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第4話 また明日

青空野球教室の翌日。

Bar Havenでの、静かな月曜の夜の話です。


Bar Haven。


夜。


低い照明。


静かな音楽が

店の奥へゆっくり流れている。


氷の触れ合う小さな音。


グラスを置く音。


落ち着いた夜だった。


湊はカウンターの中で、

静かにグラスを磨いていた。


扉が開く。


「いらっしゃいませ」


自然に顔を上げる。


「蒼井くん、こんばんは」


常連の男が笑う。


「こんばんは」


湊は軽く会釈した。


「いつものやつ、お願いして良い?」


「はい」


氷を入れる。


琥珀色の酒を注ぐ。


静かな手つき。


「相変わらず綺麗に作るねえ」


「ありがとうございます」

湊は小さく微笑んだ。


短いやり取り。


変わらない夜。


そのはずだった。


ふと。


視線が入口へ向く。


誰もいない。


湊は小さく瞬きをした。


そのまま、

またグラスへ視線を戻す。


「どうかした?」


常連客が、

グラスを受け取りながら聞く。


「いえ」


湊は静かに首を振る。


「失礼しました」


しばらくして。


また扉が開く。


反射のように顔を上げる。


別の客だった。


「……いらっしゃいませ」


ほんの少しだけ、

間が空いた。


マスターが、

グラスを拭きながらちらりと視線を向ける。


「どうした、蒼井」


「……何がですか」


「今日は落ち着かない顔してる」


湊は一瞬だけ黙る。


それから、

小さく首を振った。


「いえ」


静かな声。


「なんでもありません」


マスターは、

ふうん、とだけ返した。


それ以上は聞かない。


湊はまたグラスへ視線を落とす。


氷を入れる。


酒を注ぐ。


客と短く言葉を交わす。


「今日は静かだね」


「月曜ですから」


「なるほどねえ」


小さな笑い声。


いつも通り、

仕事はできている。


それでも。


また視線が入口へ向いた。


——来ない。


そこでようやく思い出す。


さっき、自分でも言っていた。


今日は月曜だった。


昨日、

青空野球教室のあと、

そのまま遅番に入っていた。


なら今日は休みだ。


そこまで考えて。


湊は小さく息を吐いた。


「……また明日、ですね」


ぽつりと零れる。


マスターの眉がわずかに動く。


「何か言ったか」


「いえ」


湊は首を振る。


「なんでもありません」


「蒼井、お前さ」


マスターが言いかけて、

口をつぐんだ。


「いや。なんでもないけど」


「何ですか。途中でやめないでください。気持ち悪い」


「ちょっと。気持ち悪いって何よ。おじさん傷ついちゃうんだからね」


「やめて下さい」


よよよ、と泣きついて来るマスターを、

湊は煩わしげに追い払う。


「相変わらずだねえ」


常連客が楽しそうに笑った。


軽口を叩きながら。


静かに、

咲也のいない夜は更けていった。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。


いないことに気づいてしまうのも、

たぶん大事な変化なんだと思います。


感想など頂けると嬉しいです。

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