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第19話 念のため

閉店後の、少しだけ長い夜です。


店内の灯りは落とされて、わずかな明かりだけが残っていた。


気づけば、

閉店時間を過ぎている。


「長居してしまった。すまなかった」


席を立とうとする。


「高宮さん、今日送ります。

もう少し待っていてもらえませんか?」


「え?」

思わず声が漏れた。

我ながらちょっと間抜けな声だと思った。


「さっきみたいに、絡まれたら心配ですから」


「……大丈夫だよ」


咲也は軽く首を振る。


「いつも一人で帰ってるし。問題ない」


「……いえ」


一呼吸おく。


「念のためです」


わずかに苦笑する。


「……心配しすぎだ」


湊の視線が上がる。


真っ直ぐ。


その目と、合う。


言葉が止まる。


そのとき。


「送ってもらいなよ、高宮さん」


マスターの声。


軽い口調。

だが、流せない強さがあった。


「まあ、仕返しはないと思うけどさ」


肩をすくめる。


「夜道は物騒だし」


マスターが、

カウンター越しに身を乗り出す。


「しかもあんた」


少しだけ目を細める。


「わざと、殴られようとしたでしょ」


咲也は黙る。


「……そういうとこだよ」


小さくため息をつく。


「自分を軽く見たこと、ちゃんと反省して」


軽く笑う。


「これは甘んじて受けなさい」


柔らかい声。


でも、拒否はできない。


小さく息を吐く。

湊に向き直り、

「……じゃあ、よろしくお願いするよ」


「はい」

短い返事。


それだけで決まる。


ここまでお読み頂きありがとうございます。


「念のため」に込める言葉は、

案外たくさんあるのかもしれません。


感想など頂けると嬉しいです。

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