フレイヤ王女の考察 ②
電脳ジャーナル記者が不審に思いながらもこれらを開封すると、どれもこれも拙い文章で、切実な哀しさと切なさを、窮状を声限りに訴えていた。
やるせないまでの愛おしさで思わず胸をうつ、悲痛な痛みに満ち溢れていた。
「しんあいなる でんのうジャーナルの きしゃさまへ。
どうか おねがいがございます。
でんのうジャーナルの えらいきしゃさまたちに できないことはひとつもないんだと だいすきなパパやママから いつもきいています。
えらいひとたちのおちからで なんとかおうじょさまを たすけてあげてください」
「やさしいフレイヤさまが このよにいなくなってしまうのは かなしすぎてつらすぎて くるしくて どうしてもいやなのです」
「このままでは フレイヤおうじょさまは、わるいひとたちに ころされてしまいます どうかどうか おたすけくださいませ」
「だい5おうじょ フレイヤさまが おかわいそうです。
おうじょさまは わたしたちのせいで つかまりました。
どうかどうか よろしくおねがい いたします」
「ぼくは きしゃさまが おうじょさまを もしもたすけてくださったら。
こんごは だいきらいなメキャベツも にがいピーマンも これからおさらにのこさず まいにちきちんと よくかんでたべます。
ここに きちんと おとこの おやくそくをいたします。
〜だいご おうじょさまの めいよにかけて〜
フレイヤさまを けいあいする ちいさなきしより」
「わたしたちの すえのおうじょさまを どうか、ぜったいに しなせないでください」
「おねがいです。
おやさしいプリンセスを たすけてあげてください」
「きれいな おうじょさまを どうか わるいひとたちから たすけてあげてくださいませ」
「おねがいです おねがいです おねがいです おねがいでございます。
ぷりんせすの どうか おいのちを たすけてあげてください」
最も沢山のメッセージを送ったのは、王都陥落、あの時のーー
フレイヤ王女が救った、多くの子ども達であった。
宇宙空間を飛ばす通信には、莫大な費用がかかる。
発送は避難先の惑星やコロニー、様々な星々の過疎地に点在する小さな基地からで、おそらく多額の通信費も厭わず、日々の食事にも事欠く状況でも必死に彼女のために通信費を、セッセと友達同士で集めたのだろう。
〜皆で寄付を募り、僅かなお小遣いを寄せ集め、小さな声と手で大人達に一生懸命、自分達の今ある渾身の力を振り絞り、心の限りに嘆願したのだ。
子どもは大人が思うよりも遥かに高い、純なプライドを持っている。
おもちゃが欲しいだのお菓子が食べたいなどと言った単純な、軽い欲を叶える類ならいざ知らず、自身の自尊心と魂を質種に担保に入れるような、そう言った本気のお願いなんかペラペラ易々とはしない。
同等の金額の貨幣も、稼ぐ事が概ね出来ない微弱な子ども側と、自ら大きく稼げる大人とでは貨幣価値も意味も、全然まるで異なる。
それは子ども達の文字通り全財産と、もはや金額すら付けられない天文学的価値、無償の愛を残らず全て相手に惜しみなく差し出す尊い行為。
「天上天地天下に唯一の我あり」
〜銀河の何処の組織にも、どんな凶悪な国家にも絶対に魂を屈しないと名高い銀河屈指、最強の鐵の魂を持つジャーナリスト集団を標榜する彼等強面の記者達。
そんな硬派な電脳ジャーナルが動いた背景は、名も無き、その幼い子ども達の存在が本当に大きかったと、資料の末尾、レポートの結びとして記載、したためられていた。
「どうなるんだろうな……この王女様」
信繁はフレイヤ王女の、若干20歳という年齢と実績を、彼が精魂込めて厳しく育て上げた部下の班員達と比較してみた。
たとえ王家の王女という高下駄を排除しても、確かに紛れもない天性の資質があるだろう。
何よりも圧倒的なカリスマ性ーーーー!
