面会二日目 ④
「才能も実力もーーー自信すら全て揃っていたとしても。
彼らのように、必ずしも、1番大切な時に、ポテンシャル全開で、役に立てるとは限らないと言う事です。
役に立つ為に、目に見えない様々な条件が付加されているからです。
時、物質、好機ーーーー
それからーーーー運。
貴女は、彼らと同じチャンスと幸運に恵まれた、神様に愛された人間です」
「信繁様だってそうでしょ?」
フレイヤの言葉を聞くと、今だ腕組みを解かず信繁は下を向いて フッと自嘲気味に微笑む。
「そう見えますか?」
「えぇ、間違いなくーーーー貴方こそ!!
恩寵とラックに厳重に守られている人間に見えるわねっ!!」
フレイヤは必死で食い下がる。
ーーーーー夢中だった。
今にも声がひっくり返りそうだったが、何とか堪える。
「皆貴方の事を!! 褒めまくってたわ!! 凄いって!!
誰もが貴方のーーー素晴らしいーーー最強の班長の下で働きたいって。
なのに!!そんなこと言うなんて あなた傲慢すぎるわねっっ!
恵まれすぎて愛されすぎて調子に乗ってるんじゃないの?!」
「そうですーーーーか・・・・・・」
何故か『しまった!!』
フレイヤは直感的にそう思った。
『絶対に言ってはいけない事を言ってしまった!!』
マズイーーー! そう感じたのだ。
『だって実際そうじゃないの!!何が言いたいの??? 』
フレイヤは混乱する感情を抑えて キッ!と信繁を睨みつける
「どう言う意味ッッ!」
ーーーーーー重苦しい沈黙が流れた
暫く後ーーー……漸く信繁が口を開いたが作為ーーー無理に冷静に言葉を選んでいるのを明らかに感じた。
「ーーー1番大切な時に…
~例えば、誰かの側に絶対にいなければならない時に。
ガクッとチャンスを逃す人間の方が、現実には遙かに多いんじゃないでしょうか?
そんな運の無い哀れな者をーーーーフレイヤ王女様はどう思われますか?
強運の女神の、貴女様ならば」
「強運の女神ってーーーー貴方何言ってんの??」
信繁のジッと真剣な瞳が、底光りの醒めた輝きを放ち、女郎蜘蛛の張る蜘蛛の巣の様にフレイヤを捕らえて放さない。
「お姫様は力の限りーーー……
”やるべき事は全てやられた” と、城 特殊部隊 班長職の私は思います」
「!ーーーー」
「守るべき人達の為に……これ以上無い程全てをやり尽くしーーーーー
捧げ尽くす事がお出来になりました。
それは私の見立てでも、絶対間違いございません。
勇気と結末が、悔しくもリンクしないと言う事は致し方ない事です。
貴女のせいではございません。
国を守った軍人として、王家の尊い義務を果たす側の者として
『2つの意味』でも……王女様はむしろ幸せで、幸運な方だと思いますよ?」
「そう……かしら」
「ええ、そう思います。
王家に産まれた尊き者は果たして死ぬまでーーー死するまで。
全生涯、他者に生命を捧げ尽くすばかりで、自分の幸福を追い求める権利は無いのでしょうか?
確かに理屈ではそうです、『そうであって欲しい』……
貴女はフレイ国民の最後の心の理想と象徴なのですからね?
ですがーーーー本当にそれで良いんでしょうか?
