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第63話 また来ます

いつもありがとうございます。


今回は少し久しぶりの再会のお話です。


どうぞお付き合いください。


Bar Haven。


夜。


低い照明。


グラスの中で、

氷が小さく鳴る。


カウンター席では、

咲也が静かにグラスを傾けていた。


穏やかな夜だった。


その時。


カラン。


扉が開く。


「いらっしゃいませ」


湊が顔を上げる。


そして。


動きが止まった。


怪訝に思い、咲也は顔を上げた。


扉の前に立つ青年を見て、思わず目を瞬く。


昨日、館内を案内した宿泊客だった。


「……高岡様?」


「……和葉?」


咲也と湊の声が重なる。


咲也は思わず隣を見た。


湊は目を見開いていた。


普段の彼には珍しい反応だった。


和葉もまた湊を見つめたまま立ち尽くしていた。


二人とも、

しばらく言葉が出てこないようだった。


和葉は顔を俯けて、

再びあげた顔は照れくさそうだった。


「お久しぶりです。兄さん。

2年ぶりですね」


「……何故ここが分かったんですか?」


「文子さんから聞きました」


和葉は頬をかいた。


「ここで働いてるって」


「ああ……」


湊は小さく頷いた。

「そうですか」


和葉は咲也を見ると、ぺこりと頭を下げて、


カウンター席へ向かった。


「隣、いいですか?」

「ええ」


咲也の隣へ腰を下ろす。


湊へ顔を向けて

「注文いいですか?」


「はい」


湊が答える。

いつもの表情。

先程までの動揺はもう見えなかった。


「ノンアルコールが良いですか?」


「はい」

和葉が遠慮がちに湊を見上げて言う。


「なるべく甘いのが良いです」


その言葉に、

湊の頬がわずかに緩んだ。


「かしこまりました」


氷を入れる。


シェイカーを組む。


数種類のジュースを計量する。


シロップを加える。


静かな動き。


無駄がない。


シャッ、と氷が鳴る。


シェイカーが滑らかに振られる。


和葉は黙ったまま、

その様子を見ていた。


咲也もグラスを傾けながら眺める。


シェイカーを振る姿は相変わらず綺麗だった。


何度見ても飽きない。


やがて。


グラスが置かれる。


夕暮れを思わせる、

淡いオレンジ色のモクテルだった。


和葉が目を細める。


「綺麗ですね」


「ありがとうございます」


グラスを口へ運ぶ。


「美味しいです」


「それは良かった」


湊が微笑んだ。


しばらく静かな時間が流れる。


やがて。


和葉が口を開いた。


「兄さんは」


少し間を置く。


「戻る気はないんですか?」


湊の手が止まる。


「……戻りません」


迷いのない声だった。


和葉は小さく頷く。


「そうですか」


それから。


グラスへ視線を落とした。


「じゃあ」


顔を上げる。


「たまには顔を見せに来てください」


湊は黙ったまま聞いている。


「父さんも喜びます」


静かな声だった。


湊は小さく息を吐いた。


「いいえ」


首を横に振る。


「私は家を出た身ですから」


「迷惑ですよ」


「あの人もそう思っているでしょう」


「……父さんは、そんなこと思ってないです」


和葉は真っ直ぐ湊を見た。


「ずっと心配してました」


「兄さんのこと」


湊は静かに首を振った。


「……そうは思えません」


「私が家を出ると言った時、あの人は止めませんでした」


「そうか、の一言だけです」


「心配しているなら、そんな反応はしないでしょう」


和葉は首を振った。


「兄さん、それは違う。

父さんは――」


「和葉」


湊が静かに遮る。


けれど有無を言わせぬ強さだった。


「もう、その話はやめましょう」


和葉は言葉を失った。


ただ。


しばらく無言で兄を見ていた。


やがて。


ゆっくりと俯いた。


静かに財布から紙幣を取り出してカウンターに置き


立ち上がると


ペコリと頭を下げる。


「ご馳走様でした」


顔を上げる。


湊を見つめた。


「元気そうで良かったです」


「兄さんに会ってきたって自慢しちゃいます。父さんに」


和葉はそう言って、小さく笑った。


湊が口を開く前に、踵を返す。


その背中に。


「和葉」


湊が声をかけた。


和葉は振り返らずに言った。


「また来ます」


カラン。


扉が閉まる。


湊はしばらく扉を見ていた。


その表情から感情は窺えなかった。


咲也は、半ば反射的に立ち上がった。



「高宮さん?」


湊が驚いたように咲也を見る。


「ちょっと出てくる」


それだけ言う。


脳裏に浮かんだのは、最後に見せた和葉の笑顔。


あの青年を、ほっといてはいけないと思った。


読んでくださりありがとうございました。


「また来ます」


その一言に、色々な気持ちが詰まっていたのかもしれません。


また次回もよろしくお願いします。

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