第75話 夢を渡す人
今回は、ちょっと特撮回です。
ヒーローの「表」と「裏」、どちらにも憧れが詰まっています。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
「……でも」
陸斗がぽつりと呟く。
「……湊くんの方が、止めとハネが綺麗」
「ええー!」
清吾はがっくりと肩を落とした。
「……僕、本人なのに」
海斗が無邪気に笑う。
「お父さん、ドンマイ」
清吾はキッと湊を見る。
「僕……負けないからね」
湊は慌てて首を振る。
「い、いえ。僕は素人ですから」
そう言ってから、ふと疑問が浮かぶ。
「そういえば……」
「中の人も、変身ポーズを取るんですか?」
少なくとも今まで見せてもらった作品では、そんなシーンはなかった。
清吾の目が少しだけ輝いた。
「お。よく気づきましたね」
「テレビで映るのは主役の俳優さんだけです。でも、現場では僕たちも何度も変身ポーズを取ります」
「本番では映らないことが多いけど……そうだ」
言いかけて、
清吾が何かを思い出したように立ち上がる。
「ちょっと待ってて」
テレビ台をごそごそと探り、一枚のジャケットケースを取り出した。
「ジャーン! 仮面ライガーBLACK 4Kリマスター完全版!」
「やったー! 完全版だー!」
「……やった」
双子が歓声を上げる。
湊はケースを見つめた。
「この間、観せてもらったものとは違うんですか?」
タイトルは同じだが、パッケージのデザインが少し違うように見える。
なんだか豪華だ。
「ふふふ」
清吾は得意げに笑った。
「4K版は圧倒的な画質の美しさもそうなんだけど、一番の目玉は、当時テレビで放送されたインタビュー映像が特典で入ってることなんです。
ファンが録画してたのが残ってて。こっちは画質は荒いけど、貴重な映像ですよ」
ディスクを入れ、リモコンを操作する。
画面に映し出されたのは、インタビュー会場だった。
主役の俳優。
ヒロイン。
子役の小さな少年。
そして、その隣に座る一人の青年。
「あ……」
思わず声が漏れた。
二十代後半――三十代前半くらいだろうか。
すらりとした長身に、無駄のない筋肉。
主役の俳優と並んでも見劣りしない体格。
その顔には見覚えがあった。
「これ、貴重な映像なんですよ」
清吾が少し嬉しそうに言う。
「中の人がライガーの変身ポーズをしている映像って、多分これしか残ってないんじゃないかな」
少しだけ早送りする。
『それでは最後に、ライガー役のお二人に変身ポーズをお願いします』
司会者の声。
俳優と青年は顔を見合わせ、小さく頷く。
『変身!』
息を合わせてポーズを決める。
主役の俳優も、美しく決まっていた。
作品の中で観たそのままだ。
だが、その隣の青年は――。
ぴたりと止まり、次の動きへ移る一瞬まで美しかった。
「綺麗……」
双子が同時に呟く。
「……湊くんみたい」
陸斗がぽつりと言った。
どうやら双子も、この映像を見るのは初めてらしい。
「やっぱり、蒼井流だからですかね」
清吾が笑う。
「動きが似ているのは」
「はい。
そうだと思います」
湊は静かに頷いた。
清吾を見る。
「……ご存じだったんですね。蒼井流の事」
「師匠から、少しね」
清吾はウィンクする。
「それにしても、湊くんもご存知だったんですね」
TVの青年を示す。
「ええ。中の人ですよね。
仮面ライガーBLACKの」
ポーズを取った青年を見つめたまま、静かにその名を口にする。
「高岡早輝」
Bar Havenで静かにグラスを磨く姿が脳裏によぎった。
年は経ていたが、画面の青年の面影はしっかりと残っていた。
気づいたのは、初めて桐生家に泊まり、双子に観せてもらった時だった。
「オープニングの映像に名前が出ていましたから。
動きにも見覚えがありましたし」
「そうですか」
清吾は楽しそうに笑う。
「じゃあ、これは?」
今度は少年を指差した。
湊は首を傾げる。
作品の中で何度も見た顔だ。
だが、俳優には詳しくない。
「子役の方ですよね」
清吾は悪戯が成功した子どものように笑った。
「実はね」
少し照れくさそうに頭を掻く。
「僕なんです」
「ええー!」
海斗が目を丸くする。
「お父さん!?」
「……分からなかった」
陸斗も素直に驚いていた。
夏希は苦笑する。
「全然顔違うものね」
幼さの残る、ほっぺのふっくらとしたあどけない少年だった。
作中では、少年ライガー隊のリーダーとしてライガーを支えていた。
今の精悍な顔立ちとは似つかない。
清吾は少し照れながら笑った。
「僕、当時は子役をやってたんですよ。天才子役なんて言われたりもしてました」
「でも、師匠に出会って」
画面の青年へ目を向ける。
「アクションで人を感動させる魅力を知ったんです」
「そこからは師匠に押しかけ弟子入りして」
懐かしそうに笑う。
「楽しかったなあ。あの二年間」
少しだけ目を細める。
「高岡夫婦は、僕の憧れであり、目標であり、師匠です」
「高岡夫婦?」
湊が首を傾げる。
そういえば、もう一人『高岡』という名字のスタッフがいた気がする。
しかし、女性ではなかったはずだ。
清吾がにやりと笑う。
「高岡幹久」
そうだ。その名前だった。
高岡早輝のすぐ隣に並んでいた名前。
「幹久と書いて、ミクって読むんです」
「女性……だったんですか」
「ええ」
「結構読み間違えられるんですけど、本人は否定せず、そのまま受け入れてました」
くすりと笑う。
「師匠は面白がって『ミキヒサくん』って呼んでました。
幹久さんもノリノリで『サキちゃん』って呼んで」
「現場は爆笑でした」
「昔のCMの真似らしいんですけど、当時の僕にはよく分からなくて」
肩をすくめる。
「でも、みんな楽しそうでした」
少しだけ表情が柔らかくなる。
「本当に仲のいい夫婦でした」
「二人の黄金期だったんですよね。あれが。
そんな時に関われて、僕は本当に幸せでした」
静かに、しかし力強く続ける。
「僕の目標は、師匠たちがそうだったように、思いと技でお客さんを楽しませることです」
「子どもたちに夢を与えること」
「そう思っています」
湊は静かに頷いた。
「そうですか」
少し微笑む。
「マスター……高岡さんは、いいお弟子さんに恵まれたんですね」
「……そうだと嬉しいです」
照れくさそうに笑いながらも、その顔はどこか誇らしげだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
受け継がれる思いと、夢を届ける人たちのお話でした。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。




