第24話 目が離せない
少しだけ、言葉にする話です。
連れて行ったのは
湊の家から近い場所にある
定食屋だった。
湊の前に、ホッケ焼きの定食が置かれる。
味噌汁の湯気が、静かに立つ。
「品数、多いですね」
湊が目を瞬かせる。
「普通だよ」
笑って言う。
「手間かかるけど、うまいんだよな、これ」
湊の箸が止まる。
「食べろ」
「はい」
少しずつ、口に運ぶ。
味を確かめるように、ゆっくりと噛む。
もう一口。
箸が、進む。
咲也はその動きを見ていた。
「ご馳走様でした」
湊が箸を置く。
皿は、きれいに空だった。
湊が、少しだけ目を丸くした。
「美味しかったです。全部、食べられちゃいました」
「だろ?」
咲也の口元が、わずかに緩む。
正直少しだけホッとした。
そして、これだけではまだ足りないとも思った。
⸻
店を出る。
外は、まだ少し明るい。
風が、ゆるく抜ける。
並んで歩く。
足音が、揃う。
湊は、何も言わない。
ただ、少しだけ歩く速さを合わせる。
咲也は、すうと息を吸い、吐いた。
考えていたことを思い切って言葉にする。
「蒼井くん」
「はい」
「しばらく、うちに来ないか」
足が止まる。
「これは俺のエゴなんだが、
あの部屋に、君を帰したくない」
食事だって、一度きりじゃ足りない気がした。
このまま、放っておけない。
湊は、わずかに視線を落とす。
次に顔を上げる。
視線が、まっすぐ向く。
「一緒にいたら」
言葉を選ぶ。
「俺、普通に我慢できないと思います」
咲也が問い返す前に、
湊は続けた。
「……襲いますよ。高宮さんのこと」
視線が、まっすぐ咲也を射抜く。
「だから、もっと危機意識持った方がいいです」
「いいよ」
短く、言い切る。
湊が驚いたように目を見張る。
「だって」
一息に言う。
「付き合ってるだろ、俺たち」
「え?」
湊の目が、見開かれる。
その反応に、咲也は言葉を失う。
沈黙が、長い。
遅れて、
顔が、熱を持つ。
「あ……そうか」
また、勘違いしたのか。
あの時と同じように。
目を伏せる。
「すまない」
「思い込んでいた。年甲斐もなく。君もそう思ってくれているのかと」
それ以上は言い訳しない。
くるりと踵を返す。
湊の顔を見ないまま、
「今日はもう、帰るな」
短く言う。
「頭、冷やすよ」
勘違いが恥ずかしくてまともに顔を見れなかった。
「埋め合わせは、また改めて——」
言って立ち去ろうと足早に歩を進める。
ぐい、と手を引かれる。
「待って」
振り返る。
湊が、まっすぐこちらを見ている。
視線が、外れない。
「待ってください」
息が、少し乱れている。
「付き合ってるんですね」
確かめるように、
湊が繰り返す
「俺たち」
咲也は、ほんの一瞬だけ言葉に詰まる。
「……俺は、そう思い込んでいた。すまなかった」
湊は、少しだけ俯く。
何かを、噛み締めるように。
それから、顔を上げる。
「良かった」
ふっと、笑う。
咲也は言葉を失う。
どこか泣き笑いのような顔だった。
ふと思い出す。
以前、合気道の話をした時のことを。
あの時も。
湊はこんな顔で笑っていた気がした。
理由は分からない。
ただ。
目が離せなかったことだけは覚えている。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
言葉にしないまま進んできた二人が、
ようやく少しだけ同じ場所に立てた回でした。
感想など頂けると嬉しいです。




