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第77話 開店前

開店前のBar Haven。


まだ客のいない店内での、いつものやり取りです。


Bar Haven。


開店前。


湊はバックヤードの小さなテーブルで弁当を広げていた。


中身は小ぶりのおにぎりが三つ。


鮭。


きんぴら。


鶏そぼろと卵。


具が多めに入っていて、

それだけで十分食事になる。


隣には小さなタッパー。


中身は胡瓜の浅漬けだった。


忙しい時でも食べやすいように。

作ってくれたあの人の心遣いがありがたい。


「今日も高宮さんのお弁当?」


カウンターの方から声が飛んでくる。


顔を上げると、マスターがバックヤードを覗き込んでいる。


「そうです」


答えながらおにぎりを口に運ぶ。


「毎日手作りかぁ。幸せ者だねぇ」


「そうですね」


「うわ、認めた」


「蒼井が惚気てる」


「違います。事実です」


キッパリ言うと


マスターが吹き出す声が聞こえた。


湊は気にせず食事を続ける。


ふと。


「あ、そうだ」


マスターが思い出したように言った。


「昨日、和葉来たよ」


湊の手が止まる。


「和葉が?」


「うん」


「帰る前に挨拶したかったみたい」


実に和葉らしい。


「蒼井によろしくってさ」


「そうですか」


自然と笑みが漏れる。


それからふと顔を上げた。


「でも、高宮さんの話だと」


「後日また来るって言ってましたよね」


「ああ」


マスターが頷く。


「仕事で来るって」


湊も頷いた。


「もう一つの仕事の方でしょうね」


「やっぱり?」


「ええ」


それ以上は言わない。


言う必要もなかった。


「文人君も言ってたけど……これから慌ただしくなりそうだねぇ」


「そうですね」


少し考える。


和葉は昔からそうだった。


責任感が強くて。


人のことばかり気にして。


「昔から抱え込む子でしたから。

無理してないと良いですが」


「そう言うとこ、似てるね」


「誰にですか」


「君に」


即座に否定した。


「似てません」


「そう?」


「全く違います」


あの子はもっと純粋だ。

逃げた自分とは違う。


「そうかなあ。

僕は、似たもの同士だと思うけどね」

マスターがくすりと笑う。


湊は答えず、最後のおにぎりを口に入れた。


浅漬けを一つ摘まむ。


ほどよい塩気が口に残った。


水を飲み、

弁当箱の蓋を閉じる。


「さて」


立ち上がった。


「仕事ですね」


「はーい」


弁当箱を持ってバックヤードを出る。


カウンターへ向かう途中、

小さく息を吐いた。


店内には静かな音楽が流れている。


Bar Havenに、


今日もゆっくりと夜が訪れようとしていた。


読んでくださりありがとうございます。


和葉が帰ったあとも、Bar Havenの日常は続きます。


ただ、周りから見ると似た者同士らしいです。

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