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第31話 可愛いな

少しだけ、Bar Havenの夜が賑やかな話です。


「……そろそろ帰る」


グラスを置く。


「はい、ありがとうございます」


湊が静かに応じる。


立ち上がる。


会計を済ませながら、思い出したように言う。


「先に寝てるから」


「鍵、あるだろ」


「風呂も、好きに使って構わない」


「はい」


短い返事。


それだけなのに、少しだけ空気がやわらぐ。


そのとき。


「おや」


「今日は高宮さんちにお泊まりかい?蒼井」


マスターが面白そうに笑う。


「ええ」


「少しの間、高宮さんのところにご厄介になることになりまして」


湊が言うと、


「へえ?」


「そりゃまた。なんでそんなことになったの?」


マスターが軽く首を傾げる。


「それは……」

湊が言い淀む。


咲也が割って入る。


「……あの家に置いておくの、正直心配で」


「つい、というか……」


「ああ」


マスターが小さく頷く。


「高宮さんも、あの部屋見ちゃったか」


「……マスターもですか?」


思わず身を乗り出す。


マスターが大きく頷く。


「そうそう。やばいよね、あれ」


「……本人の目の前で言うことじゃないと思いますけど」


湊が冷たくマスターを見る。


マスターは慣れたように軽く受け流して、続ける。


「まあ、前からやばいとは思ってたけどさ」


肩をすくめる。


「俺にできること、あんまなくて」


「せいぜい賄い食わせるくらいで」


軽く笑う。


「でもまあ、よかったな」


声のトーンが落ちる。


「高宮さん、面倒見いいからな」


「世話になれ」


湊は一瞬、

言葉を失い、俯く。


「……はい」


短い返事。


マスターが満足そうに頷く。


「よしよし」


がしがしと、湊の頭を撫でる。


「やめてください」


嫌そうに言うが、本気で嫌がっている様子ではない。


その様子に、口元が緩む。


「笑いましたか」


向けられる湊の視線。


どこか恨めしそうで、子どもっぽい。


いつも大人びているのに、こんな顔もするのか。


少し意外だった。


口元が緩む。


「可愛いな」


湊の目が見開かれる。


何か変なことを言っただろうか。


首を傾げる。


それを見たマスターがぷっと吹き出す。


「高宮さんには敵わないね。蒼井」


マスターは、湊の物言いたげな視線を受け流し、

ぽんぽんとその頭を軽く叩き、話し始める。

「そうなんですよ、こいつ意外と可愛いとこあって」


「黙ってください」

湊の制止も気にした様子もなく、マスターは続ける。

「この間なんてさあ……」

結局、

流れのまま、

マスターの“湊可愛いエピソード”を聞かされることになり、


気づけば、

咲也は温かい気持ちになっていた。


やや疲れた顔の湊を残して、

咲也は店を後にする。


視線が、ほんの一瞬だけ湊と合う。


それ以上は、何も言わない。


「じゃあ、またな」


軽く手を上げる。


「はい。お疲れさまです」


扉を押す。


外の空気。


夜は、まだ静かだった。


ここまでお読み頂きありがとうございます。


マスターは、たぶん前から全部気づいていました。


そして咲也は、

少しずつ湊の“可愛いところ”を知っていくみたいです。


感想など頂けると嬉しいです。

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