面会二日目 ②
「こんにちは フレイヤ王女様」
彼女の前に長身の信繁は、前回と同じく、同じ様な言葉かけで、あえて意識して雰囲気を合わせ、ビシリとアイロンがよくかけられ、きちんと糊の利いた清潔な制服シャツ姿で登場する。
『うわぁ・・・・・・』
フレイヤだけで無くそれはーーーー誰が見ても思わず息をのむ爽やかな姿だった
フレイヤと同様の感想を、医療スタッフの2人も感じ取ったようだ。
チラッと彼を横目で見た作業中の彼女らの頬が、たちまち耳にかけて真っ赤に染まる。
同時に慌てて顔を伏せたのが可愛らしい。
……無理もない、夕べのホログラム映像の「本物」……!!
皆でキャーキャー盛り上がった「本人」が今実際に目の前に居るのである。
そうーーー”あんな事”……も
”そんな事”……も ーーーーー ”ああいう事も”
〜している姿をコッソリ本人に内緒で、6匹の子ヤギをペロリと丸呑みして食べちゃった狼もビックリなぐらい、満腹になる程、鑑賞したのだ
自分達は 「お腹いっぱい」
「思う存分」……もう食べられません
そのリアル実物が、直ぐ手を伸ばせば届く至近距離に、スラッと立っている。
勿論本物の方がずっとずっっっと ずーーーっと、お洒落な空気を纏ってイカシテル。
やはり ”ライブ” は全然違うのである。
瑞々しいオーラがサーーッとキラッキラにほとばしるよう!!
「ーーーー」
「?」
『ーーー困ったわ……?』
「どうされましたか?」
「いえ……別に」
「そう……ですか?」
「……」
ーーーーー目のやり場に困るっ!!
祖国で王立宇宙軍切っての精鋭エリート制服組を同僚として、散々見慣れてきた自分でも……!
全身キラキラした信繁に接していると何だかーーーーー変な
「奇妙な気分」になりそうだった
「?……これお土産です」
何も知らない信繁は、茶目っ気たっぷりにそう言うと、何枚かの、手が切れそうに薄く何色ものーーー
それは虹色に煌めく小さな「ホログラム専用記録カード」
シュッ……!
信繁は制服の胸ポケットから大切そうに取り出す。
『えっ??』
というのも、それは通常の物よりも 明らかに大判に見えたからだ
『ーーーどういう事??』
「では 少し……照明を落とします、宜しいでしょうか?」
信繁は悪戯を企んでる子どもの様に茶色がかった目を輝かせてニマッと微笑む。
信繁は礼儀正しく 部屋の医療スタッフの2人に了承を得るのだ。
『いい人ね……!』 フレイヤはそう思う。
ーーー勝手に部屋のシステムを使わない。
人に分け隔て無く礼儀正しいのは 結構高ポイント、時々 ”見下した人員” に理由無く冷淡な人も居る。
何故ならば、彼女のきょうだいが正にそう言った、鼻持ちならないタイプの人間であった。
『自分も気がついていないだけでーーーーそうなのかも知れない』
少なくとも昨日の自分はそう、決して褒められた態度じゃなかった。
そんな横暴な自分を見て、この方はどう思ったのか……?
敵でも味方でも無くただの初対面なのに、思いっきり嫌みな態度を取られて。
『何のこと無い、自分もあの大ッ嫌いーーーな兄様姉様と同じじゃないの!
……何処がどう違うって言うのーーーよ?』
自分が恥ずかしい……凄く恥ずかしい……!
今や胸が抉られそうな気持ちだ。
「では始めます」
彼はスルスルとーーーー
水のような滑らかな手さばき。
フレイヤが使用中、フワフワ中空に浮く、清潔で大きな無重力ベッド壁面サイド部分に設置されている小型コントロールモニター〜タッチパネル
まるで楽器を弾きこなすかの様にピピピッーッ!
実に手際よく指先で軽やかに操作。
煌々と輝いていた部屋のライトが、不意にガクンと一段柔らかくなる。
『?』
何が始まるの?
『フーン……』
一方信繁はというと、視線を動かさずにさり気なく、フレイヤの動向を視覚でも観察している。
子龍に ”自身の” 取っておきーーー秘密道具を託されているからである。
**************
「コイツ持ってけ」
「ナンダコリャ?」
「あ〜 桜香の訓練の時に使う撮影カメラだ。
超小型バッテリー付き撮影専門、映像機器、飛行時の行動観察に使うのさ。
……ほらさ、野鳥には縄張りがあるだろ?
