第97話 ナイト
七年前の「ニンジャボーイ」と、現在の湊。
そして咲也には、ちょっと困ったことが起きます。
その時だった。
「何やってんですか」
呆れた声が飛んだ。
ルシアンが背後を振り返る。
ロビーの向こうから黒崎が歩いてくる。
その後ろには橘と和葉の姿もあった。
「本当にすぐ消えるのやめてくださいよ」
困ったように笑う。
その顔には、言っても無駄だろうなと書いてあるように見えた。
「あらら」
ルシアンが笑う。
「見つかっちゃったね」
まるで悪びれない。
和葉は咲也へ軽く会釈した。
その視線が湊へ向く。
湊も気付き、わずかに頷いた。
その横で。
橘が驚いたように目を見開く。
その視線は湊へ向いていた。
「……お前、こんなところにいたのか」
唸るような声。
「……お久しぶりです。橘さん」
湊はぺこりと頭を下げる。
どこか妙な空気だった。
咲也はわずかに眉を寄せる。
ふいに。
「おや」
ルシアンが声を上げた。
皆の視線が集まる。
ルシアンは目を丸くしていた。
「サクヤヒメ」
ルシアンが、自分の首筋をトントンと指差す。
分からず首を傾げると。
黒崎も咲也の首元へ視線をやり、
「ああ」
と納得したように頷き、
にやりと笑った。
「随分と情熱的だねえ」
「ご馳走様」
黒崎が楽しそうに言った。
その瞬間。
――まさか。
反射的に首に手を当てる。
昨夜、湊に強く吸われた場所だった。
思わず湊を見る。
湊はすっと目を逸らし、
申し訳なさそうに俯いた。
気まずい沈黙。
和葉は何度も瞬きを繰り返す。
橘は怪訝そうな顔をした。
黒崎は面白そうに口元を緩めたままだった。
「ああ」
ルシアンは納得したように頷く。
それから。
湊を見る。
その目が、興味深そうに細められた。
「なるほど」
「君はサクヤヒメのナイトなんだね」
ルシアンは屈託なく笑った。
「参ったね。
ふられちゃったの? 僕」
「最初から勝負になってなかったと思いますけどねぇ」
黒崎が呆れたように言う。
「そうかな?」
「そうですよ」
ルシアンは少し考えた後、
再び湊を見て、
「ああ」
と笑って頷く。
「それもそうだね」
まるで気にしていない。
むしろ、面白がっているようだった。
咲也は小さく息を吐く。
――頼むからもう帰ってくれ。
切実にそう願った。
隠したつもりでも、首筋は正直でした。




