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第59話 高岡和葉

新しい人物が登場します。

どうぞ温かく見守っていただければ嬉しいです。



レガリア・アストラ青山。


昼前。


自動ドアが開く。


ベルデスクに立っていた咲也は、自然に顔を上げた。


若い男が一人。


キャリーケースを引いている。


年は二十代前半くらいか。


茶色がかった髪が柔らかそうに跳ねている。


Tシャツにジャケット。


ラフな服装のはずなのに、

どこか場違いなほど緊張しているように見えた。


「いらっしゃいませ」


咲也が声を掛ける。


青年は少し驚いたように顔を上げた。


「あ……」


それから慌てて頭を下げる。


「予約している高岡和葉です」


どこかぎこちない。


「いらっしゃいませ、高岡様。

どうぞこちらへ」


微笑みを浮かべ、フロントへ案内する。


チェックインを済ませたところで、咲也は高岡へ近づいた。


「お部屋までご案内します。

お荷物お持ちします」


「あ、大丈夫です」


高岡が答える。

反射的に断ったように見えた。

ハッとして、言い訳のように


「そんなに重くないので」

遠慮がちに言う。


なんだか初々しい反応だった。

微笑ましく思った。


「そうですか。困りました。

私の仕事がなくなってしまいました」


咲也が言うと


高岡は少し困った顔をした。


ためらうようにキャリーケースを見て、それから観念したように手を離す。

申しなさそうにこちらを見上げて

「お願いします」


「かしこまりました」

キャリーケースを受け取り、エレベーターへ向かう。


しばらく沈黙。


「初めてのご利用ですか」


咲也が聞く。


高岡が頷いた。


「はい。というか、ホテル自体が初めてで」


少し照れたように笑う。



「すごく綺麗で落ち着いた雰囲気に、圧倒されてます」


正直な感想に、思わず咲也の口元が緩んだ。


高岡が不思議そうに見上げる。


「失礼しました。

お客様の反応がとても素直でらっしゃったので」



高岡の顔が赤くなる。


「すいません。

子どもっぽかったですか」


「いいえ」


咲也は首を振った。


「ホテルスタッフとしては嬉しいです。

お客様の率直な感想を頂けて」


正直な気持ちだった。

安心させるように笑いかける。


すると、何故か高岡はさらに顔を赤くして俯いてしまった。



そうこうしているうちに、エレベーターが到着する。


扉が開く。


二人は中へ乗り込んだ。


二人きりの空間に沈黙が落ちる。


「お仕事ですか?」


なんとなく聞いた。


観光客には見えなかった。


高岡は少し考える。


それから曖昧に笑った。


「ここで仕事の予定で」


中空へ視線を向ける。

「早めに見ておきたいと思って、来てしまいました」


下見だろうか。

真面目な人なのだろう。


「準備ですか。熱心でいらっしゃいますね」


高岡が少し笑う。


「いいえ。実は個人的な期待もあるので」


その笑顔には、その若さには似合わない翳りがあった。

何か事情があるのかもしれない。

だが、それ以上尋ねることはしなかった。

ちょうど目的の階に到着する。


客室へ到着する。


荷物を置く。


「ごゆっくりお過ごしください」


「ありがとうございます」


高岡が深く頭を下げた。


背筋の伸びた、美しい礼だった。

その姿に既視感を覚えた。




扉が閉まる。


咲也は廊下を歩きながら思った。


礼をする時の仕草。


背筋の伸び方。


無駄のない動き。


どこか似ている。


誰に。


考えて。


頭に湊の顔が浮かぶ。


そう思った瞬間、自分でも少し可笑しくなった。


ーー考えすぎだ。


この歳になって初めての恋人だ。


気にしすぎて、何でも結びつけてしまうのだろう。


最近、浮かれている自覚はあった。


気を引き締めないとな。

片手で頬を叩き、気持ちを切り替えて、エレベーターへ向かった。


---


ロビーへ降りると、司がいた。

司は呆れたように咲也を見ていた。


「先輩、またやってましたね」


「ん。なんのことだ?」


「無自覚な罪作り」


わからず首を傾げる。

司はたまにこう言うことを言う。


「お客様、顔真っ赤だったじゃないですか」


「ああ。あれはお客様がとても純粋で素直な方だったから。そう言っただけで」


「うっわー。また無自覚に。

しかもお客様に向かって、あの笑顔なんなんですか、罪作りもいいとこですよ」


司は大袈裟に宙を仰いで額を押さえる。


――いや。

どんな笑顔だよ。


思わず心の中でツッコミを入れる。


「有罪です。高宮先輩」


ひょこっと司の背後から顔を出した佐久が言った。


「有罪って、佐久くんまで何言ってんだ?」


呆れて思わずため息をつく。


最近の彼らは仲がいい。


もともとの知り合いだったのだから当然か。


しかし、こうしていると司が二人になったみたいで、それはそれでやりづらい。


「まあ、そこが先輩の先輩らしいところなんですけど……」


「しかし、あのお客様……」


司がちらりとエレベーターを見る。


「ん?」


「いや」


苦笑する。


「知り合いに雰囲気が似てたんですよ」


「そうなのか」


「ええ」


司は肩をすくめた。


「まあ……気のせいかもしれませんけど」


曖昧な笑いだった。


それでも。


司はしばらく、エレベーターの扉を見つめていた。

少し不思議な青年が、

アストラへやって来ました。

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