知らずにツッコミ他の野生の猛禽系の奴らや、鴉のバトルになると困るんだ。
”ウチのお姫様” は、深窓のロシア令嬢だかんな!
そういう空飛ぶ暴走ヤンキーな奴らに囲まれて、煽られて追いかけまくられていびられたら可愛そうだろ、そのデータ取りさ。
何事も、客観的後日用検証データは大切さ」
「……」
「但し電波は飛ばさない。
ホロじゃないから再生しても立体映像じゃ無い、でもって使用は1回こっきり、つまり使い捨てサ。
余計な便利物が付いてると、どうしても大型化する。
ーーー自分が知る限り現時点で最小最軽量!
……なのに薄暗がりでもいい仕事すんゾ?
光は出さない、音も拾える、レンズがいいからそこそこ。
読唇術、音声が拾えりゃ想像力で補てんは効くだろ?」
「何処に付けるんだ?」
「フツーは、桜香の羽根の1枚とかにだな。
特殊強力接着のシールでくっつけるんだが、人間の場合はありふれてるが
”ボタン”とか、後ーーー ”ネクタイピン”
”ベルトバックル” だな。
真っ直ぐ、対象者の表情が取れなけりゃ意味が無い」
「バレ無いか?
第一 盗撮は反則技だろ……?」
「ばれたっていいだろ? 別に。
どうせ城主が病室内に しこたま ”監視カメラ” ビッシリ付けてんだし?
……俺ら用の、専用バックアップだ、データー収集集積何が悪い?
”お姫様の好み”とか?……”お嫌な事”とか??
彼女は人の上に立つ人間、立場だったから感情のみで動くとは到底考えられない。
……それだけに、素の”本心”が見えにくくないか?
つまりだ、限られた時間で本質を見切るには、俺達は圧倒的に不利なんだ。
雅の言うアレは、かなり純度の高い名推理だと俺でも思うが、それでもあくまでも『推定』の域だ。
ーーーだろ?
だから俺達に少ない時間で客観的証拠を掴んでこい、相棒!
それがこの先の、先々の彼女の為だ」
「……」
子龍は大胆に かなりの無茶な、そこまでの、唯我独尊天上天下唯一無二的屁理屈を言い放つと
「ーーーさて……と」
信繁の姿を上から下まで勝手にジロジロ……腰に両手をやり見つめ始める。
と!、ピン!ッッと如何にも閃いた様子でニヤッと笑う。
「信繁、左腕のブレスレッド型端末見せろ」
「……これか?」
「”木の葉を隠すのは森の中” ーーーと!」
「?」
子龍は信繁の左手手首をグイッと引き寄せると、不夜城謹製ーーー!
強力精密機器の、ぐるりベルト状に巻いたガッシリした端末機〜側面に如何にも螺旋……
システムをリセットする竜頭か何かの様、それも手の甲からチラッと見える中心箇所に、巧にペタリ貼り付ける。
「映像はともかく、もぅこれで音声はばっちりだぜ、チックショー♪
頑張ってこいよ、な〜〜〜相棒ー♪」
ーーー信繁は来る前の子龍とのやり取り、そんなこんなを思い出す。
確かに彼は間違っちゃ居ない。
しかし何だか……漸く気を許すそぶりの彼女を、騙している気がして胸がザワザワし、いたたまれない気がした。
フレイヤはそんなザワザワする心情の信繁の作業の一部始終を、心から興味深げに、目をキラキラしながら視線で追っているのだ。
『そうか……
彼女はこういう事が生理的に好きで、興味津々て訳かーーー
初めて見る物に対する強い関心、機械いじりとか、こうした整備的作業とか、きっとお好きなんだな?』
自分がしていない時でも、例え他人の操作だとしても、側で見ているだけでも好き!! 大好物!!
ーーーー私大好き!
目の前の彼女の目の輝きで、それが容易に理解出来た。
雅の拾い集めた、あの学校代表としての ”様子”
つまらなそうに無表情で、ドロンと死んだ魚の目で欠伸をこらえたアレとは、少なくとも輝きが全然違う。
素朴で正直なそれは堅い信繁の心を揺らす。
『少しでも映像が彼女の気持ちを安らげればいいーーーー』
信繁が思っていると、スクリーンが起動し始める。




