思います。


でもーーー……昔の先生に滅茶苦茶『何で弾けないのっ!』て怒られた頃の事。


泣きながらピアノに向かい、何度も練習したのもーーーー多分絶対、急にパァッと、フラッシュバックして来たりなんかして。


僕ーーーう〜んーーーちょっと、やり切れない気分にもなるかなぁ。


『あ〜 ここ僕よく間違えたよなぁ……』とか。


『何回弾いても 結局あの時、上手くいかなかったよなぁー』

 

『ぁ〜 コレ演奏会で失敗した曲だ〜』


……なんーーって、ね、つい自分の過去の事を思い出しちゃって辛くなるかも。


スッゴく厳しい先生でしたしね、恐かったです。


今でも尊敬してる大好きな恩師ですが、まぁ色々あります」

 

 

そう言うとーーー雅は何とも言えない、切ない表情で俯いたので皆驚くのだ。



「嘘ゥ!」


「雅が?冗談だろ?」


「……バッハの三声とか、バケモノ級の難曲弾くのめっさ得意じゃん!」


「あのですねーーー俺、雅のゴルトベルク聞くの超大好きなんですけど〜!!」

 

「お前確かーーーつい最近ーーー

そーだ、確か雅がここに勤めるチョイ前、電脳ジャーナルでのインタビュー記事見たぜ。

何かのスッゲ大きな〜

超有名国際ピアノコンクールで優勝してるだろ? ウィナーだろ!!」



ワァワァ騒然…… なぬーーーっ?! 大騒ぎになる。


そう言う神レベルの人間ですら本当に、そんなデリケートで切ない劣等感が心の中に巣くって存在するのが全く信じられないのだ。



「雅はそういう所が信繁と似てんのな」


「ーーーえ?」

 

「ーーーソックリだぜ? 俺に言わせると」


ボソッと子龍が唇から零した言葉に、雅はハッとした様に顔を上げる。


「”挑戦者”なんだよ結局。

自分に厳しくーーー何処までも見果てぬ理想へーーー高みへ


〜『道』を極めようとする所がサ


でもって上に登れば登る程ーーー


もっと〜


もっと!……っ…と、厳しく険しい道に敢えて進もうとする。

 

ヤレヤレ…だぜ


ずっと楽に、悠々脳天気に生きる事だって出来るものを。


しかしーーーー”そうはしない” だろ?


〜なぁ雅、思い当たることは無いか?」



「……」


子龍はクシャッと微笑みかける。

 

ゆっくり〜再び雅の視線が下に下がる。



「信繁は今、精神的にメチャ研ぎ澄まされた状態だ。

 

でーーー知らず知らず、『ゾーンに入った』って言うのかな?


とにもかくにも、そこまで ”神の領域” ってゆーか……


おっそろしく気が集中した、希有な特殊状態なんだろうな。


『だからこそ』っッ……てのか……?


ホロの……部屋中ガンガン飛びまくる、空軍パイロット達の卓越した技術に、意識が異様にフォーカスしてしまった。


多分ーーー

『自分だったら出来るかどうか……?』

 

『今の進んだ科学的技術力で、カバーしまくる自分は……?』とかさ?


ーーー『人間が、ここまで出来るものか?』

 

無意識の内、細かく分析に入ってしまったんだろうな。


嫉妬ーーー

眼が眩む程の、焼け付く羨望。


フレイヤ王女様とは、ベクトルの向きが違う、ジリジリした渇望?っての??


おそらくきっと……

クソド真面目な信繁の性格だからこそ、そーゆーイライラするムカつく心情を嚙み締めてたんだろうぜ。



ーーーーまぁ俺もその点については何か解るがサ


で……雅に似た劣等感で、モヤモヤする心理状態の所に、フレイヤ王女様の発言が偶々バッコーンと、クリティカルヒッーーーート!!


ソリャ刺さるわさ、ぶっすり、 ”あいたたた”…… だ」



「成る程!」


「あ〜〜解る解る〜!

俺だって一応はヘリパイの免許持ちですけっど、信繁さんのスペシャル操縦テクに見る度にへこみますもーん。

 

なんつーか、『ハァ?』……っていうかっ、そういうことする〜〜?な感じ??

ウンウン ”あるある”だよなーーーっ」


「だよなーーーーあの人イカレテル」


「そっかぁ……あの空軍のホロは、ただ凄いってだけで無くてさ、万能班長ですら敗北を認める、実はスッゲー高等テクだったって訳かぁ!」


「まぁ……不幸な ”ボタンの掛け違い” って訳だ。


この意識のすれ違いで 『負ける喧嘩はしない』


信繁の『負けず嫌い』が発動、ソイツがモットーのアイツとしては。


例えああいう肉体状態の姫君だとしても、どうしても絶対に折れたくは無かったんだろう。


まっっ……俺に言わせれば 


”バ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜カ” だがサ?


まぁフレイヤ王女様も ”アナタもアナタで何やってんの?”


結構な、じゃじゃ馬姫だッッーーー位は思う訳だぜ」



「……ですよね」

 

「信繁さんを殆ど言い負かしてるし?」


「スッゲーよなぁ〜

言ったのが俺だったら信繁、ゼッテー飛びかかって拳で殴ってんぜ?」


「まぁそうっしょ、殴られてみたいけどさ?」


「やめとけお前、即死だぞ」


「王女様凄い!チャレンジャー!」

 

「……」

 

「まぁさ、流石〜城に送られるだけはあるなぁ……


きっとアッチ……

トール軍部でもスッゲー本気で手を焼いたんだぜ?


