第67話 優しい沈黙
和葉の言葉を聞いた後の、Bar Havenの静かな夜です。
カラン。
扉を開ける。
店内へ戻ると、
カウンターの向こうで湊とマスターが顔を上げた。
「お帰りなさい」
先に声を掛けてきたのは湊だった。
「ただいま」
そう返す。
マスターが面白そうに笑った。
「帰ってきたね」
咲也は苦笑する。
「はい」
そのままカウンター席へ腰を下ろした。
湊は何か言いたそうに咲也を見る。
けれど口は開かない。
代わりに。
「どうせ高宮さん、追いかけて行ったんでしょ。
あのお客さん」
マスターが言った。
「どうだったの?」
遠慮なく聞くマスターに、咲也は少し困って笑う。
湊を見ると、話して大丈夫だというように頷いてくれた。
和葉が泣いたことまでは言わない方がいいだろう。
「……仕事でまたここに来るって言ってました」
「へえ」
マスターが目を瞬く。
「あと」
少しだけ考える。
「お兄さんには幸せになって欲しいって」
湊の肩が僅かに揺れた。
けれど何も言わない。
「優しい弟さんだな」
咲也がぽつりと言う。
湊は俯いた。
「ええ。本当に」
短い返事だった。
マスターは何も言わない。
ただ少しだけ目を細める。
店内には静かな音楽が流れている。
磨かれたグラスが灯りを映す。
誰も何も言わない。
優しい沈黙。
Bar Havenらしい静かな時間だった。
読んでくださりありがとうございます。
言葉にしない優しさもあるのかなと思いながら書きました。




