第37話 おかえり
深夜の帰宅後の、静かな夜の話です。
夜中。
静かに扉が開く。
湊が、そっと部屋へ入る。
暗かったリビングに灯りがつく。
小さく息を吐く。
手にしていた紙袋を持ち上げる。
陽子から持たされた唐揚げ。
「若い子はいくら食べても平気よぉ」
帰り際、紙袋ごと渡されたものだ。
冷蔵庫を開ける。
中へ入れる。
それから、テーブルの上にメモを置いた。
『唐揚げあるので、食べてください』
少し考えて、
最後に小さく付け足す。
『陽子さんの差し入れです』
それを書いてから、
くすりと笑った。
シャワーを浴びて着替えると
寝室へ向かう。
扉を開ける。
薄暗い室内。
ベッドの上では、
咲也がもう眠っていた。
以前なら、布団に逃げていたはずなのに。
思い出して、
少しだけ口元が緩む。
静かにベッドへ入る。
その瞬間。
「……おかえり」
低い声。
「起こしましたか?」
「いや。目が覚めただけだ」
眠そうな声。
それでも、
自然に身体がこちらへ寄ってくる。
「楽しかったか? 飲み会」
今日は飲み会だから帰りは遅い。
夕飯もいらないと、伝えてあった。
「先輩方に囲まれて、緊張しましたね」
小さく笑う。
「マスターには、かなりいじられましたし」
「はは」
咲也も少し笑う。
そのまま、
湊はそっと咲也の背に腕を回した。
抱きしめる。
あたたかい。
「……でも、愛されてるんだなって、思いました」
ぽつりと零す。
「ん?」
咲也が、まだ眠たそうに目を細める。
「そうか。先輩方に愛されて、良かったな」
穏やかな声。
「大事だぞ、そういうのは」
ぽんぽんと背中を叩かれる。
違う。
そうじゃない。
でも。
その勘違いも、嫌じゃなかった。
湊は、小さく笑って、
もう一度ぎゅっと抱きしめる。
込み上げてくる感情に、そっと目を閉じる。
切なくて、愛おしい。
咲也は何も言わない。
ただ、眠そうに目を閉じたまま、
湊の背をゆっくり撫でていた。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
陽子さんの唐揚げは、
たぶん深夜に食べるほど美味しいです。
感想など頂けると嬉しいです。