イケイケやれやれもっとやれー♪ で、かっちょいいけどさ……!」


「俺姫様好っっき〜〜〜!」

 

「うんうん!」


「とにかくクソ度胸がすげぇ」


再びほわっとした……明るい意見が班員達から続々と飛び出す。


子龍はそれを見てニヤッと笑うと、長い腕を絡ませ悠然と腕組みをする。


相変わらずーーー何をやっても様になる。


子龍は嫌になる程〜どこまでも絵になる男である。


「で、子龍としてはどうすんの?〜マサカ彼女放置?」


「そうだなーーーーナスチャ、俺もーーー彼女の事は嫌いじゃ無い、あの度胸は目を見張るものがある。


むしろ良くもまぁ〜あのテンパリ気味の、フーフー全身殺気立つ信繁相手に論陣をはったと思うんだ。

 

っったく……凄い子だぜ!


ーーーだが、お互いに今はそっとした方が良くないか?

信繁もフレイヤ王女も……」


「ーーーまぁそうかも?」


「そういうのを、『放置』と言ってしまえばそうなるが。

『冷却期間』という言い方だってあるさ?


あいつら今、頭に血が登って両方バカだ。

ーーー違うか?」

 

「……」


「今は2人とも気持ちが不安定だし、信繁に到ってはそれどころじゃ無いだろ?


とにかく明日を何とかクリアする〜

『完璧にやり通す』ーーーー重要なのは、やり過ごす事だ。


それ以外の雑念は、一切をシカトさせろ」


「それは……!」


「ぁあ、薄情な考え方だが、挽回なら後から第二幕のチャンスがあるだろ?


”チャンスの女神には前髪しか無い” 絶対的に優先順位を明確にしろ。


何が最も大切な事なのか、今みたいな伸るか反るかの時は、間違えるなよ?」

 

 

「じゃ子龍はどうすんの?」


「雅、この後の信繁のスケジュールは?」


「40分の仮眠後ーーーその後……定例の『班長会議』で。

終わったらすぐ、道場で指導員の仕事です。


急いで事務仕事の残りを片付け、定時で上がってーーー

 

不夜城でシミュレータで模擬訓練。


その後こっちから、直の定期便で外部へ行き、今僕達の居る高次元帯から3次元への感覚に、肉体を慣らす為に実習予定地のホテルで1泊。


そうでしたがーーー試験だったらどうなんでしょう?」



「アホか そんなもん全部キャンセルだ。


……当たり前じゃ無いか、蹴散らしてぶっ飛ばせ!!」

 


子龍はニヤリと不敵に笑い、黒い眼がぬらりと油の如しに輝く。


「………〜〜〜!!」



『洒落じゃ無く、本物の悪魔みたいだぜ!?』


やはりシンドバッドの冒険物語に出てくる怪鳥ーーー

妖鳥巨大鷲の類の化身に違いない。


この時、信繁班 班員全員がそれを確信する



「まず雅ーーーー…」


「ハイッ!」


「信繁の仮眠してる、セツのとこに行け!

でーーー……目一杯、設定伸ばして貰え。

時間は定期便ギリ直前まででO.K.だ」


「え〜……いいんですか?」


「健康被害がなきゃイイ、定期便の方には俺が話つけとくから安心しろ。

 

で、俺が班長会議に出席する、んなもん今回 ”代理で充分” だろ?

特に……昨日も今日も何も無かったしな?


俺とヨンとナスチャは武道の指導に当たる。

 

まだ俺は指導員の有資格者では無いが、アイツの練習の進め方は毎度毎度、側で見て覚えてる。

付け焼き刃でも、今日一日ぐらい何とかなるサ!


ヨンの攻撃の仕方は、奴と比べ、身長こそチョイ低いが信繁の形にソックリ……

俺の目で見てもーーーだ、定形だと見分けがつかないぜ。


〜だから丁度いい。

不抜けた奴らをガンガン攻めてやれ!!

身長180以上ありゃ充分だろ?」


「……」


「私は?」

 

「ナスチャは『信繁よりも背が高い』……立派に監視役になる。


おまけに美人だ、ガーガー言ったって生意気な男連中から批判は出んだろうしな。


プラチナブロンド・アイスブルーの容姿が目立つヨンと、女子に最近大人気のお前がいりゃ……

”ギャラリー”に……


毎度毎度押しかける ”信繁目当ての女性職員”も、エエエエッと……肝を潰し、多分文句は言わんサ?

 

ニュースター爆誕、精一杯格好いい姿をこれでもかって二人で見せつけてやれ。


ぁあそうだ、ヨンとナスチャで、目立つ模範試合もイイかもだな。

 

後は俺とヨン、ナスチャと希望の他とで、面白いだろ??」


「わかった」

 

「俺らは?」


「俺達が居ない内に、事務仕事片づけてくれ」


「え〜〜〜〜?」

「退屈」


「なんで……?、楽出来てイイじゃん?? 痛い思いしなくていいし?」

 

「ま〜な…… 恐い人ばっかの、班長会議出席の子龍さんよりマシかー」


「ぁそっか!」

「ですです」


子龍の戦略構想、役割分担について、ワイワイいきなり賑やかになる。


それを見てニヤッ〜…と笑った子龍は、更にドンドン巧妙な指示出しをする。


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