この若い王女様は確実に持っていると資料から感じた。
「さてどうしたもんかなぁ?」
ーーーそんな驚異の経歴を持つ人物を、自分がホイホイ説得なんか出来るのか?
人は見かけによらない。
ジャパンJKにしか見えない城主を嫌という程知っていれば、信繁の判断も当然だった。
さてと……ーー鬼が出るか蛇が出るか?
何しろ交渉人~
国家資格持ちの人間すら自身のシンパ、味方につけた程のべらぼうな口達者な丸め込み上手な王女様だ。
そんなタイプの人間が、一筋縄で行くわけも無い。
「仕方が無い…か……」
手間がかかり難航し、今回の依頼は極めて難しそうだ。
フレイヤ王女と細やかに幾度も会い、やはりその都度、対処療法的に、相手にあわせて繊細に交渉事を進めるしかないと覚悟を決める。
しかしーーーーだ
「おいおい、そんな事やったことないぞ?」
どんな作戦もある程度は訓練や、過去に展開させた旧作戦込みで、マニュアル程では無いが、上手く行く成功のロールモデルがある。
信繁はありとあらゆる前例を、訓練という名の下に追体験、常に班員と共に予行演習として繰り広げてきた。
しかし今回は、何もかもがぶっつけ本番
『怖すぎだろ……!』
ましては相手は結構な年下のレディ……!
先ず価値観が同じには到底思えない
信繁的にも異次元の賭けだった。
信繁は昼下がり、皆が仕事の一山越えホッとひと息つく頃。
子龍に班員の訓練の後を任せると、いよいよフレイヤ王女が居るという医療棟に向かうことにした。
「〜なぁお前達、今日の終業一時間前、訓練が終わってからでいいんだが。
全員皆に詰め所に集まって貰えないか?」
「??? いいけど何でその時間?」
「まぁちょっとな、今夜食事、全員に奢るよ」
「へぇ?」
信繁には、王女については自分一人だけの仕事にならず、おそらく班員を巻き込む総力戦になる予感がした。
〜こういう追い込まれつつある事は事実、今まででも時々あった。
だったら詰む前に、最初からあくまでも軽い感じで軽食を取りつつお互いリラックス状態でしっかり話を通した方がいい。
『今夜はこのままだったら、防犯的に特に何もないだろうしなぁ〜』
皆で詰め所で作戦を立てた後、自分の奢りで食事をしつつ和やかに今後の展開のアイディアをゆるくワァワァ出し合ったならばきっと有意義で新たな展開が生まれるだろう。
「思っても見なかった良い考えが生まれるに違いない」
確証なんて無いが直感的に、そんな気がした。
「しっかし参るよなぁ〜〜〜〜」
信繁は資料の特殊医療棟内特別室にトボトボ向かいながら弱音を吐く。
元々は請け負いたくない類いのジャンル、歩けば歩く程、向ける足取りが異様に重くてしょうがない。
「自分の祖国と実家と戦友をぶっ潰し、ぶっ殺した家の息子の子を出産して、生涯”夫”として恋して結婚するのか……」
ーーーーマジかよ信じられない。
上手く行きっこないだろ?そんなの。
本当にジャパン戦国乱世の、親兄弟親戚同士で普通に国取りとして戦をした時代の、時代錯誤の薄幸の姫君の様だ。
当時は当人の気持ちはほぼ無視だが、ウカウカしてたらサクッと命が刈られる、殺される時代故に、生き残るだけだって相当大変。
よって個人的感情の好悪なんか、ハナから問題じゃない。
子孫ーーー
血脈が絶えない事だけが最重要視されたシンプルな時代。
強固な血の盟約
戦争でないやり方の外交手段、婚姻〜結婚と言う名の領土拡張方法。
「ハァーー……」
これから面会する悲運の王女様の身の上を思い、信繁は深い溜息をついた。




