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第99話 先輩

少しだけ、別の場所から。


「いやあ、『あの高宮さん』にも春が来てたんだね」


廊下を歩きながら中村が頬を綻ばせる。


高宮が入職してからこの七年間、浮いた話の一つも聞いたことがなかった。


彼には幸せになってほしいと思っていたから、正直ホッとした。


しかも「蒼井くん」と呟いていた。

聞き間違いでなければ。


それは、中村が幸せになってほしいと願っていた、もう一人の名前だった。


「良かったわぁ」

「湊さん。ちゃんと幸せなんですねぇ」


思わず声に出た。

その時だった。


「中村さん。どこ行ってたの!?」


一人のリネンスタッフが声をかけてくる。

「ああ。ごめんなさいね」


「どうせ食堂でお茶でもしてたんでしょ。

まったくもう!すぐサボるんですから」


「手厳しいわぁ、早苗さん」

思わず苦笑する。


早苗は真面目でよく働き、それでいて嫌味のない、さっぱりした性格だった。


ちょっとだけ、あの人に似ている。


脳裏に浮かぶのは、生真面目なあの人の顔。


くすりと笑う。

「中村さん?」

怪訝そうな早苗に手を振り、なんでもないと笑う。


「でもね」


「年寄りなんだからちょっとは労わってほしいわぁ」


ため息を吐きながら言うと、


「とか言って、一番力持ちじゃないですか。

中村さんがいないと進まないんです。

とっても頼りにしてますよ、先輩」


真面目に注意したかと思えば、最後にはこちらを持ち上げてくる。


それも早苗の魅力だった。


「あらあらもう、お上手なんだから」


口元に手をあてて笑う。


「さあ、のんびりしてないで

早く行きますよ。戦場に」


サムズアップして、かっこよく言う早苗に、


「はーい」


中村は笑いながら返事をした。

今日もホテルの裏側は賑やかです。

それでは、戦場へ。

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