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第38話 優しい顔

少し賑やかな夜です。



仕事を終えて家へ帰る。


荷物を置いて、軽く着替えて

休みだった湊と合流し、

そのまま夏希の家へ向かった。



「海斗、走らない!」


「陸斗、先に手ぇ洗いなさい!」


賑やかな声が響く。


リビングでは双子が騒ぎ、

キッチンでは夏希が慌ただしく動いていた。


湊が双子に近づき声をかける。

「こんばんは。海斗くん、陸斗くん」

「あ!湊くん!

こんばんは」

「……こんばんは」

湊がぺこりとお辞儀をすると双子も丁寧に返す。


「ところで

僕、手を洗いたいんだけど

洗面所どこだっけ?

教えてもらえるかな?」


「……こっち」

双子たちに連れられて洗面所へ。


「相変わらず扱いがうまいわね」

「だな」


湊は双子の扱いに慣れている。


いや、双子だけじゃない。小さな子ども全般に慣れているように見えた。


兄弟がいるのかもしれない。


いつかそういう話も聞けたらな、と思った。


咲也はジャケットを脱いで、シャツの袖を捲り上げた。

「手伝う」


夏希が笑う。


「助かるわ」


「悪いな。

晩飯に呼んでもらって」


「いいのいいの。

兄さんたち来ると本当に助かるし」


「正直、安心してご飯作れるし、ゆっくり食べられるし、こっちがお礼言いたいくらいよ」


子どもの世話で自分のことは後回しになりがちだ。

親というのは、そういうものだった。


「そういえば、お前も小さい頃は落ち着きなくて大変だったなあ」

「ちょっと、何よいきなり。昔の事でしょ」

夏希が焦ったように言う。


夏希は元気な子どもだった。

当時の戦隊モノの名乗りを真似したり、仮面ライガー変身ポーズを取ったりしていた。


まさに今の双子のように。子は親に似るとはよく言ったものだ。


そんな妹の面倒をみていたので、子育ての大変さはよく分かる。

「まあ、いつでも呼んでくれ。来れる時は来るから」


「ええ。ありがとう。

あの子達も兄さん達が来ると喜ぶしね」

「そうか」

そう言われて悪い気はしない。


「サラダ作るか?」

「お願い」

冷蔵庫から野菜を取り出す。


その様子を、

夏希がじっと見ていた。


「どうした?」


「……兄さん、優しい顔してるね」


「は?」


思わず聞き返す。


夏希はくすっと笑った。


「なんか雰囲気柔らかい」


「そうか?」


「うん」


そういえば、陽子にも同じような事を言われた。

そんなに分かりやすいだろうか。


咲也は少し黙ってから、

シンク横に野菜を置いた。

「実は、

蒼井くんと、今一緒に住んでる」


いずれ言おうと思っていたことだった。

今言ってもいいだろう。


夏希が目を丸くする。


「そうなんだ」


それから、

ほっとしたように笑った。


「よかったわねえ」


「しかし、兄さんよく思い切ったわねえ。ヘタレなのに」


「おい」


まあ、これまでのことを鑑みると否定はできない。

ため息をついて、


「……あまりにも生活が心配だったからな」


「生活って?」


言葉を選んで


「放っとくと食わないタイプだった。

……だから、放っとけなかった」


目をパチクリさせて

夏希が笑う。

「そっか。兄さんらしいわね」


「愛されちゃってるわね。湊くん」


何か言おうとして、

どうせ無駄かと諦めてそっぽを向く。


「まあな」


夏希は笑って


「ほんとよかった」

「兄さんも、湊くんも」


心底安心したように息を吐く。


リビングから、


「さくちゃーん!」


と海斗の声が飛んできた。

ブンブンと手を振っている。

咲也は手を振り返して苦笑する。


「そういえば兄さん」


夏希が思い出したように言う。


「日曜お願いしてた件だけど」


「ああ、あれか?」


夏希がイベントで家を空ける日。


双子の面倒を頼まれていた。


その日は、

湊も一緒に泊まる予定になっている。


「清吾くんも、

その日休めそうなの」


本来なら、

そこで咲也たちが泊まる理由はなくなる。


咲也は少し考えた。


「……予定通り泊まった方がいいか?」


「ぜひお願い」


即答だった。


「あの人一人にしたら、

何が起こるか未知数すぎて怖いわ」


酷い言われようだった。


だが実際、

清吾の家事能力は人並み以下である。

やって覚えておくどころではなく、覚えない上に2次被害を広げていくのだ。


夏希はすでに、

「家事はしなくていい」

と本人に伝えるくらいに諦めていた。


「ほんと、兄さんに頼んどいてよかった」


咲也は苦笑するしかない。


「ただちょっとね」


夏希が声を潜める。


「湊くんのことも話したんだけど、

なんかちゃんと聞いてない感じするのよね」


「勘違いしてなければいいけど」


そのとき。


双子と一緒にテレビを見ていた湊が、

こちらを振り向いた。


どうやら名前が聞こえたらしい。


咲也は大丈夫だという意味を込めて軽く手を振る。


夏希は、小さく息を吐いた。


「まあ、めんどくさいけど基本いい人だから」


夏希が笑う。


「迷惑かけると思うけど、

ウチのヒーローよろしくね」


「ああ」


……めんどくさい部分は、

否定しないんだな。


咲也は苦笑した。


賑やかな晩ごはんの時間。


家族だからこそ気づく変化もあるのかもしれません。

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