第54話 生殺し
深夜。
距離が近いほど、眠れなくなる夜もあるようです。
深夜
部屋の灯りが落ちる。
静かな空気。
カーテンの隙間から、
街の明かりが少しだけ差し込んでいた。
ベッドへ入る。
隣に、
湊がいる。
いつもと同じ。
同じ、はずなのに。
今日は妙に近く感じた。
ーー夫婦とか。
咲也さんとなら、なれそうだなって……思っちゃいました
思い出した瞬間。
「……っ」
咲也は顔を覆った。
無理だ。
心臓に悪い。
隣で、
小さく笑う気配。
「……高宮さん」
「なんだよ」
「さっきから落ち着きないですね」
図星だった。
「うるさい」
「ふふ」
楽しそうだった。
余計に腹が立つ。
「蒼井くん」
「はい」
「今日、もう喋るな」
「無理です」
即答。
「なんでだよ……」
「だって」
少しだけ、
近づく気配。
吐息が近い。
「咲也さんの反応、かわいいので」
「……っ」
限界だった。
咲也は枕へ顔を埋める。
後ろで、
湊がくすくす笑っている。
絶対楽しんでる。
「君な……」
「はい」
「わざとやってるだろ」
「ふふ。どうでしょう」
絶対に分かってやってる。たちが悪い。
咲也は深く息を吐く。
静かになる。
少しだけ、
落ち着いたと思った、その時。
背中へ、
そっと腕が回った。
びくりと肩が揺れる。
後ろから、
抱きしめられる。
ぴったりと重なる体温。
「……蒼井くん」
「嫌でしたか?」
低い声。
咲也は答えに詰まる。
嫌なわけがない。
むしろ。
心臓がうるさい。
「……嫌、じゃない」
やっとそれだけ返す。
湊は小さく笑った。
吐息がかかってくすぐったい。
それから。
首筋へ、
そっと唇が触れる。
軽いキス。
「おやすみなさい」
静かな声だった。
それだけ。
本当に、
それだけだった。
しばらく沈黙。
咲也は壁を見つめたまま、
動けない。
背中には、
湊の体温。
規則正しい呼吸。
安心する。
安心するのに。
全然、
落ち着かない。
「……蒼井くん」
「はい」
眠そうな声。
咲也はしばらく黙って。
それから、
小さく呟いた。
「……勘弁してくれ」
一瞬が長く感じられるような沈黙の後。
背中越しに、
湊が吹き出した。
「笑うな」
「すみません」
全然反省してない声だった。
——本当にたちが悪い。
抱きしめておいて。
キスまでしておいて。
それで平然と寝るつもりなのだから。
生殺しだ。
持て余した熱を抱えたまま、
咲也はヤケクソ気味に目を閉じた。
優しいのに生殺し。
そんな夜でした。




