第70話 また、一緒に
二人で手を合わせる。
「いただきます」
静かな部屋に、二人の声が重なった。
湊がスプーンでオムライスを一口すくい、口へ運ぶ。
ゆっくりと噛み、やがて小さく微笑んだ。
「オムライス、美味しいです」
「そうか。良かった」
その笑顔を見て、胸を撫で下ろす。
特別な工夫をした訳でもない。
薄く焼いた卵をかぶせただけの、ごく普通のオムライスだ。
それでも、これで良かったのだろう。
「好き……だったんです」
湊がぽつりと呟く。
「よく母にねだって、作ってもらいました」
咲也は黙って耳を傾けた。
湊は皿へ視線を落としたまま、ゆっくりと言葉を続ける。
「両親は、交通事故で亡くなりました」
思わず、湊を見る。
湊は無表情だった。
「ただ、僕は六歳だったので……正直、あまり覚えていないんです」
「父のことも、母のことも」
一度言葉が途切れる。
「でも、このオムライスのことだけは覚えていて」
湊の表情が綻ぶ。
「だから、本当に懐かしいです」
咲也は静かに頷いた。
「そうか」
「はい」
湊は笑った。
その笑顔がどこか切なく見えた。
しばらく食器の音が響く。
やがて、湊は小さく息をついてスプーンを置いた。
「すいません。
驚きましたよね。
急にこんな話をして」
「でも、聞いてもらえて良かった」
緊張が和らいだような表情だった。
咲也は、
何を言えばいいのか分からなかった。
だから、思ったことをそのまま口にした。
「また、食べような。
一緒に」
湊は俯いた。
「……はい」
少し掠れたその声を聞いて、咲也はそれ以上何も言わなかった。




