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第13話 君だけだ

閉店後のBar Haven。

言葉にしなかったものを、少しだけ言葉にする夜です。

Bar Haven。


閉店後。


日付が変わって、

しばらく経っていた。


音が消えた店内は、

やけに静かだった。


湊は、

棚へ戻す前のグラスを拭いていた。


咲也は、

その様子をカウンター席から眺めている。


マスターは先に帰った。


店内には、

二人だけ。


なぜか、

席を立つ気になれなかった。


「すまなかった。うるさくして」


「いいえ」


グラスを拭きながら、

湊が静かに返す。


「楽しそうでしたね」


その言葉に、

思わず口元が緩んだ。


「ああ」


自然に出た声だった。


その瞬間。


湊の手が、

わずかに止まる。


沈黙が落ちた。


いつもなら、

気にならないはずの静けさ。


「……あの」


ためらうような声。


すぐに止まる。


一度、

息を飲む。


それでも。


抑えきれなかったみたいに、

言葉が零れた。


「……愛してるんですか」


静かな声。


「……レオンさんのこと」


空気が止まる。


言ってしまってから、

湊はわずかに目を見開いた。


「……すみません」


言葉が揺れる。


「こんなこと、

言うつもりじゃ……」


小さく息を飲む。


それから。


ぽつりと、

落ちるように言った。


「……待てると思っていたのに」


咲也は動かない。


ただ、

静かに聞いている。


「……高宮さんが、

選ぶまで」


声が少しだけ掠れる。


「……でも」


そこで、

言葉が止まった。


俯く。


「待てませんでした」


泣き出しそうな顔だった。


音が消える。


すぐには、

何も返せない。


それだけで、

十分だった。


ゆっくりと、

頭の中でさっきのことをなぞる。


店内。


あいつらとの会話。


距離。


それから——


湊の肩が、

強張った瞬間。


思い当たる。


あの時。


自分の口から出た言葉。


「I love you, guys.」


——俺も、お前らのこと好きだ。


あれか、と思う。


でも。


それだけじゃない。


もっと前から、

何かがずれていた。


逃げることもできる。


分からないふりもできる。


今までみたいに。


でも。


それは、

やめると決めた。


——ちゃんと、伝えろよ。


ふと、

レオンの言葉が浮かぶ。


小さく息を吐く。


「……蒼井くん」


湊が顔を上げる。


「……さっきの“love”は」


少しだけ、

言葉を選ぶ。


「……あいつらに言ったのは」


視線を逸らして、

続けた。


「仲間として、

信頼してるって意味で」


一瞬、

言葉を探すように止まる。


「……言葉って難しいな」


小さく苦笑する。


それから。


今度は、

目を逸らさなかった。


「……でも」


静かな声。


「……君が思ってるような意味で使うなら」


まっすぐ、

湊を見る。


「……君だけだ」


湊が動かない。


その目が、

ほんの少しだけ揺れる。


「……君の隣が、

一番落ち着く」


言葉が落ちる。


静かに。


そのまま、

夜の空気へ沈んでいく。


湊は、

しばらく何も言わなかった。


やがて。


「……ずるいです」


小さく、

でも確かに届く声。


それだけ。


それ以上は、

何も言わない。


でも。


もう、

十分だった。


静かな夜。


何も変わらないはずの場所で。


たった一つだけ。


確かに、

変わった。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。


待てなかった夜と、

逃げなかった夜の話でした。


感想など頂けると嬉しいです。

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