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第22話 生活の気配

静かな朝の話です。



目を開ける。


視界いっぱいに、

咲也の顔。


一瞬、呼吸が止まる。


近い。


近すぎる。


吐息が、かすかに触れる。


咲也の瞼がゆっくりと開く。


視線が合う。


逸らせない。


心臓が、


一拍、遅れて強く鳴る。


「……おはよう」


少しだけ気だるげな声が艶っぽい。

こみあげそうになる衝動を抑えつけ、


「……おはようございます」


なんとか返す。


「……そろそろ離してくれないか」


はっとする。


自分の腕。

しっかりと抱きついている。


「……すみません」


慌てて離す。


ーーやってしまった。

昨夜のことが、はっきりと蘇る。


夢だと思っていたから、甘えられたのに。


咲也は、何も言わない。


少しだけ笑って、

そのまま起き上がる。


軽く、湊の頭に触れる。


「腹減ってないか?」


「……え」


「朝飯、作るよ」


自然な声。


昨日のことには、触れない。


それがありがたくて、

少しだけ息が抜ける。



カウンターに並ぶ。


トースト。

ジャム。

スクランブルエッグ。

オニオンスープ。


「悪いね。サラダはないけど」


「いえ……すごいですね」


「大したもんじゃないよ。冷凍してたやつだ。スープはインスタントだし」


軽く笑う。


湊の向かいに座る。


「……蒼井くんは、いつも朝は何を食べてるんだい」


世間話のつもりだった。


湊は首を傾げ、


そのまま、

言葉が止まる。


咲也は軽く頷く。


「ああ、朝っていうより君の場合は昼か?夜から勤務だもんな」

勤務ギリギリまで寝てるなら昼頃に起きるはずだ。


しかし、それでも湊から返答がない。

「……おい」


少しだけ、眉が寄る。


「まさか君」


湊が目を逸らす。


「……あんまり、食べないですね。ご飯自体」


「出勤前に、時間があれば軽く」


「……インスタントを、か?」


「……まあ。そうですね」


短く答える。


気まずそうに湊の視線が揺れる。


咲也は、小さく息を吐く。


「……そうか」

湊を見る。


すらっと高い身長。

背筋は真っ直ぐで美しい。

整った姿勢。

痩せていると言う印象はない。


だが、


昨夜。


腕に抱えた感触は意外なほどに軽かった。


ちゃんと食べているのかと思って、何気なく聞いてみたら、予想以上の答えが返ってきた。


一体、どういう生活をしているのだろうか。


気になり出したら止まらなかった。



「……なあ」


声をかける。


湊の顔が上がる。


「こんなこと言うのは、本当に申し訳ないんだが」


少しだけ、言葉を選ぶ。


「今日は休みかい」


「……はい」


「実は俺もなんだ」


続ける。


そのあと。


スープから立つ湯気を見つめる。


それから、


「……もしよかったら」

さらっと、重くならないように努めて。


「君の家、お邪魔していいか」


「……え」


小さく声が漏れる。


視線が揺れる。


すぐには答えない。


わずかに迷う気配。


「……はい」


小さく頷く。


表情は変わらない。


ただ、


ほんのわずかに、

何かを飲み込んだように見えた。


ここまでお読み頂きありがとうございます。


少しずつ、

相手の生活へ踏み込んでいく回でした。


感想など頂けると嬉しいです。

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