貴女には、自分の御側へのお戻りを、心から待っておられる最愛の方が。
貴女と、温かな家族にならんと心より望まれておられる方がいらっしゃいます。
ご自分のお立場〜保身よりも、純粋に貴女を想う御方がいらっしゃるのです。
……たったお1人で抱え込み、遮二無二に頑張るのは、もう充分なのではないでしょうか?」
「……」
「この先は、ご自身の幸福のみを追求してください。
是非そうするべきです。」
ーーーー信繁は囁くようにフレイヤに向けて溜め息に乗せる。
カタン…
彼が静かにドアの開閉音と共に病室から退出するのを、まるで、密やかに待ちかねていたかの様に。
~部屋の隅で、ずっと今まで、何も口を挟まず密やかにじっと控えていた看護師らは、その場にワッと膝を折り泣き崩れる。
嵐の如くのーーー悲嘆
「そんなに泣かないっ!」
「だっ…て…だって……!! 信繁様が…!」
わんわん泣きじゃくる同僚を何とか宥め、慰めようとする双方からフレイヤはそこで初めて驚愕の信繁の過去を知ることになる。
信繁が嘗て、未成年、ハイスクール3年生時に遭遇した事件を聞かされる。
〜最悪の悲劇が彼を襲った事を。
全て聞き、ガンと…殴られた様にショックで心臓が止まりそうで。
家族居住者全員に及ぶ… 凄惨な強盗殺人事件
生き残りは彼だけだった上に
しかも……!悲しみが未だ癒えぬまま殺人の嫌疑・汚名までかけられたのだ。
あと少しで彼はいわれの無い罪を問われ殺人犯に認定、処罰される寸前だったとも。
現代のジャパンでは例え対象者、被告が未成年者であろうとも、被害者が2名以上の殺人は極刑と、法の罰則規定で明確に定められている。
実際、法の執行は遅延無く行われている。
「そういえーーーばーーー」
……ジャパンは地球で原始的な刑罰方法ーーー
銀河の先進国中で珍しく独自の価値観でーーー死刑が未だ廃止されていない国家の一つだった事を、フレイヤは座学で刑法を習った際の事を急に思い出し、あっと思わず声を上げそうになった。
「私はーーーー何と言うことを言ってしまったの?!」
激しい後悔ーーーーー!
『もしも』
if! 自分がもし男性だったら?
自分がもしも収監者、そして王女でなかったら?
でーーー……!
”身ごもっていなかった” ーーーら?
そうだ
ーーーーー間違いなく殴られていた。
彼の「言う通り」だった。
それもまた『幸運』の一種だったろう。
無神経で無自覚ーーーー
いっぱしに文句ばかりで、不平不満でいっぱい。
……
相手を攻め立てるばかりで ”馬鹿”なのは、明らかに、どう考えても
……ーーーーー自分の方。
「済まなかったって……!
本当に悪かったって
あの方に何とか伝えられないかしら?」
「私から彼に言っておきますから」
「・・・・・・・・・」
「大丈夫ですよ」
「彼、優しいですし?」
『そんなわけ無いじゃない!!』
もう来ないだろう
今までだってそうだったのだから
実際次の日ーーーーー……信繁は病室に現れなかった。
何の音沙汰も無く、ノーリアクション
来ない事への説明すら無い。
『ーーーもう彼は、2度とここにやって来ないかも知れない』
……きっとそう
フレイヤは覚悟をする。
「どうして私はいつもいつもこうなんだろう」
でもーーーーーーそれでも……
もう1度だけでも信繁に会いたかった。
『善意の人間をまた傷つけてしまった……
それも取り返しがつかない程ーーーーー』
自分が彼の立場だったらどう思うだろうか?
2度と顔を見るのも嫌だろう
灯りを常夜灯のみの薄暗く……
仄かな照度へと、消灯する時間のだだっ広い部屋ーーー
「今日だけはそうしないでくれ」と頼み込んで、特別許可
煌々とーーー眩しい中でベッドに潜り込む。
そうでもしなければ闇の中に引っ張り込まれて悪夢の中
恐怖に乗っ取られるーーー
あの身の毛もよだつ感覚が間違いなく襲うだろう。
「〜〜〜〜!」
自分が 馬鹿な、つまらない意地を張ったせい!!
深夜警護スタッフ以外、誰もいなくなると、グチャグチャな乱れきった寝具の中、涙が溢れて零れて ポロポロ全然止まらなくなった。
泣いて泣いてーーーーモゾモゾーー泣きつかれて
やっとーーーー眠りに落ちた。
その夜、涙の海に溺れる夢を見た
ッーーーーぁぼッッ
ゴボゴボごぼごぼ……
必死にもがき両腕を伸ばす
昏い海の中
ーーーーどこまでも沈んでも
誰も助けに来なかった。




