第8話 違う気がした
青空野球教室の帰り道。
まだ言葉にならない違和感の話です。
並んで歩く。
いつもと同じ距離。
変わらない距離。
頭の中に、
咲也の声が残っている。
——戻らない。
だが少しだけ、引っかかる。
どこが、とは言えない。
言葉にしようとすると、
形が崩れる。
「蒼井くん」
「はい」
呼ばれて、顔を上げる。
「どうかしたか」
「……いえ」
首を振る。
「ちょっと考えごとを」
「そうか」
それで終わる。
このままでいい。
問題なんて、ない。
——なのに。
違和感だけが、残る。
隣にいる。
それは変わらない。
距離も、
変わっていない。
それなのに、
何かが、違う気がした。
「ここでいい」
「俺、これから仕事だから」
咲也が立ち止まる。
「はい」
湊も足を止める。
「またな」
「……はい」
短いやり取り。
それだけで終わる。
はずだった。
言葉が、浮かびかける。
形になる前に、
消す。
聞いてしまえば、
何かが終わる気がした。
「じゃあ」
咲也が背を向ける。
引き止めない。
呼び止めない。
分からない。
でも、
このままでいいとも、
言い切れなかった。
グラウンドで見た咲也は、
楽しそうに笑っていた。
気安く軽口を叩いて、
あの男たちと並んでいた。
その輪の中にいる姿が、
少しだけ、遠くに見えた。
——知らない場所にいるみたいに。
胸の奥が、わずかにざわつく。
理由は、分からない。
ただ——
気がつけば、
足が動いていた。
目の前にあったのは、
レガリア・アストラ青山。
足が止まる。
来るつもりは、なかった。
はずなのに。
それでも。
扉を押す。
ロビーの空気が、
静かに肌へ触れた。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
分からないまま、
気づけば動いてしまうこともあるのかもしれません。
感想など頂けると嬉しいです。




