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第45話 違う強さ

静かな日曜日の朝。

ヒーローと、静かな最強の手合わせです。


日曜の朝。


空気は、

まだ少し冷えていた。


公園。

広く開けたグラウンド。

人はまばら。

隔週で開催の青空野球教室は今日はない。


その一角に、

清吾と湊が向かい合っている。


同じように静かに向かい合っているだけなのに、空気がバーの時とは、違う。

緊張感。


少し離れたベンチ。

咲也が座り、

その様子を見ている。


――もう一人来ると言っていたが、まだ姿はない。


「……ここでいいですか」


清吾が言う。


周囲を一度見渡してから、

視線を戻す。


「問題ありません」


湊は短く答える。


清吾は、

ゆっくりと上着を脱ぐ。


中は、薄手のシャツ。

袖を軽くまくる。


すらりとした長身。

細身の奥に、しなやかな筋肉が通っている。


対して湊は、

黒のジャージ姿。

ありふれたはずの装いなのに、

妙に隙がない。


「一応」


まっすぐな目。


「危険なことはなしで」


わずかに間を置いて、


「……手合わせ、という形で」


「問題ありません」


湊は頷く。


清吾が、ふっと息を吐く。


「ルールは、師匠に決めてもらってます」


「――体勢を崩したら、それで一本」


湊は、わずかに頷いた。


清吾が一歩、前に出る。


「……では、参ります」


距離が詰まる。


次の瞬間、

踏み込む。


速い。

無駄がない。

一直線。


右手が伸びる。

狙いは、胸元。


湊は、動かない。


ぎりぎりまで待つ。


入る。


その瞬間。


身体を

わずかにずらす。


それだけで、

軌道が外れる。


湊の手が動く。


清吾の手首を取る。


添えるように。

絡めるように。


ただ、流す。


清吾の身体が、

前に流れる。


「……っ」


思わず声が漏れる。


体勢が崩れる。


そのままだと、確実に地面に倒れる。


パッと手が離れる。

清吾が踏ん張り、体勢を立て直す。


「……どうしますか」


静かな声。


清吾は、一度距離を取る。


呼吸を整える。


それから、小さく笑う。


「……今ので一本、ってことですよね」


「はい」


短い返答。


「ですが」


視線は逸らさない。


「まだ、あなたも終われなさそうなので」

湊は目を細めて言う。


清吾は、ふっと笑った。


「……なるほど」


素直な声。


「面白い、な」


清吾は

肩を回し

軽く跳んで

身体をほぐす。


ウォーミングアップでさえ魅力的な動きだが

その動きに、

ほんのわずかな引っかかりが混じる。


咲也は、目を細めた。


「じゃあ」


わずかに口元が上がる。


「もう少し、ちゃんといきます」


その瞬間。


空気が変わる。


――軽さが、消える。


踏み込み。

低く潜る。


同じように湊が身をずらそうとした瞬間


「!?」

反対側にのけぞりバク転で遠ざかる。


遠ざかったと思いきや更にそこから飛び出し

湊へ肉薄する。


踏み込みの方向が変わる。

止まらない。



フェイント。

バク転。

切り返し。


それが連続で


「おいおい……」


思わず、声が漏れる。


速い。


素早く無駄のない動き。


けれど――

清吾はどこか、無理をしている。


それでも、その勢いは止まらない。


湊は、フェイントからの攻撃を静かに受ける。清吾に合わせて、最初よりも動きは速い。


触れて、

流す。


動きが続く。


何度も、

何度も。


そのたびに、

力が流される。


やがて、


踏み込みが、わずかに鈍る。

そのまま、動きが止まる。

突き出した右手を湊が絡め取っていた。


静けさが戻る。


息を吐き、

清吾は、ふっと笑う。


「……参りました」


静かに言う。


湊は、何も言わない。


ただ、そこに立っている。


一歩、距離を詰める。


「僕も、参りました。

あなたの動きは綺麗です。とても」


穏やかな声。


「流石に子どもたちのヒーローですね」


それだけ。


清吾は、わずかに目を見張り、

それから、小さく息を吐き、苦笑する。


「本当に、参りましたね」


「へえ」


背後から声。


振り向く。


マスターが、

ゆっくりと歩いてくる。


手をポケットに入れたまま。


「いいもん見せてもらったよ」


少しだけ笑う。


「方向が違うだけだね」


「でも、どっちも正解だ」


咲也は、

二人を見る。


どちらも、

違う強さだった。


彼らの顔が、

少しだけ違って見えた。



勝ち負けというより、

お互いの“強さ”を知る時間だったのかもしれません。

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