第14話 逸らさない
昨夜の続き。
少しだけ変わった、いつものBar Havenです。
昼前。
まだ完全には、
目が覚めていない時間。
カーテンの隙間から、
柔らかな光が差し込んでいる。
ゆっくりと息を吐く。
静かだった。
部屋の中も、
頭の中も。
しばらく、
何も考えないまま天井を見ていた。
ふと。
昨夜のことを思い出す。
——昨夜。
「……君の隣が、一番落ち着く」
「……ずるいです」
わずかに揺れた、
湊の目。
小さく息を吐く。
ベッドから身体を起こした。
変わったはずなのに、
まだ実感がない。
それでも。
確かに、
何かは変わっている。
⸻
Bar Havenの扉を押す。
わずかな空気の変化。
低い照明。
静かな音楽。
いつも通りの夜。
落ち着く。
「いらっしゃいませ」
湊と目が合う。
ほんの一瞬。
すぐに逸れる。
何もなかったみたいに。
咲也は、
いつもの席へ腰を下ろした。
「お疲れ」
「……お疲れさまです」
短いやり取り。
グラスが置かれる。
正確な位置。
触れない距離。
変わらない。
はずなのに。
ほんの少しだけ、
近い気がする。
言葉はない。
でも、
居心地は悪くなかった。
むしろ。
前より、
落ち着く。
そのとき。
扉が開いた。
『よう』
レオンだった。
こちらを見て、
軽く片手を上げる。
そのまま、
自然に店内へ入ってくる。
それから。
咲也の隣へ座る。
相変わらず距離は近い。
だが、
湊の視線は落ち着いていた。
それだけで、
少し安心する。
レオンが、
ちらりと二人を見る。
『……ふーん』
小さく笑った。
『コウタロウの残念会でもやってやるかな』
ひとりごちる。
咲也は答えない。
グラスに口をつける。
レオンは肩をすくめた。
それ以上は、
何も言わない。
ただ。
ちらりと、
湊を見る。
「Beer.」
「……かしこまりました」
湊が動く。
いつも通りの動き。
でも。
ほんの少しだけ違う。
視線が、
もう一度重なる。
今度は。
逸らさない。
それだけで、
十分だった。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
大きく変わったわけではないけれど、
少しずつ距離が変わっていく二人を書きたかった回でした。
感想など頂けると嬉しいです。




