第7話 楽な顔
再会のあとの、静かなグラウンドの話です。
「さくちゃん、すご!」
「今の人たち誰!?」
海斗と陸斗が駆け寄ってくる。
「知り合いだよ」
咲也はそれだけ答える。
「すごかったね!」
「……うん」
双子の頭を軽く撫でる。
「今日はここまで」
コーチ役の男が手を叩く。
「「「ありがとうございましたー!」」」
声が揃う。
いつもの終わり。
いつもの風景。
少しずつ人がはけていく。
グラウンドに、静けさが戻る。
片付けをしながら、
咲也は、ふと気配を感じた。
振り向くと、
神代が立っていた。
さっきより、静かだ。
あいつらがいないからか。
「……何か用か」
「別に」
神代は肩をすくめる。
「確認しに来ただけだ」
「何を」
神代は、まっすぐ咲也を見る。
「戻らないことを、だ」
咲也は、小さく息を吐いた。
「……言っただろ」
「言ってたな」
神代は頷く。
「でもまあ」
少しだけ目を細める。
「言葉より、顔の方が分かりやすい」
「……顔?」
「ああ」
「楽な顔してる」
その一言が、落ちる。
咲也は何も言わない。
ただ、その言葉を受け取る。
「昔は……」
神代が続ける。
「投げてるときも、どっか力入ってた」
「……そうか」
「今は」
「抜けてる」
短い一言。
「は?なんだそりゃ」
思わず声が出る。
けれど、妙に腑に落ちた。
咲也は、空を見上げる。
さっきと同じ青。
でも、さっきより静かに見える。
「……別に」
小さく言う。
「もう、いいからな」
神代は、小さく笑った。
「だろうな」
引き止めない。
否定もしない。
ただ、受け入れている。
「じゃあな」
神代が背を向ける。
「神代」
呼び止める。
足が止まる。
「……ありがとう」
神代は振り返らない。
「礼言われることしてねえよ」
軽い声。
昔と、変わらない。
そのまま、去っていく。
完全に姿が見えなくなるまで、
見送った。
風が通る。
グラウンドには、
もう誰もいない。
「高宮さん」
声が近くでして、
振り向く。
湊が立っていた。
「……見てたか」
「少し聞こえちゃいました」
「すいません」
申し訳なさそうに言ってから、
湊は小さく視線を揺らす。
「でも、戻らないんですね」
「戻らない」
即答。
迷いはない。
「……そうですか」
それ以上は何も言わない。
風が吹く。
静かな午後。
「双子は?」
「夏希さんが迎えに来ました」
「湊くんは、兄さんを送ってってあげてねって」
「ったく。俺は子どもじゃないぞ」
ぼやく。
湊がくすりと笑う。
「帰るか」
「はい」
並んで歩き出す。
いつも通りの距離。
けれど、
湊はどこか考え込むように、前を見ていた。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
「戻らない」と決めたあとだからこそ、
昔の仲間とも向き合えたのかもしれません。
感想など頂けると嬉しいです。




