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第32話 寝袋はダメ

少しずつ、生活が増えていく話です。



帰宅した。


ロビーのポストを開ける。


不在票。


宅配ボックスの案内。


来てたか。


そのまま、宅配ボックスの前へ向かう。


無機質な金属の扉。


番号を押す。


ロックが外れる音。


中に段ボール。


持ち上げる。


それほど重くはない。


部屋に戻る。


玄関の灯りをつける。


段ボールを置く。


視線が、ふと横に流れる。


玄関に入ってすぐの隅。

寝袋。


一瞬、足が止まる。


何も言わずに近づく。

持ち上げる。


軽い。


そのまま、部屋の奥へ押しやる。

壁際の、目立たない場所。


それで終わりだった。


段ボールに手をかける。


開ける。


中には、折りたたまれた布団。


ベッドの横に敷く。


これでいいか。


電気を落とす。


静かな部屋。



夜中に帰宅する。


部屋は静かだった。


扉を閉める。


玄関に入ってすぐの隅。


置いていた寝袋。


それが、さらに奥へ押しやられている。


小さく、苦笑する。


明かりをつける。


ローテーブルの上。


メモ。


手に取る。


『先に寝てる。晩飯、冷蔵庫に』


短く息を吐く。


冷蔵庫を開ける。


ラップのかかった皿と、鍋に入った味噌汁。


取り出す。


温める。


生姜焼き。

味噌汁。

白いご飯。


カウンターに並べる。


座る。


箸を取る。


「……いただきます」


一口。


静かな部屋。


そのまま黙って食べる。


手が止まらない。


気づけば、全部なくなっていた。


少しだけ、肩の力が抜ける。


食器をまとめて流しに運ぶ。


シャワーを浴びる。


湯気。

水音。


何も考えない。


着替える。


そのまま寝室へ向かう。


扉を開ける。


ベッド。


誰もいない。


一歩、入る。


その奥。


壁との隙間。


敷かれた布団。


こんもりと盛り上がっている。


思考が止まる。


近づく。


覗き込む。


「高宮さん?」



のしかかる重みに、目が覚める。


「ん?」


ぼんやりとした視界。


「蒼井くん?」


「なんでここで寝てるんですか」


「蒼井くんは、ベッドで寝な」


まだ眠気の残る頭で言葉をつなぐ。


「寝心地いいから」


「寝袋で寝るなよ」


「一緒に寝ないんですか」


「狭いだろう」


「じゃあ、俺が布団で寝ますから。高宮さんはベッドで」


「いや、だから、君がベッドで……」


言い切る前に、体が浮く。


そのまま、ベッドへと倒れ込む。


眠気に包まれていた意識が一気に戻る。


「蒼井くん」


顔が近い。


「一緒に寝ましょう」


逆らえるわけもなかった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。


寝袋に対抗意識を燃やす咲也でした。


感想など頂けると嬉しいです。

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