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第30話 あの距離で
少しだけ、落ち着かない夜の話です。
Bar Havenの空気は、
いつも通り落ち着いていた。
低い照明。
静かな音楽。
変わらない夜。
グラスを持つ手が、わずかに止まる。
「……どうかしましたか」
湊の声。
「……いや」
短く返す。
それだけ。
でも、頭から離れない。
朝のこと。
距離。
あと、ほんの少し。
そこで、止まった。
いや、止めた。
あの距離で。
何を、しようとしていたのか。
分かっている。
分かっているのに、言葉にしたくない。
グラスを置く。
音が、わずかに強い。
「……参ったな」
カウンターの向こう。
湊がいる。
何も言わない。
いつも通り。
でも、視線が気になる。
蒼井くんは——
気づいていたのか。
分からない。
それでも、あの距離で
何も感じていないとは思えない。
息を吐く。
落ち着かない。
今までになかった感覚。
逃げたいわけじゃない。
でも、どう扱えばいいか分からない。
グラスに口をつける。
味が、よく分からない。
ふと、視線が上がる。
湊と、目が合う。
一瞬。
逸らす。
ダメだ。
これは、もう。
戻らない。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
いつも通りのBar Haven。
いつも通りのはずなのに、
咲也だけが落ち着いていませんでした。
感想など頂けると嬉しいです。




