信繁班の食いしん坊達
そんなこんな、信繁達がおおよその今後の流れを決めて間もなく直ぐ、業務規定の終業時間になった。
「今日これからは俺の奢りだから何でも食え」
「ヒャッハー」
「!!ほんとか?!」
「マジ?」
「スッゲー太っ腹ヤーーーン♪」
「ああ、以後手伝って貰う自分からの個人的礼だ。
何でも何人前でも、幾らでも注文して食べたらいい」
「〜〜〜ふおっ、ひょっとしてデザートも!」
「ああいいよ。
でも今後の取り決めやアイディアも聞きたいから、深酒は駄目だ。
適度に小ジョッキか、テーブルワイン程度に抑えて頼むな」
「了解〜〜〜〜〜♡」
信繁の一人の普段の酒はビールでもワインでもなく、ウィスキーのショットだ。
後からミネラルウォーターをグイッと飲む方式を一種の美学として貫いている。
時々は(子龍がいる時は)ロックやハイボールなんかも嗜む。
よってこの程度など、酒ではないと思っている。
上機嫌の男達は揃って訪れた食堂〜
いつもの自分達の班がよくまとまって座るお気に入りのテーブル座席が、時間が早いせいで運良く丸ごと空いていた事に、益々気分を良くする。
肉肉しい献立メニューの、ポークやビーフタップリのカレーライス、城名物ゴロゴロ肉たっぷりのスペシャルトロトロビーフシチュー。
600gのジュージュー俵形ジューシー鉄板乗せハンバーグ。
アッチアチの真ん中をナイフでさーっと一文字切ると、たちまちジュワーっと肉汁が焼いた鉄板皿に滴り出るという大人気メニューである。
同じく100g刻み売り(ちなみに最低g数300から〜)のTボーン厚焼き牛・ブランド豚・地鶏チキンステーキを全員、各各複数人分オーダー。
料理に合うワインや銘柄ビールを当然、一杯ずつオーダーした。
ちなみに雅はおとなしく上品なチキン・胸肉ステーキ一人前で、同僚達に本気で「お前それ足りなく無いか?!」
班長に遠慮して、無欲すぎないか??ーーー心配された。
「で、仮定としてお前達だったら、どうされたら殿下の元に戻りたくなる?」
「そうっすねー」
厳つい男達はニコニコと、丸ごと「ホール」でゲットしたケーキやタルトをフォークでザクッと贅沢に突っつきながら、こんな事を話す。
信繁の前にはいつもの安定の馥郁たる香りの温かな、糖が脳に良い甘めミルクティーが置かれている。
「仕事が恋人」と云う真面目な信繁は今回デザートは注文せず、目下セッセと記録媒体装置に部下からの面白いアイディアをリサーチ中、入力真っ最中である
「少なくとも上から目線、横柄な奴に偉そうに説得されたくは無いよなーーー」
「甲高い声でのやかましい説教も勘弁」
「そーそー」
「別段、上官でもないし聞く必要ナッシング、意味わからねー」
「友達でもないしなー」
「職場の同僚でもないし」
「だってさー俺らだって。
相手が信繁班長だから、いっくら無茶ぶりな事、まぁ〜コイツだったら聞いてもイイかなーって思うじゃん?
それにさ、オレッチが見捨てたら可哀想だしーーーって、父性愛と母性愛ごちゃ混ぜで考えるんだしー?」
「だよなー
今日だって餌付けでタンマリ好きなもん好きなだけ沢山食えって食べ放題。
俺らに優しくメシ奢ってくれるし、マジ感謝ーーー♪
はんちょーいっつも愛してるぜ!畜ッ生っ♡
子龍さんを振って、いつでも俺をお嫁さんにしてーーーっっ♡♡」
〜面白おかしく答えた班員は、アーンと目を細め、スポンジ生地をクチに運ぶ。
生クリームと新品種 艶々苺がみっちみちで乗せられた極上の部分をごっそり切り分け、いかにも美味しそうである
「交渉人、きっといつもの薄ら寒い笑顔を貼りつけ、訳知り顔でニヤニヤ説得しようと試みたのさ!!
