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第9話 ロビーの顔

レガリア・アストラ青山。

夕方のロビーでの話です。


レガリア・アストラ青山。


夕方。


ロビーは、

慌ただしさに包まれていた。


チェックインの客。


スーツケースを運ぶベルスタッフ。


フロントへ向かう人の流れ。


低い話し声。


柔らかな照明が、

少しずつ夜へ切り替わっていく。


「佐久君、気をつけてな」


「す、すいません!」


佐久が慌てて荷物を持ち直す。


だが、

バランスを崩しかけた。


「おっと」


咲也がすぐに腕を支える。


「大丈夫。焦らなくて良いからな」


「は、はい……!」


顔を真っ赤にしてうなずく。


「司君、あちらのお客様頼めるか?」


「はい!行きます!」


司がすぐに動き出す。


軽い足取り。


だが、

動きに迷いはない。


ロビー全体を見ながら、

咲也は小さく息を吐いた。


忙しい時間帯だ。


だが、

嫌いではない。


人の流れ。


スタッフの動き。


声。


全部が噛み合っていく瞬間がなんとも言えない。


そのとき。


ロビーに、

一際賑やかな声が響いた。


英語。


聞き慣れた声。


『おい、誰だよあいつ。

別人じゃん』

皮肉屋マイクの声に


『でもあいつだぜ。

よお、サクヤ!』

レオンの能天気な声。


一瞬だけ、

咲也の目が細くなる。


だが、

笑顔は崩さない。


めんどくさいから、自分が対応した方が早い。

心の中でため息をつきながら、

『いらっしゃいませ』


勤めて丁寧に


『ご宿泊ですか?』


レオンがスマホを軽く振った。


『ああ。予約してる』


マイクがロビーを見回す。


『うわ、マジで高級ホテルじゃん』


『しかもホテルマン似合いすぎだろ』


『お客様、フロントへどうぞ』


咲也は微笑んだまま言う。


『出た。ホテルモード』

マイクはオーバーリアクションで指差す。

『グラウンドと別人じゃん』


トムが肩を揺らす。


ジェイクだけが静かに咲也を見て

『似合ってるな』

ポツリと言った。


言葉数の少ないジェイクだからこそ、その言葉は響く。


『ありがとうございます』

笑顔で小さくかえす。


その時。


『サークヤ、良い匂いする。シャワー浴びたのか』


マイクがわざと距離を詰めた。


肩に触れそうな位置。


「……おい」


低い声。


「Cut it out. Or leave.」

ーーやめろ。さもなくば出ていけ


空気が止まる。


一瞬だけ。


それから。


『怖っ!』


マイクが吹き出した。


「Cool beauty!」


レオンが腹を抱えて笑う。


『ホテルモードのサクヤ、マジ怖え』


咲也は微笑んだまま、

ネクタイを軽く直した。


『出ていくか?』


穏やかな声。

だが、目で睨みつける。


『やっべー!』


笑い声が広がる。


近くを通った司が、

思わずこちらを見る。


「司君」


咲也の声。


「あっちのお客様動けるか?」


「あ、はい!」


慌てて背筋を伸ばす。


「失礼しました!」


司が駆けていく。


その背中を見送りながら、

咲也は小さく息を吐いた。


『どうなさいますか?

チェックインなさいますか?それとも...』


帰るか。

言外に含みを込めると。


慌てたようにレオンが


『するする』


『せっかくだし泊まる』


『お前の職場見たかったしな』


マイクが笑う。


咲也は肩をすくめた。


『……静かにな』


それだけ言って、

フロントへ案内する。


ロビーの空気は、

もう乱れていなかった。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。


ホテルで働く高宮は、

グラウンドとはまた少し違う顔をしているのかもしれません。


感想など頂けると嬉しいです。

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