第1章妖怪飛脚 とある男 その6
ボチボチ頑張ってます。
あとになって、河造が身近な友に語った話によると、結局、河造は、その日使者に従い、富三という死にかけの病人、つまり、とある男で、案山子男でもある男の村を医者として訪ねたそうだ。
河造が案内された村は、人里から離れた場所にあった。
村にたどり着くには、森を抜けて行く必要があった。その村には、どこか妖気の漂う世界があった。
河造は、自分が狐か、狸に化かされたのだと理解した。河造は、狸や狐に化かされた人をたくさん知っていた。そういう人たちから実際に、狸や、狐に化かされた時の話を聞いていた。そして、河造は、自分でも狸や狐が化かすと言うことがどんなものなのか想像していた。
「ここは、俺が思っていた狐狸の世界と、寸分と違わない世界だ」
河造は、その村に到着したときにそう確信した。
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ところで、医学の方面に関しては河造は、ことさら明るいというわけではない。
河造の友人にたまたま医者をやっている者がいて、その友人の治療を患者に施す様子をよく見ていたので、その要領は、河造は分かっているつもりであった。
また、暇を持て余していた河造は、当時はやりの本草学という学問に関心を持ち、本草学を研究する人たちと交流を持つていたため、漢方薬、薬草にも明るかった。
もちろん、河造には長患いの、瀕死の病人を生き返らせることができるほどの医師の力量はもちろんない。
自分が、行ってもどうなることでもないが、河造のところにやってきた使いの者は、往診料として十分な金額の謝礼を約束した。河造には、その謝礼の金がどうしても必要であった。
医者としての道具をそろえると、使いの者に案内され、森の向こうの村にやってきた。
河造は、富三という患者が寝ている所へ案内された。
河造が、診たとき、富三の状態はひどく、何をやっても富三の死は避けられないもののように思われた。
河造は、病人の様子にもう望みはない、時間の問題だと思った。
しかし、病人を見守る妖気に満ちた人たちは、この患者が死んでしまった場合、自分のことを逆恨みして殺して仕舞おうなどと考えないだろうか。河造は、思った。
ここの村の妖気に満ちた人たちは、河造の医者としての河造の実力をなぜか高く評価している。この富三という患者が生き返るものと信じていた。成り行き次第では、最悪のことが起こりうる。河造は、思った。
「やはり、あれに頼るしかない!」
河造は、思った。
河造は、本草学の研究会で、手に入れた「奥の手」というものが、河造にはあった。
それは、禁断の薬であった。
河造は、禁断の薬草を、瀕死の富三に処方した。
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河造が、瀕死の富三に禁断の薬草を飲ませた結果は最悪だった。
森を抜けて、YOSIWARAへの帰り道、河造のアタマの中をいろんな想いが駆け巡っていた。
その妄想の真ん中にあったのは、富三ののたうち回る姿であった。
河造は、富三の仲間たちの冷たい視線を感じた。
その冷たい視線が、無数の冷たい視線が、河造の背後から迫ってくる。
河造が、帰ろうとすると、妖怪村の者たちは、せめて、夜が明けるまで待って、町に戻りなさいと、河造を説得した。
YOSIWARAまで、危険な道が続くので、せめては森の終わりまで、人里近くまで送ってあげようと申し出た。この申し出を、河造は、断った。
河造は、妖怪村の者たちの隙を突き、謝礼をもらわずに妖怪村を出た。
河造の後から、富三の苦しみもだえる声が、河造のことを追ってきた。そんな気がした。
河造は、苦しくても早足で進んで行った。YOSIWARAの町まで。




