第57話 フライの気分
いつも読んでくださりありがとうございます。
今日は
社員食堂のお昼の時間です。
社員食堂。
昼時を少し過ぎた時間。
ピークは終わったはずなのに、
今日はまだどこか慌ただしい。
理由は簡単だった。
「すいませーん!
今、食券機使えなくて!」
カウンターの向こうで、
陽子さんの声が飛ぶ。
どうやら食券販売機が故障したらしい。
そのせいで、
スタッフたちはカウンターで直接注文する形になっていた。
カウンター付近には、まだ人だかりができている。
咲也は既に注文を終え、
出来上がった定食を手に席へ着く。
今日もフライ定食。
揚げたてらしい衣が、
きらりと光っている。
サクサクだ。
「お疲れ様です」
声が降ってきた。
見上げると、
司がトレーを持って立っていた。
その上には、
やはりフライ定食。
しかも卵焼き付きだ。
「今日はフライの気分でした」
司が笑う。
ちなみに咲也の皿には、
唐揚げがおまけされていた。
頼んでいないが今回は食券故障の迷惑料らしい。
ご飯も大盛りだ。
もちろん、
頼んでいない。
「陽子さん、
完全に育ち盛り扱いだな……」
「諦めてください」
司が笑う。
「そう言えば、今日は弁当じゃないんですね」
「ああ」
ここのところ、
昼は弁当を作って来ていた。
今日弁当じゃないのは、湊が外食に行くからだ。
湊は休みの日、基本家からあまり出ないらしいが、最近は一人で外へ出ることも増えていた。
この間、
咲也が教えた定食屋へ行ってみるらしい。
それはそれで、
少し嬉しい。
ふと、
カウンターの方を見る。
食券機の前では、
スーツ姿の男がノートPCを繋いで頭を抱えていた。
ホテルのシステム管理会社の人間らしい。
「……認証通らないな……」
イライラした様子で頭を掻く。
「大変そうですね」
司が苦笑した。
その時。
「お疲れ様です」
小さな声。
佐久だった。
手には、
フライ定食。
こちらには麻婆豆腐が追加されている。
「もはや、おまけじゃないな」
咲也が笑う。
佐久は少し困ったように眼鏡を押し上げた。
「なんか、
僕はもっといっぱい食べないとダメだって……」
陽子さんらしい。
最近、
佐久も司に連れられて、
社員食堂を利用するようになったらしい。
最初は渋っていたそうだが。
陽子さんの勢いと、
司の圧に負けたようだった。
そのおかげか。
少し顔色が良くなった気がする。
頬も、
ほんの少しだけふっくらした。
目の下の隈もない。
咲也は少し安心する。
「元気そうだな、佐久くん」
佐久が顔を赤くして頷いた。
「はい。
ありがとうございます」
「なんだよ。
俺にはそんな反応しないのに。素直じゃん」
司が口を尖らせる。
「司先輩は、
デリカシーないので」
「なんだと」
二人のやり取りに、
咲也はくすりと笑った。
「すっかり仲良くなったな」
司が苦笑する。
「まあ、
怖がられなくはなりましたね」
それから、
少し照れくさそうに肩をすくめた。
「大分言うようになりましたけど」
「はは」
そんな会話をしているうちに。
佐久が、
ふと食券機の方を見る。
気になるらしい。
司と目が合う。
司は肩をすくめた。
「行ってきたら?」
佐久は小さく頷いた。
システム会社の男の隣へ行き、
ノートPCを覗き込む。
「あ……
ここ違ってます」
男が顔を上げる。
「え?」
佐久が画面を指差した。
「同期、
ズレてます」
「……あ」
男が慌ててキーボードを叩く。
数秒後。
食券機の画面が切り替わった。
「直った!」
カウンターの向こうで、
陽子さんが声を上げる。
「えー本当。良かったぁ
ありがとう!」
「いえ」
佐久がぎこちなく笑った。
「ずっとパソコン見てると、
見落とす時ありますよね」
「すごいな」
咲也が感心すると。
司が当然のように言う。
「あいつ、
昔からああいうの得意なんです」
「昔から?」
咲也が首を傾げる。
司が一瞬、
しまったという顔をした。
「あ……
すいません」
少し気まずそうに頭を掻く。
「実は知り合いなんです。
職場で言うほどでもないかなと思って、
黙ってました」
「でも」
司が佐久を見る。
その目が少し柔らかくなった。
「この仕事してから、
全然喋ってくれなくて。怖がられるし、しかも逃げられるし」
苦笑する。
「ようやく普通に話せるようになりました。
ありがとうございます」
「そうか」
咲也が頷く。
「良かったな」
それから、
食券機の前で業者と話している佐久を見る。普段より堂々として頼もしい。
「……佐久くん、
情報系の方が向いてそうだな」
「ですよね」
司が即答した。
「なんでベルなんだろうな」
「俺もそれ、
ずっと思ってます」
司も首をひねる。
少し不思議だった。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
今回は社員食堂の日常回でした。