で聡明な姫にきっと反感買ったんだぜーーザマミロッ!!」
「お嫁さん発言」にブーッブーッとブーーイング。
先程の同僚をジロッと凄みをきかせ睨む、メンチ切りの子龍。
子龍は季節のフルーツ、桃や梨、マスカットや無花果がぎっしり盛られた豪華なビスケット生地のタルトを、ホール丸ごと注文。
ナイフで器用に四分割し、如何にも優雅〜
土台を手で直接持ち、あむあむ、美味しそうに、クリームや具を決して零す事無く上品に食していた。
アナスタシアは、真白な苺とチョコレート製トリュフが麗しい、新発売チョコレートケーキを悩みに悩み選んでいる。
ハート型のホールを嬉しそうな笑顔で、食べる場所にうーんうーんと悩みつつ、フォークであちこち少しずつ切り分け、満足そうに食している。
「やっぱり最初は礼儀正しく『お友達から』でしょ?班長ー♪
いきなり知ったかで間合い詰められたって
『この人何?!』
きっもー、キモイで即終了、スリーアウトチェンジで、コールドゲームすって♪
だって皆が言う様に、知り合いでも友達でも部下でも仕事仲間でも無いでしょ?
〜そもそも論で。
自分が相手の言うこと聞く必要性、義理もなにも、全然しばりが無いですもん」
「〜だそうだ信繁。
ナスチャが言う通り、っったく実際、そりゃそうだーって感じだよなー
んで、フレイヤ王女様の好みって何?」
「そうだなー子龍ーーーー
元々、食に関しては、宇宙食だろうが軍の保存食だろうが、どんなものでも全て美味しいって言う人で有名、好き嫌いは無いらしい。
まぁ悪阻中の、今現在は違うが」
「へー、安上がりだなぁ」
「フレイヤ王女様は、惑星フレイでは王立宇宙軍空挺団所属でしょ?
そのあたりに案外ヒントがあるかも」
雅はおとなしく上品に、少し大きめ特別仕様の、キラキラ金箔で飾られたモンブランタルトをハムハムーーーー
小動物ソックリにちまちま、上品に小さく刺しては、「美味しいです!」とフォークで崩し、信繁に進言する。
『要するに、空ーーーー
俺と同じ ”天空に魅せられている” ……か
確かに履歴を深掘りすると、纏わり付く重力を振り払いどこまでも高く、高く、自由自在〜
本来性分的に ”この大空の向こうに何がある?” と、元々空を飛ぶことが何よりもお好きな方なのかも知れないな』
信繁の、今は亡き、仕事が忙しい母親の記憶ーーーー
幼い信繁を連れての、記憶に残る小旅行中。
母親は息子にスルガ湾ーーーー
陽光眩い、田子の浦の砂浜にて、こんな言葉を投げかけた。
「ねぇ信繁、この海の向こうに何があるって。
対岸に果たしてなにがある??ーーーって、考えたこと無い?」
信繁の父親が社長である大会社の副社長を務める母親は、彼女が学生時代、南米旅行で南米最高峰アンデス山脈アコンカグアにアタック成功後、そのまま何を思ったのか〜
「だって誘われたから♪」
南極へ、アルゼンチン側から航路で行き〜
南極大陸最高峰「ウィンソンマシフ」登攀してきたという、有名ワンゲル部部長の鉄の女だった。
その後、父と一緒に新婚旅行、砕氷船に乗ってぶ厚い流氷と氷の壁をバリバリカチ割りながら北極点に行った女傑。
海岸の砂浜に立って、左側の方面は伊豆半島である。
地図で見るとれっきとした対岸と言って良い条件だが、生憎彼女が言う方角はそうではない。
目の前の「海の向こう」
今、母親と見ている真っ直ぐ先は地球最大、途轍もない広い海洋、連邦英語で「パシフィック オーシャン」
〜ジャパンの言葉で、太平洋。
だから厳密な意味で、問いには答えなんか無い。
つまり、瑕疵がある〜
問いかけ疑問自体に無理があると、大人になって信繁はそう回想する。
対岸と言ってよい適当なものはソモソモ無いのだ。
しかし本当に何にも無い、生易しい広さでは無い。
強いて言えばポッカリ点在する”島”、最短の有名所は 沖ノ鳥島かグアム。
その突き当たりにパプアニューギニア
インドネシアーーーー
大陸棚のアラフラ海とティモール海を挟んで、直ぐにオーストラリアだ。
つまり母は「あなたはどう思う?」
哲学的に「知りたい」と望むわくわくする好奇心、心に浮かぶ本能的な疑問
「それがあなたにはあるのか?」
子どもの信繁に、いわば問題提起を行ったのだ。
直感的な柔らかな独自の感性は、大切にした方が良いと思う信繁である。
何故ならば、自分はそう思う余裕すら無い状態で、モノ好きな大人に散々に引っ張り回されたから。
今回相対するのは、価値観が絶対に異なる異国育ちの年下のレディ。
信繁の明晰な頭脳は、モヤモヤ漠然とした思考の海の中、急激に、とあるアイディアをチカリと閃めかせ始めた。




