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第62話 見間違いであってほしかった

前回に続いて、ホテルの朝です。

穏やかな朝のはずなのですが、一部穏やかではない人がいるようです。



レガリア・アストラ青山。


ロビーには穏やかな朝の空気が流れていた。


高岡和葉は朝食を終え、

ゆっくりと館内を歩いていた。


窓の外から柔らかな陽射しが室内に注ぐ。


まばらに行き交う宿泊客。


静かに働くスタッフたち。


思いのほかゆっくり休めた。


正式な視察はまだ先。


今はただの宿泊客だ。


だからこそ見えるものもある。


そんな気がしていた。




ベルデスクの前を通る。


軽く会釈をする。


「おはようございます」


スタッフが笑顔を返した。


「おはようございます」


つられて微笑む。


和葉はそのまま歩いていく。



少し離れた場所。


司が固まっていた。


「どうしました?司先輩?」


佐久が不思議そうに首を傾げる。


司は無言だった。


言いたいことが多すぎて、逆に言葉が出なかった。


黙ってロビーを指差した。



その先。


高岡和葉の姿。


佐久が「ああ」と声を漏らす。


「やっぱり見間違いじゃなかったんですね」


「見間違いであってほしかったなあ……」


「でも、奥様の言うとおり……」


司が慌てて佐久の口を塞ぐ。


「黙れ」


「それ以上言うな」


「むぐっ」

佐久が縦に激しく頷いたのを確認し、手を離す。


佐久が口元を押さえた。

「痛いです。ヒリヒリします」


司はため息をついた。


「湊さん達には言ったよ」


「次の蒼井の仕事はここだって」


「……でも、前乗りして来るなんてさ」


予想より来るのが早い。早すぎる。


こめかみを押さえる。

「気合い入ってるじゃん」

小さく息を吐く。

「それはそれで面倒なんだよなあ……」


「そうですか?」


佐久が首を傾げる。


「そうだよ」


即答だ。


「なあ、佐久」


「はい」


「多分あの人、バー行くよな」


佐久は少し考えて。


「はい」


と頷く。


「行くでしょうね」


「目的の半分はそれじゃないですか」


司が天を仰いだ。


「誰が教えたんだよ。

あの人がバーにいるって」


「あ、それはもちろん

司先輩の……」


佐久が言いかける。


「言うな」


「分かったから」


「もう嫌だわ。司家めんどくせぇ」


「まあまあ」


佐久が肩を叩く。


「司先輩も司家でしょう」


「やめろ」


「現実を突きつけるな」




その様子を。


少し離れた場所から。


咲也が不思議そうに見ていた。


「……何やってるんだ?」


珍しく疲れたような顔をしている司と、慰めるように肩を叩く佐久。


理由は分からない。


しかし、

仲が良いのは良いことだ。


そう結論づけると、

咲也はベルデスクへ向かった。



和葉は穏やか。

咲也も穏やか。

司だけが頭を抱えています。

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