表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/63

第27話 狭いけれど

少しだけ、距離が近すぎる夜の話です。




咲也はひとつ息をつき、


「蒼井くん」


低く呼ぶ。


「風呂入ってくるから、先に寝てくれ」


「……はい」


湊が素直に頷く。


しかし、何故か寝室を出ようとするので、その肩を掴んで引き留める。


「どこ行く?」


「ソファお借りします」


「いや、だから君はベッドで寝て……」


「そしたら高宮さんはソファですよね」


「う……」

膠着状態が続き、白旗を上げたのは、咲也だった。


「分かった」


「一緒にベッドで寝るから。先に寝てくれ」


「はい」

湊がうなづき、ベッドに入るのを見届けてから、背を向ける。


そのまま、風呂場へ向かう。


シャワーを捻る。


冷たい水を、頭から浴びる。


「……っ」


息を吐く。


落ち着け。


そう思っても、うまくいかない。


「……びっくりした」


小さく、呟く。


確かに、そうなってもいいと言った。


でも、実際にされると違う。


「……本当に、心臓がもたない」


苦く笑う。


湯船に浸かる。


じんわりと、体が温まる。


それでも——


ふと、思い出してしまう。


風呂を軽く掃除する。


無駄に手を動かす。


何も考えないために。


風呂から上がる頃には、もう深夜に近かった。


タオルで髪を拭きながら、リビングに戻る。


寝室を覗くと、湊はもう眠っていた。


静かな寝息に、小さく息を吐く。


「……今は、無理だな」


さっき触れた体温が、頭から離れない。


そのまま、ソファに体を預ける。


目を閉じる。


それくらいが、ちょうどいい。


早急に布団を買ってこよう。


意識が落ちる直前、そんなことを考えていた。


そのとき。


「こんなところで寝るんですか」


声。


目を開ける。


すぐ近くに、湊が立っていた。


「……起きてたのか」


「ダメです」


きっぱりとした声。


次の瞬間、体が持ち上がる。


視界が揺れる。


気づいたときには、湊の腕の中だった。


「蒼井くん」


声が、わずかに掠れる。


昨晩とは逆だった。


今は自分が、湊の腕の中にいる。


距離が、近い。


顔が熱い。


鼓動が、やけに早い。


思わず、両手で顔を覆う。


顔を見られたくなかった。


こんな歳になって、

ここまで振り回されるとは思わなかった。


「……本当にもう、勘弁してくれ」


自分でも情けなくなるくらいの、小さな声。


湊の気配だけが、近い。


「……すみません」


「いじめすぎました」


「これ以上は困らせません」


「……本当か?」


ゆっくりと、顔を覆っていた手を外す。


視線を上げる。


湊が、少しだけ苦笑していた。


「信用、なくなっちゃいましたね」


「……まあな」


「じゃあ、これだけ」


ほんのわずかに、顔が寄る。


額に、柔らかな感触が触れた。


一瞬。


すぐに離れる。


「蒼井くん……!」


湊が、わずかに笑う。


そのまま、ベッドに運ばれ、そっと降ろされる。


湊の体温が、まだ近くにあった。


「……一緒に寝ましょう」


静かな声。


「嫌なら、俺がソファで寝ますから」


その表情が、少しだけ切ない。


咲也は、小さく息を吐く。


「……分かった」


それだけ言う。


ベッドに入る。


狭い。


でも、温かい。


言葉はない。


それでも、離れない。


気づけば、

咲也は眠っていた。


ここまでお読み頂きありがとうございます。


落ち着きたい咲也と、

距離を詰めたい湊でした。


それでも最後は、

ちゃんと隣で眠れたみたいです。


感想など頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